第18話 陰謀

 ――翌朝、ニャン吉は朝早く起きて散歩に出かけた。朝の砂漠は酷く冷え込む。冷たい風が顔に吹き付け髭を揺らす。砂漠を歩いていると、ニャン吉は最近ブリッジをしてなかったことをふと思い出した。

(そういや最近ブリッジをやっとらんかったわ。久々にするかの。猫背はようないけえのう)


 ニャン吉は太陽の光を浴びながらフルブリッジを入念にやった。砂漠を背に白い橋が架かる。ニャン吉は子猫の頃から猫背の矯正に凝っていた。特異体質のニャン吉だからできたわけで、他の猫にはとてもできない。


「1・2・3・4……気持ち良いにゃーん」

「ニャン吉様、レモンデス」

 ブリッジを架けるニャン吉へと小声でレモンが話しかける。深刻な表情のレモン。ニャン吉はブリッジを止めてレモンに向き直る。


「どうしたにゃん?」

「魔界鬼市についてなんデスガ」


「鬼市がどうかしたにゃん?」

「実は、あの小鬼、つもりデス」


「にゃに!?」

 ニャン吉は思わず大きな声を出してしまった。口に手を当て辺りを見回すニャン吉。誰も近くにいない。


 ニャン吉とレモンは復興用に建てられた木造小屋の中へ入った。小屋の裏側に人影があることに気付かずに……。

「小鬼は『魔神砲まじんほう』という兵器を毒地獄のどこかに隠していマス」

「にゃんでそんな事が分かるにゃ?」


「それは、この薬デス」

 レモンは根っこの手で青白い錠剤を出した。


「これは『自白剤』といって、1錠飲めばこちらの質問に強制的に真実を話す薬デス」

「すごいにゃん! それどうやって作ったにゃん?」


「ニャン吉様の持っていた種を使いましタ。私は閻魔帳の三世で植物系の鬼デス。こういうのは直感で作れマス」

「それでにゃ?」


「小鬼は昔、閻魔に疑われて獄卒士の免許とを取り上げられマシタ」

!? ……て何だにゃ?」


「魔法については私は知りマセン。それより魔界家はデ、ある時に小鬼も閻魔様に疑われケルベロス五世に討伐されそうになったのデス」

「にゃ……」


「その時は濡れ衣だったのデスガ、閻魔様は念の為にと魔法と免許を取り上げたのデス。それを恨んで小鬼は閻魔打倒の兵器・魔神砲で閻魔様を狙っていマス」

「それは……魔界ショップの武器かにゃ……」


「肝心なのはここからデス。小鬼はニャン吉様の付き人をすることで魔法も免許も返してもらえるのデス。そうなれば、小鬼の思う壺……。ニャン吉様、どうしマス? 今の内に逮捕しマスカ?」


