第24話 島を奪い合え!
水地獄に閻魔の告知を持ってきたドア弁慶。その内容は如何に。
風に服をなびかせて、緩やかに踊り続けるドア弁慶。突然どじょうすくいを止めてニャン吉に向き直る。
「ニャン吉様、こちらです」
「何の告知だにゃん?」
「とにかく読め。以上」
ドア弁慶は手紙を1枚渡すと消えた。
さっそく渡された手紙を読んだ。
『水地獄にはいくつかの島がある。その島にはそれぞれ地獄に適応するためのものが必ず存在する。島を番犬候補同士で奪い合え』
「島の奪い合いだにゃんね。今度も負けにゃい!」
ニャン吉は大地に尻尾を叩きつけ気合を入れる。その勢いのままクラブにもう1度尋ねる。
「この滝は番犬候補を地獄に適応させるにゃんね!」
「そうだ、この滝は『天下りの滝』といって番犬候補を地獄に適応させる」
「じゃあ早速天下りしてくるにゃん」
「ふっ、捕まるんじゃねえぜ」
鼻息荒くニャン吉は湖へ駆け出し、飛び込んで飛沫を上げる。自慢のバタフライで泳いで滝を目指した。
実際に湖を泳いでみると思った以上に大きい。中央の滝まで50メートルくらいはありそうだ。滝に近づくにつれてその勢いの凄まじさに圧倒されそうになる。
ニャン吉は滝の前まで来ると、ターンを決めて背泳ぎで引き返した。
「どうしましタ?」
「ちょっとにゃん」
ニャン吉は足元の小石を拾い上げ、滝に投げ入れた。ジャイロ回転をして弾丸の如く飛んでいく石。滝に当たるとパンと破裂音が響いて石はコナゴナになった。投げた本人はただ呆然としている。
「死ぬにゃん! これ、死ぬにゃん!」
恐るべき滝の水圧。ニャン吉は混乱の猫舞を舞い出した。地面に仰向けになり、後ろ脚を伸ばして、前脚の手首を曲げ幽霊のように構える。手をそのまま顔の前までもっていくと体ごと右に左に回転させ、振り子のように運動する。それは盆踊りにも似ている。
「ニャン吉様、がんばりマショウ」
レモンがニャン吉の背中を撫で優しく諭す。
「早くしねぇと他の番犬候補が来るかもしんねぇぜ!」
骨男が厳しく発破をかけた。
「分かったにゃん、行くにゃん、行くにゃんよ!」
躊躇うニャン吉は背中を丸め鬼の形相で滝を見詰める。
覚悟を決めて湖に飛び込むと滝まで泳いで行く。天から落ちてくる水柱の前でもう1度確認すると、目を閉じて体を丸め、滝に身を投じる。
「にゃぁー! にゃあ! にゃうお! にぃやうお!」
頭に落ちてくる膨大な水の圧力に頭と背中が押しつぶされそうになる。
ニャン吉の間抜けな悲鳴を聞いて、思わず吹き出した鬼市。それを聞き流すような穏やかなレモンではない。怒りの形相で根っこを用いて鬼市の両手足を縛ると、滝に投げ入れた。
「地獄に落ちゅてその上に馴染むというのに、何で修行僧みたいなことをしゅるんかの」
集太郎はシミジミと言った。
「天国のおこぼれで修行中だーね」
ペラアホもため息をついた。
「まさに、天下り」とクラブが横で豪快に笑った。
――10分に1度、1時間の休憩を入れながらではあったが、なんとか合計1時間の滝行を達成した。
滝から上がったニャン吉はびしょ濡れの体を乾かす元気もなく、ドタンとその場に倒れ横になった。
レモンが濡れたニャン吉の体をタオルで拭くと、草の即席ベッドに乗せてやった。
「ニャン吉様、これで寝てクダサイ」
「あ……ありがとにゃん……」
消えそうな声でニャン吉は答えた。これはかなりきつそうだ。
「でもよう、他の番犬候補の侵略にも備えねぇとな。気を抜くなよ」
「無茶……言うにゃ」
無理難題ではあったが、確かに骨男の言うとおりだ。
ニャン吉は南国の星空を観ながら思った。
(最近便秘気味じゃのう……)
ニャン吉は泥のように眠った。夜中、「
――翌朝。
