第25話 根性歪んドール
水地獄に適応するために島に降り注ぐ天下りの滝で滝行を繰り返すニャン吉。そこへ現れた侵入者。島の奪い合いに競り勝つためにも、侵入者を討て。
海から現れた侵入者はテケテケだった。長い腕を見せ付け、ニャン吉に宣戦布告をしてくる。
「番犬候補だな! 勝負だ!」
ニャン吉は猫叩きでテケテケに攻撃した後、腕輪にしていた輪っかを破壊した。テケテケはあっけなく脱落した。
(もっさんよりゃ随分弱いのう)
1時間ほど休憩するとニャン吉は滝行を再開。休憩している時に来た侵入者も退治した。それを繰り返し夕方に滝行を終える。
南国の島に夕陽が優しく降り注ぐ。疲労もピークに達したニャン吉は、歯茎を剥きだしにして魚を貪り食う。
「侵入者が次々入って来るにゃん。一体何匹番犬候補はいるんだにゃ! 特にさっきのはおかしいにゃん! 亀虫とブラックマンバと水星金星のハーフ宇宙人とアッポロピョロピーンが一斉に上陸して大乱闘に――」と散々愚痴った。
――日もとっぷりと暮れたので篝火を炊く。篝火は星空を焦がさんばかりに燃えて南国を彩る。そんな神秘的な夜にも関わらず、骨男は篝火に照らされ、不気味な
「ニャン公! できたぜ!」
「何だにゃ? このカラクリ人形は」
骨男が奇妙なねずみ色の人形を披露する。日本のカラクリ人形のような……剥き出しの赤ちゃん人形のような……、何とも形容し難い不気味な人形であった。
骨男が背中のスイッチを押すと、ギギギと音を立てて人形は動き出した。
「気付いたか? 歪んドール」
歪んドールはぷにぷにしたねずみ色の体を起き上がらせると、青い眼で骨男にメンチ切った。
「こいつぁよ、『根性歪んドール』って言うんでぇ。おい! 歪んドール、あいさつ」
歪んドールは青い眼をグルグル動かすと、上目遣いでニャン吉を見た。
「初めまして、歪んドールですよ。まあ、どうせ俺なんて用が無くなったらポイなんだろうけど」
口の横に入った線に沿って動くだけの口なのだが、嫌らしく緩急をつけて被肉を言う。
開発者の骨男は歪んドールを自慢気に紹介する。だが、ニャン吉はしかめっ面である。
「よ……よろしくにゃん……」
「そんでよ! ニャン公! 歪んドールは根性が歪んどるんでぇ。性格最低なんだぜ。こいつを見張りロボットにすりゃあ良い。見張りを頼むぜ、歪んドール。やってくれるな?」
歪んドールは鼻で笑うと骨男に一言「金次第だなぁ」と無遠慮に言った。
「これからこいつに色んな機能をつけてやろうと思ってんだよ」
「なんで歪んだ性格にしたんだにゃん?」
「そっちん方が面白えだろ。なあ、歪んドール」
歪んドールは返事をしない。
「ん? どうした? 歪んドール……。故障かな?」
骨男は歪んドールのツルツル頭を叩いてみる。歪んドールの頭から奇妙な金属音が跳ね返ってきた。
「おい! 叩けばいいってもんじゃないだろ! 骨野郎! てめえ歪んドール様を舐めてんのか!? それともてめえの技術は叩けば直るカス電化製品並みなのか!?」
「おお、悪い悪い。じゃあ聞くけどよ、1+1=?」
「はっ! お前には答えないね!」
「おー、可愛げあんじゃねえか!」
「どこがだにゃん!」
「こいつぁ、照れてんだぜ」
歪んドールは不愉快な笑みを浮かべ「そうだ、俺様は照れているんだ。だからもっと気をつかえや
「1+1=?」
「骨野郎、お前には答えないねえ」
クソ生意気な赤ちゃん人形の歪んドール。ニャン吉の事情を聞かされると歯を出して微笑んだ。そして、右手の親指と人差し指で輪っかを作って「あっぷっぷ」と赤子のような声を出した。要するに、金を寄越せと足元を見てきたのだ。
