第一章【出会い】
第1話【草原にて】
「うわぁ……マジで転移させやがった……」
最弱の魔王を倒して世界を救った勇者とか言われたくない。女装勇者シザリス・リッパ―としてこの世界に語り継がれるとか地獄すぎないか? えっ普通に辛くなってきた。
「どーすっかな……」
ここは駆け出し冒険者が集まる草原だと思うが、俺には経験値が少なすぎて狩るモンスターが居ないどころか俺の強さに恐れをなしたモンスターが逃げるレベル。俺TUEEので。魔王城は此処から徒歩五分圏内にあるけどこうなったらまわり道してめちゃくちゃ時間掛けて旅してやろーと心に決めた瞬間、背後にある木の影から物凄い魔力を感じた――常時増え続けているような、無茶苦茶膨大な魔力だ。こんな凄い魔物ってまだ生きてたのか。敵意は特に感じないが、警戒の為に構えていると、木の影からチラッと女の子の姿が見えた。全体的に紫色で、可愛らしい姿をしたアリックス好みの美少女。更に言うと、ついさっき見た。
「……もしや、魔王の、娘?」
「なんで知ってるの」
意外にも、返答が返ってきた。絵で見た姿よりも随分不機嫌な様子になぜか安心してしまった。あんな無理やり笑わせてます! みたいなのよりこっちの方が生き物って感じするな。
「えーっと、……私の名前はシザリス・リッパー。アリックス王の命を受けて、あなたの事を探してたの。君の名前は?」
女の子だし優しい対応した方が良いよなぁ……という優しさである。女装しているせいか、大抵の人は初見の俺を女だと思ってしまうらしい。
「私はエネミー・ヴァイオレット。知っての通り魔王の娘よ。今はアリックス王の嫁になりに王都目指してるわ」
「なるほどなぁ……じゃあ、嫁入り前に俺と旅しよう!」
なんというか、出会ってしまった以上あんなロリコン王と結婚させてしまうのは良心が許さなかった……というか、なんか世間知らずっぽそうだし、子供向けの物語でよくある、「俺が世界を見せてやる」って感じで良いかなって。さて、脳内会議で連れて行く事は決まったが、合意を得られるとも思ってない為、少女の様子を伺う。俺はアリックスと違って無理矢理嫌がる少女を襲う趣味はない。
「命令を受けてるのに、私の事連れ出しちゃっても良いの? とっても危険な悪魔なのよ、わたし」
少しだけ考えるように、こちらを試すような挑発的な瞳で俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。その視線があまりにも昔、俺を慕ってくれていた妹の姿と重なってしまってどこか気まずくなってしまった俺は、思わず目を逸らす。
「……別に、そんな危険に見えないし。王様のトコいったら自由も無い……だろうし。まあ、バレたら俺は死ぬだろうけど、まあそれでも良いかなって」
「私の為なら迷わず命をくれるってこと? 初対面なのに愛が深いわね……ろりこんって奴? 気持ち悪……」
「いやいやいや?! 拡大解釈じゃんそれ!! ちげーわ! つまり俺がお前に世界を見せてやるってこと!」
これ以上の反論があっても面倒だし、実際今面倒になっている! ので有無を言わさないよう彼女の手を握った。冷たいけれど、意外と体温は人間に近い。何処か落ち着く心を律するように、それ以上深く考えないように走り出した。
ーーこうして、『勇者』と呼ばれた青年と魔王の娘による物語が始まったのでした。
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