第19話 ペラメッド

 ニャン吉たちはペラメッドへ到着した。

 砂漠に浮かぶ真っ白に輝く三角錐の建造物は、エジプトのピラミッドと瓜二つであった。

 ペラメッドの落とす大きな逆三角錐の影が建物本体との強烈な明暗差を生み出す。まるで、善と悪、生と死など光あるところにまた影もありと主張しているように感じられる。


 太陽を背負える程の偉大な歴史が、重々しく、気高く、神々しくニャン吉たちを出迎えた。


 三途拷問みとごうもんはペラメッドを背に「ペラメッドなんて老いぼれた遺物よりも、この三途拷問の美しい筋肉を見よ! 皆の者! この肉体美が目に入らぬか!」と澄んだ空へ叫んだ。1人筋肉を見せ付ける拷問を相手にすることなく、ニャン吉たちはその横を通り抜ける。


 ペラメッドの前まで行くとその大きさに圧倒された。ペラメッドの巨大なことは、大地地獄の鬼が豆粒に見えるほどである。白い石のブロックを積み上げたそれは、威厳と気品にあふれていた。


 ペラメッドの側面には白い石の扉があった。その入口は大地地獄の鬼が入れる程度の大きさだ。その扉の前にも白い石のブロックが敷かれており、ペラメッドは総じて白く輝き神々しかった。


 入口から中に入ると、暗い通路を通る。カツンカツンと足音を響かせ、通路を抜けると明るい場所へ出た。光は天井の穴から差し込んでいるようである。その部屋は、半球に石をくり抜いて造った空洞であり、死者を弔う広場だった。


 ペラアホが球状の壁面を観て感極まると拷問の肩に止まった。ペラアホは目を潤ませ何度も唸る。

「素晴らしーいね! この壁画!」

「それはただのじゃよ」


 秦一郎は広場からさらに奥に通じる通路の1つへニャン吉を通す。その奥の荘厳な光景に目を奪われるニャン吉たち。

 壁一面が金色に輝いていて、そこに極彩色で動物の壁画が描かれていた。派手でありながらもどこか気品と落ち着きを漂わす壁画には誰もが息を呑む。壁に沿ってすぐ下に黄金の五角形の柩が幾つも並んでいる。


「立派な壁画だにゃん。鳥獣戯画かにゃ?」

「えっ? ああ、これは昔大反乱を起こした番犬候補の墓場ですよ」


 鬱陶しいほど大きな咳払いをしてニャン吉の隣に佇む三途拷問。壁画を指差しニャン吉と秦一郎の話に割り込んできた。

「この棺桶には黒猫のモモが眠っておる。こいつはケルベロス五世の番犬レースの時の参加者での」


 拷問は満面の笑みを見せニャン吉の方を振り向く。

「ワシの弟子なんじゃよ!」

「父上! 話をとってまで法螺吹くのやめてください。何代前の話ですか……全く」


「そういえばワシ、生まれておらんかったわ……」

「もう……、またインチキおやじって言われてもいいんですか」


 拷問はブツブツ言いながらモモの柩を撫でて不貞腐れてしまった。

(怒ったのう)


「おい、おめえもしかして番犬候補か?」

 ニャン吉たちが通ってきた通路の方から声が響いた。そちらを振り返ると、馬の骨が立っていた。

 馬の骨というか……人の骨に頭だけ馬の骨がついているような……何とも形容し難い変な骨である。馬の骨は青い羽織に赤い帯で白袴を締めていた。足には草鞋をはいている。


「なっ、誰だ!?」

「え? みんなの知り合いじゃにゃいのか?」 


 突然現れた馬の骨に秦一郎が驚きの声を上げた。馬の骨は着物の袖に片腕を突っ込んで秦一郎をにらみつけた。


 戸惑うニャン吉にお構いなしに馬の骨は江戸っ子口調で喋り始めた。

「おう! おいらは馬野うまの骨男ほねおだ!」

「馬野骨男? ああ、あのポイズン大学の変わり者か。発明に凝っているお喋り馬野郎って……」


 秦一郎が余計なことを言ったので火に油を注ぐ結果となる。骨男は詰め寄り顎の骨をカチカチいわせる。

「おう! おめえ喧嘩売ってんのか!? そのニャン公の首輪を作ったんはこのおいらだぜ! 発明に凝ってんじゃねぇ、発明家でぇ!」

「あ! 思い出した! 最近番犬候補用の輪っかを発明した新人発明家か!」

「そういうこって。わかりゃあいいんだよわかりゃ」


 機嫌を直した骨男はしゃがみ込みニャン吉の方を見る。

「ニャン公! おめえに1つ頼みがあんだけどよ。おいらも仲間にしてくんねぇか? 役に立つぜ!」

「良いにゃんよ。一緒に行くにゃん」


 軽い返事だ。あまりにも簡単に同行を許すニャン吉に、秦一郎が耳元で注意する。

「彼は、骨男は超変わり者だよ。ポイズン大学では色々な学部に押しかけては騒動を起こすんだ。中々のトラブルメーカーだったらしいからね」

「面白そうだにゃ」


「おまけに武術にも長けていてヌンチャクを振り回すらしい」

「強けりゃなお良いにゃん」


「彼の先祖もまた、鬼市の先祖の仲間でやばい奴という噂もあるし」

「1人が2人ににゃって閻魔も苦労するにゃんね」


「彼はやめておいた方がいいのでは?」

「でも、もう一緒に行くって言ったにゃん」


「それに、鬱陶しいとか」

「それにゃら大丈夫だにゃん。ニャン吉の仲間は変人ばかりだにゃん」


 ニャン吉は馬野骨男を仲間にした。


 ペラメッド見学を終えてニャン吉たちはペラメッドを出た。扉から外へ出て白い石畳の上を数歩ほど歩いたその時、何かニャン吉の背中に白い光線のようなものが飛んできた。


 さすがに戦いなれた動物でありとっさに反応するニャン吉。体をブリッジするように曲げてバク転を決めながら光線を避けた。光線の軌道を辿り、ペラメッドの上部に目を凝らすニャン吉。

「誰だにゃん! 何をするにゃん!」


 ペラメッドの頂上には人が1人立っている。そいつは屈伸をすると、パッとペラメッドから飛び降りた。何回転も前宙を繰り返し、ペラメッド前の白い石畳の上に着地を決めた。……はずだったが、着地した所に砂漠の砂がかかっており、滑って大股を開いて転け後頭部を強打する。


「ぬおー!」

 頭を抱え悶絶し、ゴロゴロと石畳の上を転がるそいつの腕には番犬候補の首輪らしき物が巻かれていたのをニャン吉は見逃さなかった。紫色の腕輪を見るに、こいつはまだ大地地獄には


 そいつはヌッと起き上がると周りを見た。ニャン吉を見付けると光線銃を構えた。

「俺は冥王星人。名前は冥土めいどの土産みやげだ! お前は番犬候補の1人だろ! 勝負だ!」


 冥王星人は人型である。頭はツルツルでが目が非常に大きく黒目しか見えない。体もツルツルである。土産は番犬候補同士の戦い、宣戦布告してきた。

「望む所だにゃん! かかって来いにゃ!」

 威勢よく返したニャン吉。番犬候補同士火花を散らす戦いが始まる。


 ――ニャン吉はペラメッドへ案内された。そこには、遥か昔反乱を起こした番犬候補が眠っていた。馬野骨男という発明家を仲間に加えて、さあ、番犬候補と決戦だ。


『次回「番犬戦開始」』

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