盗賊退治と思わぬ出会い 後
盗賊を倒しながら奥に進んで行くと、今までよりさらに広い空間に出た。普通に貴族の屋敷が入りそうな程の空間の広さだが、ここまで広いとなれば確実に魔法が使える盗賊が居るのは明確だ。そいつは少なくともここに来るまでに倒した盗賊たちよりも、厄介な存在になりそうだ。
その空間には、あまり盗賊たちは居なかった。まったく居ないという訳ではないが、少なくともここに来るまでに遭遇した数よりも確実に少ない。
まさか、ここに来るまでに大半を倒してしまったということか?
さすがにそれは無い、と思うが、盗賊だしな。後先を考えて戦っているとは思えないから完全に否定することも出来ない。
まあ、全滅させることが出来れば依頼は完了なのだから、気にする必要は無いか。もしもの時のために周囲は警戒しておこう。数が少ないと見せかけて物陰に隠れている可能性もあるからな。
しかし、勇者はすごいな。先ほどから悲鳴が止まらない。ここまで悲鳴が途切れないとは、どれほど勇者方面に盗賊が群がっているのか。ただ、心なしか先ほどから聞こえて来る悲鳴が同一人物な気がしてならないのだが。まさか、勇者相手に粘っている盗賊でも居るのか?
暫く、ちょくちょく襲い掛かって来る盗賊を返り討ちにしながら、勇者がこの空間に来るまで待つ。
そしてようやく勇者がこの空間に入ってきたのを確認した瞬間、俺と勇者が入ってきた出入り口が地面から競り上がってきた岩によって塞がれた。
「すまない。書記官君」
「ちょっと待っ」
勇者に付いて来ていた付き人が外に締め出されたようだが、勇者の方はとても落ち着いている。むしろ、こうなることがわかっていたと言わんばかりの落ち着きようだ。まさか、勇者は盗賊側だったり……、いやまあ、今までの態度からしてそれは無いのは確実なのだが。
そして、状況を見る限り、どうやら俺と勇者はここに誘い込まれたと言うことかもしれない。もしかしたら、苦し紛れの策かもしれないが、少なくとも時間稼ぎなり意表を突くなりは成功している。
ここで毒ガスとかを流されたり、空間を崩されたりされるとかなりきついと思うのだが、さて盗賊はどう仕掛けてくるのか。
「ようこそ、勇者とおそらく冒険者野郎」
盗賊のリーダーらしき人物が出てきたが、冒険者野郎……しかもおそらく、って。いや、確かにこの辺りだと俺は勇者よりも知名度は低いから仕方ないのだが、さすがにこの言い方は傷つくな。
あからさまに眼中にない感じの言い方だ。Sランクになってからは、異様に警戒されるようになっていたから、このような対応をされたことが無かったから逆に新鮮ではあるのだが。まあ、それとこれとは別だな。
「ここは俺の居城。そして勇者とお前の死に場所でもある!」
「ははは、面白い冗談だ」
勇者は煽っているのか、それとも天然なのか良くわからないな。あれが素なのか?
「そう余裕ぶっているのも今の内だけだ! 俺はなぁ、この世界に転移する時に女神からチートスキルを貰ってんだよ!」
ああ、また転生者ぁ。まあ、転生ではなく転移みたいだが、面倒さは同じだな。しかし、女神……か。
「俺が貰ったスキルは崩壊と金属化! 崩壊は俺が持っている武器に触れた物を問答無用で破壊する! 金属化は俺そのものを金属に変容させるスキルだ! しかも、金属化した状態でも動くことが出来るんだ! これで攻撃は効かないし、俺の攻撃が当たりさえすれば勇者であろうと死ぬんだよ! これはこの世界に来て最強になったんだよ!」
ああ、うん。何で自分が出来ることを高らかに宣言するのか。それだと相手に対処してくれと言っているようなものだろうに。自慢したい年ごろなのだろうか?
