第2話【ライアヴィス】

 ライアヴィスーー王都から程々に近い歴史ある村である。勇者を産み出してきたと言われる観光地としても有名で、いつも人で賑わう大きめの街だ。あの後、走り出して数秒で疲れたと喚くエネミーを小脇に抱えつつ、俺は適当な食堂付きの宿の一番良い部屋を取った。

「ぷはぁ……あんたなんなの? 意味わかんないんだけど」

 部屋に入り、ベッドの上でエネミーを放り投げるように離してやる。早速文句を言われたが気にしない。ぷくぅ、と少女らしく膨らむ頬を潰してやると、情けなく空気の抜ける音がした。

「う〜む。や、見れば見るほどガキだな〜と」

「それって失礼じゃない? 一応私、貴方の王様に嫁ぐんですけど」

 リボンを無理矢理付けてます! という格好をしているエネミーは、ベッドの縁に腰を掛けると無い胸を張って「女王様よ」と言う。実際、この『女王様』が王様の元へ嫁に行ったとして、表に出される事が無いぞ……と言いたいところであるが、特に言う必要も無い気がして適当に返事をする。

「ふん、まあ良いわ。とりあえずお腹減ったから、何か用意して」

 高飛車な雰囲気を隠す事もせず、腕を組み目を細めて命令を下してくる感じがアリックスの姿と重なり思わず即座に返事をしてしまった。その後は「さっさと行って」という無情な命令を受け休む間もなく外へ出された。割とあの性癖ねじ曲がりアリックス様と上手くやっていけるのでは? いや、けど……少し後悔を感じながらも、俺は村の市場へと向かった。食堂のおばちゃんに頼んで持ち帰る、っていうのが一番早いと思うが、ライアヴィスの村を見て回りたくなったのだから仕方ない。エネミーにはしばらく空腹を我慢して貰うとする。



「お前ッ! 『ジョソウ』勇者だよな?! 俺、俺も勇者に憧れてて……ッ!」

 ーーどうして、何も言ってないのに…………と村を歩き回ってしまう選択をした自分を殺したくなってしまった。そう、何を隠そうあのクソアリックスは俺の事を分かっている。俺がアイツの命令には逆らわないけど寄り道は全力ですることを見越したらしく、先手を打たれて姿絵と共に『女装勇者、魔王討伐か?!』というチラシが至る所に貼られていた。ツボがあったら壊したいとはこの事か。

「そっか……ありがとう」

 事務的にあしらい、適当にそれっぽく受け流して子供達や珍しそうにこちらを見る大人、俺が女装しているのを見るとヒソヒソとあからさまに噂話に興じる奥様方を避けながら屋台を物色しているが、勇者に強い憧れを持っているという少年ーー金髪に青い瞳で端正な顔立ちをした如何にも勇者です! という子が俺の服を引きちぎらんばかりに掴み、興奮したように話しかけてくるのを無碍にもできず、俺の足はどんどん宿の方へ逃げ足になっていた。

「え、えーと少年! 君には【勇者見習い】という称号をあげよう! だから……」

「俺も、勇者になれるのか?!」

 だから、離してください……という言葉は少年の熱で燃やされた。


 ▼ 少年 が 仲間 に なった !

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