『余命29日』
椰子の木の間から爽やかに朝日がさしてくる。太陽の目覚ましで目が覚めたニャン吉。澄んだ空気であくびをして湖で顔を洗うと、滝の方を険しい顔をしてにらむ。牙を2本口から覗かせて化け猫にスレスレならない程度のおどろおどろしい顔である。
「ニャン吉様、ご飯の用意ができマシタ」
「ありがとにゃ」
椰子の葉の上には、燻製の魚と椰子の実ジュースが置かれていた。レモン曰く「簡単な料理デス」らしい。
腹ペコのニャン吉は魚を貪り食う。
「夜中に番犬候補が襲撃してこなくて良かったにゃんね」
「ハイ」
笑顔のレモンはそう答えた。
腹ごしらえを済ませたところでニャン吉は、島を他の番犬候補から守るために罠を仕掛けることにした。
ニャン吉は島を回り、植物の葉と枝をできる限り集めた。何度も葉と枝を咥えて戻ってくる作業をする時は、滝行の時と違って活き活きとしている。
集めた植物を陳列する。葉っぱ、木の枝、木の実、流木などをキレイに並べると満足気に邪王猫な笑いを浮かべるニャン吉。眉根に影ができ、目は刀傷のように細く釣り上がり、2本の牙を口から覗かせ限界まで口角を上げる。
その顔を初めて見たレモンと骨男は底無しのクズ猫っぷりを思い知ったのである。
ニャン吉は猫叩きで地面に穴を開けた。
「ニャ吉、穴なんか開けてどうしゅるんや」
不思議がる集太郎にニャン吉は「まあ見てろにゃん」とのみ答える。
「しょれは、ミミズに八つ当たりしょるんか?」
集太郎は聞くが返事は無い。
ニャン吉は穴を作ると木の枝を橋にして、その上に葉っぱを敷き詰めた。その様子を観ていた骨男は「落とし穴か?」と聞いた。だがニャン吉は違うと言う。
そしてニャン吉は、穴の中に入るとまん丸になった。
「これで完成だにゃん!」
「……ニャン公、何やってんだおめえ?」
一部始終観ていた骨男でもニャン吉の意図が分からない。集太郎とペラアホも意図がつかめず骨男に解説を求めた。
「……なんだろうな」
「ニャ吉はこういうの好きじゃの」
「猫は狭ーい所が好きだーね」
ニャン吉は自信作の罠を皆に自画自賛した。だが、その頑張りを嘲笑うかのように骨男が提案する。
「今からロボットを造るからそいつに見張らせた方が確実じゃねぇか?」
ロボットを造るという一言はニャン吉のプライドを圧し折った。全身の毛を逆立たせて目を吊り上げる。
「そういうことは早く言えにゃ!」
「悪い悪い、うっかりしてたぜ」
そんなこととも知らず海からのんきに上がってきたクラブ。天下りの滝とニャン吉たちの様子を見にきたようだ。クラブはスタイリッシュに歩きニャン吉にクールに声をかける。
「ふっ、また会ったな番犬候補よ。……何だこの穴は!?」
クラブは穴を掘ったのがニャン吉と分かると、ハサミをぶん回してニャン吉を叱り飛ばした。
「番犬候補! ここは穴掘り禁止だ! 砂遊びならよそでやれ!」
「分かったにゃ……」
散々叱られてしょんぼりとしたニャン吉は、寂しく土をかけ穴を塞いだ。
「ニャ吉、骨折り損じゃの。骨大丈夫か? まあでも無駄骨なりゃ折れても大丈夫か」
「ニャッキーは罠狂いだーよ」
虫たちは楽しそうだ。
レモンはヤカンで沸かした麦茶を一気飲みした。その香ばしさに感無量のレモンは空へ叫ぶ。
「麦の香ばしさがレモンに合ウ!」
結局ニャン吉が何をしたかったのかは不明であった……。
ニャン吉は穴を元に戻したら滝行を再開した。10分ほどで休憩に入ったニャン吉、その時、侵入者が現れた。
――島の奪い合いが始まった。ニャン吉の悪知恵は今度は冴えない。
『次回「根性歪んドール」』
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