word54 「もしも 宇宙戦争起こっていたら」①

 どうしよう、何であんなことしてしまったんだろう。というか、本当に僕がしたのか。夢じゃないよな。もう彼女のスマホに僕のメッセージが届いてしまっているんだよな。


 それって、ヤバい――。


 完全に正気に戻ったのは翌日の朝のことだった。目を覚まし、ベッドの中で昨夜の出来事を思い出すと、僕はベッドから転げ落ちた。


 落ち着かない朝は、勉強をして過ごしていた。どうやってこの落ち着かない日を過ごすか考えると、すぐにそれに決まった。どうせ何をしていても落ちつかない、そうであるなら週明けまでの課題をやるのが1番良いとなったのだ。


 しかし思いの外、勉強は捗った。小便を我慢しているとき、逆に集中力が増す……それに近い感覚があった。ペンを動かしていないと落ち着かない……だからこそ次々に問題に取り掛かれた。


 でもたまに集中が途切れると、恥ずかしさで爆発しそうだった。


 問題の答えに悩んだときは、ちらりと横を見る。そこにはベッドの枕元に置かれたスマホがあった。僕はあのスマホを起きてから1度も起動していない。


 答えを知るのが怖いような、楽しみなようなで、どちらかと言うと怖いからだ。


 昨日の勢いは完全に一時的なもので、まだ自分がやったこととは信じられない。折原からの返信が既に来ているかも分からないのに、スマホに触れることすら恐ろしかった。


 でも、後悔はしていない。僕は自分がやり遂げたことを誇らしくも思っていた。自分がやりたいことをやったのだ。その結果で心が打ち砕かれることになろうとも構わないじゃないか。


 そう言い聞かせて、どうにか恥ずかしさ爆弾大爆発を防いでいた。


 そして課題が全て終われば、スマホの電源スイッチを押すことも決めていた――。


 昼頃までかかるかと見通していた課題は、11時前には終わってしまった。日の光はようやく強くなり始めた頃だった。当然、部屋の中はまだ寒いままである。


 僕は半分空いたカーテンから入ってきていた光をもっと浴びたくて、窓のほうに向かった。


 明るさに目を細めれば、そこにちょうど道を歩く野良猫の姿があった。近所でよく見る猫だった。冬になって毛の量が増え、小さな羊みたいになっている猫は、電信柱の近くまで行くと、道路の上だというのにひっくり返って寝転んだ。


 見ているこっちまでとろけてしまいそうなその猫の寝顔を見て、この世界はなんて平和なんだと僕は思った。


 僕はしばらく窓際でその猫と同じように日向ぼっこをした。もういいやと感じるまで、平和を体内に取り込んだ。


「すぅ……はあ」


 心の準備が整う頃には、顔がかなり熱くなっていた。最後に深呼吸をしてから部屋の中央に戻って、スマホと向かい合う。


 たぶん、もう僕のメッセージを見ただろうな。彼女が休日に昼まで寝るタイプでなければ、見るのは見たはず。返信ももうしてくれたかな……。


 裏返しのスマホに電源を入れて、カードをめくるように画面を見る――。


 しかし、そこにはまだメッセージを受信したという通知は無かった。


 何もセーフではないけど、野球のセーフのジェスチャーをしてまた元あった場所にスマホを置く。


 まだ返信が来ていないのなら仕方がない。一旦ご褒美タイムといこうか。


 僕は黒いパソコンが入っている収納を開けると、黒いパソコンと一緒に黒いマウスも取り出した。

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