まあ、おそらく知られたところで当たりさえすれば勝てると思っているのだろう。しかし、それは当てられなかったら勝てないということなのだが、そのことには気付いているのだろうか。
「つーことで! 先に強い勇者様を倒しまーす!」
「いいぞ! 掛かって来ーい!」
何だかんだあの勇者のりがいいな。さっきからあの転生者の長口上中にも手を出さなかったしな。まあ、そんなことをする必要が無いって気付いているからだろうが。
「オラオラオラァ!」
「ははは、いいぞぉ!」
勇者は余裕で躱しているな。転生者は、正直最強と言った割に雑魚だな。確かに聞く限りの能力は強いだろう。ただ、その能力を生かすための技術力が無さすぎる。
体運びは大雑把だし、剣筋も単調。あれだとBランク冒険者なら一方的に攻撃できるな。まあ、その場合は金属化とか言っていた能力に対抗できる力はないから、千日手状態になるだろうけどな。
「ほいっと」
「うぐっ!?」
ああ、勇者が転生者を蹴り飛ばしたな。さすがに飽きて来たのか、それとも何か別の理由があるのか。俺はもう飽きて来たからさっさと終わりにしたいのだけど。
「何でだよ!? 何で俺の攻撃が当たらない? ふざけんなよ!」
転生者で問題があるやつらはワンパターンだな。自分の思い通りにならなかったら周りに当たり散らして人のせいにする。どうしてそうなったのかの原因を一切調べようとしないし理解しようともしない。
「ああもう! 先に雑魚の冒険者を倒す!」
おっとこっちに狙いを変えるのか。まあ、あのまま行っても勝てないだろうから仕方のない事か。
「うらっ! 死ねぇ!」
剣筋が単調すぎる。別に振り下ろすのが早い訳でもない攻撃は、俺にとってはかわすのは非常に簡単だ。
「お前も避けるなよ!」
「いや、当たったら死ぬんだろう? だったら誰だって避けるに決まっているだろうに。馬鹿なのか?」
「雑魚の分際で俺を馬鹿にするんじゃねぇっよ!」
怒りからより剣筋が単調になったな。まあ、その代わり剣の速度は若干早くなったみたいだが誤差の範囲だな。
そう言えば、こいつってこのまま俺が倒してもいいのだろうか? 勇者が居るなら勇者の実績にするために俺は倒さない方が良い……のか?
そう思い勇者の方を見るが、勇者はもうこいつに対しての興味と言うかなんというか、もう既に敵として認識していないようだ。これなら俺が倒しても良いだろう。
「くそっ! 何で当たらなっ」
「ふっ」
「え?」
俺は魔法で強化した剣で目の前に居る転生者を両断した。何故切られたのかが理解できないと言った表情で転生者は地面に倒れ、そのまま息を引き取った。
「終わったようだね」
「いや、こちらに押し付けないでもらいたかったのですがね」
「あはは、ごめんよ。さすがに――――を殺すのは躊躇うのでね」
「……え?」
「おっと口が滑った」
おいまさかこの勇者って、そうだったのか。いや、まあ、それはどうでもいいことか。人間色々な奴らが居るからな。それは勇者でも同じだな。
「さて、私はここで帰らせてもらうね」
「ま、俺は依頼を受けているからこちらで処理はしときますよ」
「おお、それは有り難い」
そうして俺と勇者はことが済んだので洞窟の外に出ることになった。
「勇者! やっと出て来た……ましたね」
外に出るとそこには勇者の付き人が仁王立ちして待っていた。その近くには盗賊が盗んだと思われる金品が置かれ、おそらく捕まっていただろう女性たちがその隣で小さく震えながら助かったことを喜び合っていた。
「それで、助け出した人たちと金品なのですが、どうしましょうか」
「私たちは旅の途中なのでね、さすがにこれ以上時間は使えないのだけど」
「ああ、わかりました。これについても俺が処理しておきますよ。おそらく金品については被害届が出されている物もあるでしょうし」
「すまないなぁ」
「ありがとうございます」
そうして勇者たちは直ぐにこの場から立ち去り、俺は魔法でギルドと連絡を取ると馬車の手配をしたのだった。
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