仕方なしに骨男は、駄々こねる我が子を甘やかすように歪んドールの手に数枚の硬貨を握らせた。
「分かってんじゃねえか骨公」
歪んドールは夜中の見張りを引き受けた。
――夜中。歪んドールはヤシの木から飛び降り落下の勢いを付けてからニャン吉の尻尾を踏んだ。それもゴリッと音を立て踵で踏み付けた。
「にゃぁ!」
「侵入者が来たぜ、番犬気取りの白猫」
「何で尻尾を踏むんだにゃ!」
「だって、起こして欲しいんだにゃぁぁんとか言って俺様に泣き付いたじゃねえか」
「まず侵入者の前にお前を破壊してやろうかにゃ?」
「そんな暇があったら、さっさとあいつを迎え撃てよなあ」
ニャン吉は鎧武者の番犬候補を倒した。
――翌朝。
『余命28日』
ニャン吉は今日も滝行。滝行に慣れてきたようで、最初の時のような苦しさはない。試しに20分滝行をしてみる……10分の時より楽になっている。
「成長しているにゃん!」
今度は休憩の時間を半分の30分にした。体力の消耗がほとんどみられない今なら、その程度の休みで充分だ。昼前にはその日の滝行が終わった。
クラブが海から上がってきて、ニャン吉の様子を見に来た。
「番犬候補よ、今日は島を荒らしていないな。クールが1番、プールが2番、3・4がなくて、5にご飯」
「にゃ……にゃに?」
クラブの見回りが済んだとき、ニャン吉はその甲羅をチョンチョンと叩いて尋ねた。
「ところでクラブ、1ついいかにゃ?」
「何でも聞いてくれ」
「俺のいる島以外にいくつの島があるにゃん?」
「10以上と言っておこう」
「番犬候補は全部の島に1匹ずついるのかにゃ?」
クラブは僅かばかりの毛をハサミでなびかせ「ああ」とクールに返事をした。
「どんなやつがいるにゃ?」
「色々いるぜ、忘れたけど」
他の番犬候補の情報を欲するニャン吉は試しに聞いてみたのだが、クラブは忘れたと言う。
海に帰りかけたクラブが手を叩くようにハサミを叩いて振り返る。
「ああ、そういえば柴犬がいたな。たしかもっさん……とかいっていたか」
「もっさん!? そいつはどうなったにゃん? もうこの地獄に適応したのかにゃん?」
「いや、かなり苦戦しているみたいだ。息を止めるのに魚が邪魔をするとか言っていた」
「他に覚えていることはあるかにゃ?」
クラブは、忘れたとか言いながら全付き人と番犬の名前など何から何まで覚えていた。
「あ……ありがとにゃん」
「後、ペンギンと貝と鳶も今し方入ってきたとの情報もある。そいつらは他の番犬候補とは一味違うと聞いたぜ。柴犬みたいにな」
「分かったにゃ」
「なに、礼には及ばないぜ! 今度何か俺の頼みを聞いてくれたらな」
背中を見せ、ハサミを高く上げクールに海に帰っていく。それをレモンが呼び止めて尋ねた。
「あなたは、一世鬼デスカ?」
「俺は一世鬼じゃあない。俺の家は『躍進! 爆進! 前進! 前へ進む毛蟹族』だ。何代続いているかは不明だ。俺の一族は地獄、天国、三途の川の畔、だけでなく地球という惑星にもいるらしい。生命力が強くてどこでも生きていける」
「そうデスカ」
「植物、お前は一世鬼なのか?」
「レモンデス。私は一世鬼デス」
「そうか……何かと大変だと思うが地獄に馴染めるようがんばれよ」
「ハイ」
今度こそクラブは去って行った。
――歪んドールの性格が悪い。本当に悪い。クラブは気になることを言っていた。ペンギンと貝と鳶、これらは一味違うと。
『次回「番犬のいる意味」』
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