目的の存在
地下から脱出すると同時に、教会は徐々に形が崩れ地下で見た砂と同じような状態になった。
これであの女神に関する手掛かりが無くなってしまったことになる。
「さて、どうしたものか。って、ん?」
周囲に何もない状況で、周囲の一部に薄っすらと影が出来た。その影は次第にはっきりとしだし、影のサイズが徐々に小さくなってきている。
それはその影の元が近づいてきていることを示しているが、それが何なのかがわからない。影が小さくなってくると同時に、空から何かが落ちて来る風切り音が聞こえてきたため、空に視線を向ける。
すると空から何か大きく薄そうな形をした物が落ちて来ていることに気付いた。見えている物のサイズ的に、このままでは落ちて来た物の衝撃を受けそうだと判断し、俺はその場から少し離れた位置に移動する。
そして、移動してから数秒もしない内にそれは地面に衝突し、周囲に教会だった砂をまき散らした。
その舞った砂を受けないように魔法で障壁を張り、砂埃が落ち着くまで待つ。
暫くして砂埃が落ち着くとそこには巨大な扉が聳え立っていた。とても大きいのだが、周囲に何もないため目の前にある扉の大きさが測れない。いや、崩れる前の教会と同じくらいだから10メートルを超えるくらいのサイズはあるだろうか。
しかし、何で空から扉が…ってまあ、理由はわからないが何のために落ちて来たのかはわかる。おそらく俺にこの扉の中に入れ、と言うことだろう。そしてそれを望んでいる相手は俺が探していたあいつだ。
目の前にある扉を睨む。さすがにこの大きさの扉を俺一人では開けることは出来ない。いや、出来たとしても、この扉は開けることは出来ないだろう。
扉が開くのを待つ。さすがに俺の目の前に落ちて来たのだから、このまま反応が無いと言うことは無いだろう。……ないよな?
新手のドッキリ企画ということは…ないな。こんな手の込んだことは出来ないだろうからそれは無い。
あれからの嫌がらせの可能性は否定できないが、この扉をここまで飛ばしてくるのにも力を使うはずだ。あれのことだから、それは無いだろう。
数分待ったところで、ようやく扉がかすかに開いた。開いたのは人1人が入れるくらいの隙間だ。そしてその隙間から何者かが出て来る。
「待たなくていいのに」
「そういう訳にはいかないだろう」
「そっちの事情は知らないよ」
「そうかよ」
扉の中から出てきたのは普通の人ではなく背中に羽が生えた、俗に言う天使のような存在だった。しかし、天使と言うには色合いはやや灰色に寄っている。
「入って良いか?」
「えぇー」
あからさまに嫌だという態度で返される。しかし、俺は中、と言うかその先に居る存在に用があるのだ。
「そもそも、俺の前にこれがあると言うことは、俺のことを連れてこいって言われているのだろう?」
「まぁ、そう。うん。そう。面倒なことに」
「面倒だろうが通してくれると助かる」
「めんどー」
「いや、通すだけだろ。何が面倒なんだ?」
「道わかるの?」
「え?」
「入った先の道。どこに繋がっているのか、わかるの?」
「一本道だろう?」
「そうだとよかったのだけどねぇ」
ん? 普通は脇道とかは無く一本道なはずだが。俺の知っているあそこはそうなんだけど。違うのか。ああ、いや、あれが居る場所がそう単純な訳ないか。となると、道案内が必要。
「言いたいことは理解した。ただ、俺はあれに会わないといけないし、お前はあれに俺のことを連れてこいと言われているのだろう?」
「まあ、うん」
「だったら、さっさと終わらせた方が楽だぞ。ここで話している間にも時間は過ぎていくし、面倒ごとが先延ばしになっているだけだ」
「うん、まあ、理解してる。でも、納得はしてない」
「そう言われてもな。それに、連れてこなかったら何かされるんじゃないか? お仕置きとか」
「あ、まあ、そうか」
嫌だ、面倒という思考が先行してしなかった時のことを考えていなかったようだ。これでどうにか中に入れると良いのだが。
「それで、中に入れてくれるか?」
「うー、面倒だけど、しなかった時の方が面倒。付いて来て」
「ありがとう」
そうして俺は扉の中に入ることが出来た。
扉の中はほぼ白を主にした城の中のような空間だった。
暫く天使の後ろをついて歩いているが、この空間は神聖な雰囲気を感じるが同時に邪な雰囲気も感じる。もしかしたら目に見えている物が全て正しいという訳ではないのかもしれない。
「こっち」
「了解」
言われたままついて行くが、これは確かに案内が無いと迷うな。それにおそらく迷ったら出られなくなるやつだな。っと。
「っち!」
それと、さっきからちょいちょいトラップ何だろうが攻撃されている。おそらくこれもあれの指示なのだろうが、この天使も割と本気で殺しにかかっている気もする。まあ、ここで死ねば案内する必要が無くなるからだろうけどさ。
そうしてしばらくレンガで作られたような廊下を進み、ようやく目的の場所と思われる広間に到着した。
「ようこそ。私の楽しみを邪魔するクソ冒険者様」
「はは、まさかこの場所の主が直々に出迎えてくれるとは、有り難いな」
「はっ!」
ようやく俺はここのところ探していた、自称女神に対面することが出来たのだ。
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