第7話:人は見かけ
11月5日 晴 553km
→Marlborough→Sarina→Mackay→Proserpine→アーリービーチ(BP)
マッカイという町を過ぎたあたりから、休憩でバイクを止めるとごとに、人から「アーリービーチに行くのかい?」とか「ウィットサンディにいくのかい?」とよく聞かれる。感じからすると、どうもかなりの観光スポットらしい。気にもしてなかったが、興味が沸いてくると言うものだ。次に聞かれたとき、そこに何があるのか聞いてみた。
ウィットサンディとはグレイトバリアリーフ(2000キロに渡る世界きってのさんご礁郡)に点在する島々の総称のことで、アーリービーチとは大陸からそこに行く拠点となるところらしい。とにかく行くしかないだろ。が、いざ意気込んでアーリービーチに行ってみると、リゾートを満喫するならここしかないという触れ込みだったので、ゴールドコーストの摩天楼ビーチを想像して行ってみたのだが、拍子抜けを食らってしまった。期待が大きすぎたためか、アーリービーチのリゾート度はゴールドコーストに比べると100分1だった。はっきり言ってショボかった。これなら通り過ぎようかと考えながらも、とりあえずメインストリート(と呼べるなら)をバイクで流してみることにした。1件やけににぎやかなパブを発見。オープンカフェ(パブ?)の席でノースリーブのリゾートワンピースを着たダイナマイトバディが喉を唸らせながら豪快にビールをあおっているではないか。この町に宿を取ろう、決意。人が集まる観光地であったので、盗難を免れるためにもテントでなくきちっと宿を取ることにしていた。といっても、共同部屋なのだが。荷を解き、早速お目当てのパブに出かける。
中は入ると、二人の若者に呼びとめられた。若者:「さっきのバイクの君か」。俺:「そうだよ」。若者:「俺たちもバイクで旅してんだ。いっしょに飲もうぜ」。片割れが既に俺のビールを注文していた。彼らはドイツからやってきていて、僕は日本人だというとたいそう喜んでくれた。その理由はこうだ、『長い歴史を持つ誇り高き民族、大戦で負けたが、今では一流先進国を作り上げた点ではドイツ人も日本人も神に選ばれし人種なので敬意を払う』。それを聞かされたとき、単に酔っ払いのたわ言以上に、行き過ぎ感はあっても、なにか国際的なモノの見方に触れた気がした。他国と隣接し国境を有すると国に住むとはこうことなのか。愛国心、俺の中にそのカケラ、微塵たりともあるだろうか。今まで意識したことの無い感覚。日本は島国、特異な位置にある。だとしたら、このドイツ人の考え方がグローバルスタンダードなのか。日本民族に誇りを持つこと、これが本当は国際感覚の第一歩なのかもしれない。
若者(ドイツ人):「ところで、向こうでバカなオーストラリア人と仲良く話ししているのは、お前と同じ日本人じゃないのか」。
俺:「そうみたいだな。おい、バカなオーストラリア人とはオーストラリアびいきの俺としちゃ、聞き捨てならないな」。
若者:「そういった意味じゃないよ。あのオージーは危険だと言ってんだ。ナリ見りゃわかるだろ」。
俺:「君は、人を外見だ判断するのか」
若者:「おいおい、お前、そんなキレイごとを言うのか。このオージーをよく見てみろ。いい年して仕事にもついていないナリ。それに喋りに教養ないどころか粗野そのもの。これが危険じゃなくてなんなんだ。バカを見たくなけりゃ、ああいうのは絶対相手しちゃいけないね。現にあいついろんなヤツに話しかけていたみたいだけど、あの日本人らしいヤツ以外、誰にも相手さていいなかったからな。カモにされなきゃ、いいがな」。
他人が誰を話しようが勝手だろうが。オーストラリア人・日本人を馬鹿にされたようで、気分が悪い。
翌日の夜、日も沈まないうちからまた同じパブに出かけた。昨日ここで見かけた日本人が、連れに大声で話ししているところだった。
「今朝、昨日の夜知り合った地元の人の家へ遊びに行くと、なんだかんだ文句つけられて、金を脅し取られちまった。殺されるかと思ったよ、畜生」。
それを耳にして、それまで人を見る目は多少なりともあると思っていた自分が、まだまだ甘ちゃんだったことに気づいた。
夜がふけると、陽気なパブが、さらに観光客の熱気に包まれ、絶好調に盛り上がる。本日のメインイベント、ホリゾンタルバンジー ジャンプ(水平バンジージャンプ)なる余興が始まった。それは間抜けなゲーム。自転車のタイヤチューブの端を柱にくくり付け、もう一方の端をプレイヤー(男)の腰に巻きつける。そして、その日のヒロインに選ばれた美女が、プレイヤーとは逆の位置の椅子に腰掛け、その健康的エキゾチックな膝にビールを挟んで、プレイヤーを待ち受ける。その美女までたどり着き、一番にビールを飲み干したら勝ちというゲームだが、これがすごい盛り上がる。。ゴムの張力で易々とビールまで辿りつけないし、例え辿りつけてもビールを飲んでいる途中でゴムの引っ張る力に負けて引き戻されビールを頭からかぶってしまう。何人か挑戦したが失敗に終わる。なら、日本男児の登場でしょ。ダークホースの俺ははなんと一回で成功した。なぜなら、その美女とは、このパブで見かけ、この町に留まるきっかけとなったあのダイナマイトバディちゃんだったからだ。ヒーローとなった俺は司会者に一言を求められ、「彼女を嫁にくれ」とビールを掲げた。観衆はドッと沸く。その後、パブのあちこちから甲高い口笛が聞こえる中、その髪金彼女からのアツーいキスに俺は舞い上がってしまった。
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