第9話:孤独と自由
11月7日 晴 306km
Whitsunday→Bowen→Townsville(YH)
朝、給油のため立ち寄ったガソリンスタンドで、同じくバイクで旅するヤツと出会った。同じひとり旅ということもあり話しも弾み、同じ方向に向かうとあって、いっしょに走ることにした。単車を連ねて走っているだけで、妙に連帯感・仲間意識が生まれ、こんなにウキウキしてくるものかと、久々に実感する。今思うとこの旅を始めた当初は、ひとりで旅することに、無意識のうちに寂しく感じていたとも改めて気づく。客観的に考えて、異国の地で、その日の行き先・宿さえ決めず、行き当たりばったりの無計画な旅をあえてしようとしているのだから、不安を感じないといえばウソになるし、まして話し合い相談する相手がいないのだから孤独感に取りつかれないわけがなかった。今、新しい仲間との楽しいウキウキツーリング。しかし、時間経過とともに、楽しい気分とは裏腹に、心のどこかに疑問・矛盾が染み出てくる。その得体の知れない違和感は何なのか。
その夜、友とテントを並べ、同じ火を囲み、ウイスキーを飲み交わした。ほんと楽しかった・・・はずだ。でも、どういうべきか、上手く説明できない。こうして今日いっしょに走ってきたこと自体が、求めているものとは微妙に違っている。その思いはふたりとも同じだった。
声をかける相手がすぐ近くにいる。それはすごく心強く、楽であることには間違いなかった。でも、それなりの決心・思いを持って、ひとりで旅を続けてくると、すでに少なからずの覚悟もできて、ひとりでいるに慣れ、そして一人で考え決めることが身についてくると、かえって気にしなければいけない相手がいることが煩わしく思えてきてしまう。当初の連れ立って走っているときの心地よい連帯感が、次第にスピードを相手に合わせないといけないというまどろっこしい『じれったさ』に変わってくる。気に入った景色に出くわしてもさっと止まることも出来ない。気持ちが風に乗っているのに、気ままにかっ飛ばせない。わずか今日一日の走りで、二人の中に、かような束縛感が、身にまとをりつくハエのように感じ出していた。
考えると、バイクの旅なんて、走っているときは話もできないのだから、ひとりでも複数でもさしてかわりはない。実際、ひとり旅でもバイクを降りると、求めればいつでも話し相手を捕まえられるし、困っていれば助けてくれる輩もそれなりにいるものだ。ましてバイクで一人旅をしているとあらば、誰彼となく向こうさんからめずらしがって話しかけて来てくれる。仲間内での旅のマイナスは案外そこにあり、せっかくの旅先で内輪だけの世界を作ってしまい、新たな出会いを知らずのうちに逃してしまっていると言えるのかもしれない。
何が悲しくって一人旅なんて・・・。ひとり旅イコール孤独な寂しい旅と考えるのは、実は体験したことの無い者の想像にすぎない。ひとりの自由を欲すれば孤独は付き物だし、全く別なことのようでも表裏一体となっている。だから、誓って、自由イコール寂しいとはならない。俺の経験する限りでは、ましてやひとり旅の方が、いろいろなことや人との発見・出会いが待っているし、その分だけ感動も多いかもしれない。「5泊6日ヨーロッパ横断の旅」・「お揃いのTシャツを着て記念撮影」・「ABCストアの手提げ袋いっぱいのマカデミアンナッツ」、無数の撮られた写真にはどんな思い出がつまっているのか。そんな彼らの旅行の仕方こそ、知らずに目に見えないマニュアルに自らが束縛され、旅の感動は決して想像を超えることはない。ま、人それぞれの旅の楽しみ方があっていいのだが。ひがみも混じって
また、ひとり気まま自由な旅も、実は、他人と関わりという意味では、仲間内との旅行よりも、正に一期一会であり、人に気を配り大切にしなければならない。
本当は仲間内との旅行も楽しいのは分かっているが、そこはひとり旅の最中の二人、こんなおかしくもないひがみ混じりの話を、消えかけた薪を前にして真剣に語らった。しんみりしたお互いの姿は、残り火の虚ろな影となって、おかしく滑稽に揺れていた。
向かい合う相手: 「明日、この町をぶらりと歩いてみるよ」
俺: 「俺は次の町を目指すよ。」
相手: 「また、どこかでな、頑張れよ」
俺: 「お前もな。怪我するなよ。元気でな。」
歯の浮くようなセリフに、大笑いしてその夜は終わりにした。
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