 ニャン吉は小屋の窓枠に前足をかけ、太陽を眩しそうに見つめる。

「……様子を見るにゃん。レモン、あいつのこと頼めるかにゃ?」

「任せてクダサイ。例え死んでも奴の計画は阻止しマス」


「ありがとにゃん。でも死んだらだめだにゃん」

「大丈夫デス。


「なら良いけど……ん? ?」

「そういうことデス。深く考えないでクダサイ」

 釈然としないニャン吉に対して爽やかな笑顔のレモン。


「ちなみに鬼市は全て話したのかにゃ?」

「それが……肝心の魔神砲については一切詳細を語りマセン。あいつ、そうとうな力を持っていマス。も自白剤を飲ませてもここまでしか喋らないのデスカラ……」


「……そんにゃに飲ませて大丈夫かにゃ?」

「大丈夫デス、死にはしマセン。あれだけ強けれバ」

 御主人様だけではなく、閻魔にも危害が及ぶのは閻魔帳なら見過ごせない。


 話が終わり小屋を出た2人。数歩ほど歩いた所で突然立ち止まったレモンとニャン吉。恐ろしい顔をして、レモンは急に小屋の方を振り返りアイレーザーを撃った。

「何者ダ!」


 アイレーザーを撃ったらレモンは即座に小屋の裏まで走る。だが、誰もいない。

「やはり、誰かいたのかにゃ」

「……確かに誰かいたハズ」


「まあ、長老の家に帰ろうにゃ」

 釈然としない2人であったが、ニャン吉たちは拷問の家に戻ることにした。


 ニャン吉たちが立ち去ると「おもしれえ話聞いちまったぜ」と岩陰で笑う者がいた。


 長老の仮住居では皆が起きていた。簡単な豆スープの朝食を済ませるとペラメッドへ向かって出発した。


 砂漠をザクザク音を立てながらニャン吉たちは拷問の案内で進む。途中ニャン吉は拷問に駆け寄り質問しようとした。

「長老、獄卒士というのは……」

「そんなことより見なさいニャン吉君! ワシの鍛え上げられた上腕を。若い者には負けんぞ! 長老パワー!」

 長老はニャン吉の言葉を遮り、一方的に喋り出した。毛皮の服を砂山に投げ捨て、上半身裸でポーズをとった。


「いや、獄卒士について……」

「ほっほっほっ、ワシは一種じゃよ。息子たちは二種でそれ以外は三種じゃ。そんなことより筋肉じゃ」

「獄卒士について……」

 拷問は突然走り出した。呆然とするニャン吉。


 拷問の服を拾って砂を払っている息子の秦一郎にニャン吉は聞こうと思い、ズボンの裾を引っ張った。

「秦一郎、獄卒士の免許が無いとどうなるにゃん?」

「ん? あ! もしかして、あそこにいる魔界鬼市のことか?」


 遥か先を歩く鬼市に聞かれまいと秦一郎は小声で言った。それにニャン吉も小声で対応した。2人は歩きながらヒソヒソと会話をする。

「そうだにゃん。魔法や魔界家の先祖について知っていたら教えて欲しいにゃん」


 鬼市に気付かれまいと気を配りながら秦一郎はまず魔界家について語った。

「魔界家はと呼ばれる第六天の魔王の一族だ。彼らは我々鬼族きぞくとは別の種族、とされている」


 頷くニャン吉へ秦一郎は獄卒士の免許について説明した。

「獄卒士の免許には一種から三種まであってね、三種は一般の鬼さ」


 秦一郎は自分の獄卒士の免許を出してニャン吉に見せた。そこには、二種と書かれていた。

「二種はエリート鬼。様々な試験を突破した資格だ。行きたい地獄を選べるんだよ」


 秦一郎は魔界鬼市と三途拷問の方をチラッと見た。

「一種の免許は、地獄の門番になることができる超エリート資格だ。魔界鬼市や父が持っている資格さ」

「一種の免許を持っている鬼はやっぱり優秀なのかにゃ?」

「もちろん。しかし、それでもできないことは沢山ある。所詮ただの資格だからね」


 頷くニャン吉へ秦一郎は魔法について説明した。

「『魔法』とは魔族が使う力。我々鬼族の使う『妖術』とは違い得体が知れない力と聞く。私の知り合いにも魔人がいるが、彼の魔法は私の妖術と大差ないよ。ただ、魔界鬼市の力は別格だ。あの若さで閻魔の側近にまでなったのだからね」

「何で免許と魔法を取り上げられたにゃん?」


「そこは分からない。彼は謎の多い男だからね。さて、ニャン吉君。私に分かるのはここまでだ。力になれたかね?」

「ありがとにゃん。助かったにゃん」


「ペラメッドへついたぞー! ワシ三途拷問は生涯現役じゃぁー!」

 巨大な三角錐の建造物の前で雄叫びを上げる拷問であった。


 ――魔界鬼市は閻魔の命を狙っている。魔法と魔界の先祖。彼は一体何者なのか。


『次回「ペラメッド」』

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