盗賊退治と思わぬ出会い 前

 

 盗賊討伐の依頼を受けて国境付近の山岳地帯にやって来た。


 どうやら討伐対象の盗賊はこの山岳にある洞窟を拠点にして活動しているらしく、この付近での被害が大きくなっている。


 その盗賊は出来る悪事は何でもすると言わんばかりに、やっている悪事の幅が広い。馬車を襲って運んでいる金品を奪う、行商人の振りをして法外な値段で物を売る、人を攫う、人を殺す、などなど上げたら限がないほどに悪事を働いているようだ。


 そして俺はその盗賊が居る洞窟に向かって山道を歩いている訳だが、何やら向こうから高速で走って来る人物が見える。明らかに常人を越えた速度で走っているにも関わらず、表情はかなり余裕がありそうだ。


 そしてその人物は俺の前に付くといきなり止まって俺の顔を覗き込んだ。


「何か?」

「ああ、いえ、すいません。この辺りに人が居るとは思っていなかったもので」


 そう言いながらもその人物は俺に対しての警戒は解いていない。と言うよりも、この人物はまさか。


「まさか貴方は勇者か?」

「んっ? なぜそうだと思ったのでしょうか」


 反応からして合って居るようだな。まあ、隠すつもりもないようだし、冒険者なら多少気にしていれば気付く範囲だろう。


「色んな所に行っているからな。それなりに情報は得ている。そもそも隠すつもりもないだろう? 鎧もそのままだしな」


 目の前に居る人物が付けている鎧は、ある国で勇者の鎧として保管してあったものだ。これに関しては偽物、と言うよりもレプリカが出回っているから知っている者は多い。そして、目の前の人物の物は本物であることを示す国のマークがついているのだ。そんな物を付けている人物は勇者以外居ないだろう。


「ははは、そうですね。隠すのも面倒ですし、このままの方が返って相手が警戒してくれますから」

「そうか。それで勇者様がここに居る理由は何なのでしょう」

「いやいや、この辺りには盗賊が出るって言うじゃないか。だったら私が討伐してやろうと出張って来たのだよ」

「ああなるほど。勇者様らしい理由ですね。ですが俺もその盗賊を討伐する依頼を受けてここに来たのですが、どうしましょうね?」


 まさか勇者も同じ理由でここに来たとは。さすがに勇者と一緒に、となると過剰戦力な気がするな。一盗賊に向ける戦力ではないだろう。そもそも普通だったら勇者が関わるような案件ではない気がするのだが。勇者の役割は魔王を倒すことだからな。盗賊を倒すために勇者が居る訳ではないのだ。


「ふむ、なら一緒に討伐しても良いだろうか」

「まあ、構わないが」

「ここの盗賊の根城は出入り口が2か所あるらしいからね。両方から侵入して挟み撃ちにすれば効率よく討伐できるだろうね」


 は? 何で勇者がそのような情報を知っているんだ。俺も知らなかった情報だし、おそらく依頼主も知らないと思うのだが。しかし、となれば共闘した方が良いのは事実か。


「わかった。何処でその情報を手に入れたかが気になるが、事実だとすればそれが一番いいだろう」


 そうして俺は勇者と盗賊討伐の計画をその場で決めて行った。この場所から近い方の出入り口から勇者が入り、遠い場所にある出入り口から俺が入る事になった。入るタイミングは俺が出入り口に着いた際に上空に魔法を放つことで合図することに決まった。


「では俺は移動を、って誰かがこちらに走ってきているが知り合いか?」

「ん? ああ、彼は私の付き人の書記官君だね」


 何故書記官が勇者の付き人をしているのかはわからないが、彼を待ってから移動する必要もないだろうと、俺は遠くの出入り口へ移動を開始した。




 勇者が言っていたもう1つの出入り口に到着した。出入り口は巧妙に隠され、遠目ではここに出入り口があることがわからないようになっていた。それを確認した俺は直ぐに魔法を空に向かって射ちはなった。


 そこからは一気に盗賊の根城に侵入する。出入り口の中は洞窟がそのまま使われているようで、人の手で加工したような跡は見受けられない。


 奥に進んで行くとぞろぞろと奥から盗賊たちが出て来た。そして、俺の存在に気付いた者から俺に向かって剣なり槍なりの武器を使って攻撃を加えて来た。


 まあ、所詮は碌に訓練していない盗賊故、あっさり返り討ちにして先に進んで行く。



 さらに奥に進んで行くと次第に洞窟内が広くなってきた。この辺りから洞窟内の壁に人の手で加工されたと思われる痕跡が表れ始めた。おそらくもともと自然にできた洞窟を掘り進んで空間を作ったのだろう。そして、その過程で出入り口が2つになったのかもしれないな。


 勇者が戦っているのか、洞窟の奥から多くの悲鳴が聞こえて来る。これは盗賊の完全討伐も近いな。そう確信して俺は向かって来る盗賊たちを倒しながら先に進んで行った。

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