違法奴隷・前 取引


 今日は、護衛の依頼を受けとある国に来ている。正直この国は治安が悪いから、あまり来たいとは思わないのだが、贔屓にしている商会から直接依頼を提示されたため断れなかった。


 まあ、過去にもしたことがある依頼だ。今回も問題なく終わるだろう。



 国の検問を抜け、目的の街に向かう。今から向かう町は奴隷が売買される市場があるのだが、今回の依頼はそこに向かい、持ってきた食糧費や衛生品を販売し、そこから得た資金で違法に販売されている奴隷を買い取ることを目的としている。

 買い取った違法奴隷は一時的にこの商会の支店で無償の労働をすることになるが、買い取る際に掛かった金額分働き切れば、そこからは自由になる。


 一々違法奴隷を買わずに元となる組織を潰せばいいと思うだろうが、そうもいかない。

 そう言った組織は何重にも保険を貼っているし、場合によっては権力者が後ろに居る場合もある。


 そう言う組織を潰すには個人や一商店がどうにかなる範囲ではない。少なくとも上位貴族の支援や、国が動かない限り不可能に近いのだ。それに潰した所で別の組織が生まれ、結局のところ鼬ごっこにしかならない。


 一番良い手は、この国が奴隷の所有を禁止すればいいだけなのだが、奴隷の販売による資金が国家の運営に使われているため、そう簡単に禁止にすることは出来ない事情もある。




 さて、目的の町に着いたが、やはり治安は良くない。

 奴隷が道で売られているのもさることながら、奴隷にはなっていないが生活が困窮している者たちが自らの体を売りに出している。正直見ていて良い物ではない。


 護衛の依頼を出してきた商人は何時ものようにいくつもの奴隷商を経由して、商品を売っていく。

 そして日も暮れる頃になって持ってきた商品は後少しを残して殆ど販売し終わった。


「今から非合法の場に入りますが、引き続き護衛をお願いします。アースさん」

「ああ、だがいつも通り顔は隠すが良いか?」

「ええ、問題ありません」


 俺は冒険者だが、一応Sランクに属している。そんな奴が非合法の奴隷を扱っている場に居ると知れたらことだ。いや、別に罪になる訳ではないのだが、しっかりした理由があったとしても流れた噂はどうなるかはわからない。だから、顔を隠す訳だが、出来れば名前を呼ぶのも辞めて欲しい。


 違法奴隷が取引されている会場に入る。アンダーグラウンドという訳ではないが、外部からは隔離された空間で、外とつながるような場所は出入り口以外には無い。関係者が使う出入り口もあるだろうが、少なくとも取引に来ている輩が使えるような場所ではないだろう。


 そして、俺と商人が会場に入ると先に中に入って待っていた奴らがざわついた。これはこの商人が毎回かなりの数の奴隷を高額で買っているからだ。故にこの商人がこの場に居ると言うことは、場を荒らされ、目当ての奴隷が買えなくなる可能性が高いことを表す。それゆえ、それを知っている奴はあからさまに嫌な顔をしている。


 そもそも違法奴隷を買うのは犯罪に該当する。ただ、この商人に限っては国の方に面倒な申請書なり計画書、契約書を通して辛うじて許可を得ているだけだ。

 国に許可を貰っていると言っても、少しでも契約に違反した瞬間に首が物理的に飛ぶくらいのリスクがあるのだがな。本当によくやるよ。




 取引が始まった。ここは非合法で奴隷を扱う場だが、取引される奴隷が全て違法奴隷という訳ではない。最初の方に出て来るのは犯罪奴隷だ。しかも脅迫犯罪をして捕まったやつが多い。

 何故、そんな奴らが売りに出されているかと言うと、護衛として扱うために買う奴も居れば、人体実験に使うつもりで買う奴も居る。極めつけは犯罪に使うために買う奴も居るのだ。当たり前だが、これらは本来の法では禁止されている。


 暫く、犯罪奴隷が取引された後、違法奴隷の取引が始まった。出て来る者は女や子供が多い。大体は攫われてきたものだが、子供の一部は親に売られた者もいるだろう。


 そんな者たちを商人は次々と買っていく。さすがに違法奴隷の数は多くはなかったため、今回はこの商人が全ての違法奴隷を買うことになった。

 金額的に言えば、今回持ってきた商品の売り上げの9割くらいだろう。ただ、それはあくまで商品を取引した際に出た金額のため、利益分と考えれば確実に赤字である。


「ふざけんなよ! あの野郎! 俺が目を付けていた奴らを全部買っていきやがって!」


 奴隷の取引が終了し、会場に居た者たちが外に出て行く。その際にまだ会場に設置されている椅子に腰を掛けたまま、騒ぐ男がいた。見た目的には冒険者のようだが、その男の周囲には10人近い女が居る。どいつも奴隷の証である首輪が付けられていることから、あの男が所有している奴隷なのだろう。


「何なんだよ! せっかくあいつを買ってこの後嬲ろうと思っていたのに、台無しじゃねぇか! せっかくあいつが奴隷になるように手を回したって言うのによ!」


 言葉に出すような内容ではないと思うが、どうやらこの商人に狙っていた奴隷を買われたのだろう。しかし、周りに居る奴隷の様子からして、全員違法奴隷か? 明らかに犯罪をするような見た目ではないのだが。まあ、見た目だけだから確実ではないが。

 と言うか、そいつを意図的に奴隷にするようにしたのか? そう言うのは全くないとは言わないが、どれだけ屑なんだこいつは。


「関わるのは面倒ですね。早く行きましょう」

「ええ」


 まあ、この商人が買ったのだから、多少時間は掛かっても奴隷から解放される。だから良しとしておこう。


 そうして俺たちは会場を後にし、翌日、買った違法奴隷たちをここに来る際に商品を乗せていた馬車に乗せ、町を後にした。

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