今、再びの勇者
自称女神の召喚術により生じた光が人型を形取った後すぐに光は収まっていき、新たな人物がこの空間に現れた。
しかし、自称女神により召喚された人物は、何時だったかという記憶はないが俺が過去に遭ったことのある人物だった。
「おや? どうして私は元の世界に戻れていない? 確か、魔王を倒して書記官君に別れの言葉を送ってから転移したと思っていたのだけど」
自称女神が呼び出したのは、どこかの俺が盗賊退治の際に遭遇した勇者だった。彼の言葉を聞く限り、転移した目的を達したために元の世界へ戻る所だったのだろう。
転移でこの世界に来たとは言え、目的を達成すれば元の世界に戻れたというのならば、この勇者を転移させたのは、目の前にいる自称女神ではないのだろう。
「これは素晴らしい! まさか、元とは言え勇者を呼ぶことが出来るとは!」
自称女神は勇者を召喚出来て喜んでいるのはいいが、勇者が自分の事を誰こいつ? みたいな表情で見ていることに気付いていないのだろうか。
「状況がよくわからない。そもそもここは……ん? ああ、貴方は盗賊退治の際に遭った冒険者ではないですか。これは偶然ですね」
まだ、多少戸惑っているようだが勇者は俺がこの場に居たことに気付いたようだ。
「勇者! あの者から私を守るのです! こちらの世界へは私が転移させてあげたのだから、それくらいは恩を返すのです!」
勇者に対し、自称女神が声を荒げながら助力を乞う。しかし、当の勇者は何故と言った感じのきょとんとした表情をしている。
「……いや、貴方は誰ですか? 貴方は私を転移させたと言いましたが、私を転移させたのはもう少しおっとりした感じの女神さまだったのですが」
「は? いや、何を言っている? この世界に他の世界の者を転移させているのは私だけのはず。……いや」
そう言いながら勇者は視線の先を自称女神から俺に戻す。自称女神は自分以外に転移を行っているであろう神に心当たりがある様子で、顔色がやや悪くなっていく。
勇者と目が合うが、とりあえず俺と自称女神が敵対している、と言った感じの視線を送ってみる。さて、どうなるか。
「いや、まさかまさか……! この勇者は地母神様が転移させた存在!? いえ、そんなはずは……もし、地母神様が関わっている者だとしたら何故ここに呼べたのだ?」
自称女神が挙動不審になっている中、俺の意図することを理解したのか、勇者は小さく頷くと自称女神の元へ近付いて行く。
「は!? え……あ、何故私の方へ来るのだ!?」
既に目の前まで迫っていた勇者の存在に気付いた自称女神は狼狽えながらも距離を取ろうとしている。ただ、今まで玉座から一歩も動いていなかったため、玉座が邪魔になり距離を取ることが出来ないようだ。
「とりあえず、貴方は私をこの場へ勝手に呼んだという事でいいですか?」
「だから何だ! お前はあの者を排除しなければならなべっ?!」
勇者は自称女神がまだ話している段階で顔面を殴った。さすがに、対応の速さに驚くが、この勇者は元から判断が早かったことを思い出した。
「まあ、これでいいでしょう。お?」
自称女神を殴ったことでこの空間との繋がりが途切れたのか、それとも目的を達したと判断されたのか、とりあえず元居た世界へ戻るための転移が始まったようだ。
「ふん! この空間から排除されるのか。自業自得だ!」
勇者の転移が始まったことに気付いた自称女神は馬鹿にするように言うが、そもそも勇者が元の世界に戻るのは当たり前の事であり、自業自得ではない。それに自業自得、というのならば、自ら召喚した者に殴られている自称女神のことだろう。
しかし、元勇者とは言え、一応この空間を存在させるだけの力を持つ自称女神に対して、武器どころか素手による攻撃で影響を与えることは出来ないはずなのだが、やはりというべきか、あの勇者がこの場に来たのは別の者の意思が関わっているのだろう。まあ、それが出来る存在に俺は心当たりがあるのだが。
そして勇者の姿が消えていく。俺から声を掛けることは無いが、しっかりとこの場から元の世界へ転移していくのを見送った。
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