word54 「もしも 宇宙戦争起こっていたら」②

 まだこの落ち着かない時間が続くというのなら、気を紛らわせる手段が必要になる。僕にとってそれは、これしかない――。


 昨日までもやっていたこの気を紛らわせるための検索。でも今日のは昨日までのとは違う……良い気の紛らわせ方だ。逃げではない、純粋な。100%で楽しめる気がする検索。


 もし黒いパソコンに起動音があるなら、今日はポップな音。僕は弾むような音を脳内で再生しながら、黒いパソコンを開いた。


 今日の検索の方向性としては長く楽しめるものが良いと思う。まだざっくりとしたイメージだけど、動画検索で何か面白い映像を見るとか。ずっと見れるものが良い。過去未来すべて合わせた物の中で、最も傑作の映画を見たりするのなんてどうだろう。


 でも、何をもって最も傑作だと言うのだろう。その判断基準って何。創作物の好みなんてきっと食べ物の好みよりも人によるのだから、最も観客動員数が多い映画とかを見たとして、果たして僕も面白いと思えるのか。数字を当てにして見てみた映画が面白くないなんてよく聞く話だ。


 じゃあどうしよう。最も傑作の映画とかではなく、今の僕が見て1番面白い映画とか超パソコン任せのものにしてみるか。そんな何でもありの検索が通るのかという気持ちもあるが、たぶん通るし。


「うーん……」


 長く楽しみたいという条件だけなら別に映画じゃなくてもいい。例えば映像じゃなくて画像、映画じゃなくて小説や漫画という手もある。僕の人生では映画を見た時間より漫画を読んだ時間のほうが長いし、未来の名作漫画とか読んでみようか。


 いやここまで来たらいっそ1枚の絵なんてどうだろう。部屋の壁に飾られたジグソーパズルで作られたゴッホのひまわりを見て思いつく。芸術なんてものには小さじ1杯の興味もないが、芸術の到達点みたいな作品を見たら何か心を揺さぶるものがあるかもしれない。


 じゃあさらにいっそ黒いパソコンに絵を描かせるとか、AIが絵を描くくらいだからそんなこともできるかもしれない、全ての答えを知るパソコンが描く芸術の答えか……ちょっと気になる……。僕はふざけているのかと言いたくなる現代アートを頭に浮かべながら考えを続けた……。


 しばらく悩んでようやく検索の方向性が定まった。お昼が近づいて、僕のお腹が鳴った時だった。どうせならこの腹を満たす為に食事をしながら見れるものがいいなと思ったのだ。


 だからつまり、結局最初に戻って映画を見ることにした。


 僕はスマホを使って最近流行っている映画や評価が高い映画がどういったものなのかを検索した。「おすすめ 映画」みたいなワードで検索して、ランキングサイトなんかを閲覧した。


 どんなジャンルの映画を見るか決めるためである。いつ折原から検索が来るかもしれないので早足でサイトを渡り歩いた。そうしていると、何度も1つの映画が目に留まる。


 最近テレビのCMなんかでもよく目にする話題作、海外のアクション映画で宇宙人の侵略をテーマにした映画である。どのサイトでも非常に評価が高い。SNSでも絶賛されている。


 そんなに面白いなら黒いパソコンを使わなくても見れるけどこれを見てみようか。僕は思った。


 そして、次にこうも思った。


 宇宙人の侵略と言えば、もし僕が宇宙戦争を止められていなかったら地球はどうなっていたんだろうと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る