第17話 三途の一族
――大地地獄でニャン吉たちがドア弁慶を待つ。
ドア弁慶を待っている間、宇新聞の記者が取材に訪れた。長老の仮住居にニャン吉がいると聞きつけた牛一とその肩に乗るハム男。2人木戸をコンコンと叩くと拷問が応対した。
「ふん! 宇新聞の平田牛一です! 中村ニャン吉様はここにおられますか、ふん! ふん!」
「天下言論王ハム男です。ニャン吉様は――」
「ほほほ、そこでうんこをしておるぞ」
トイレを早目に切り上げたニャン吉は、拷問の仮住居で取材をさせてもらうことになった。
「ふん! 大地地獄は暑い! 暑苦しい!」
牛一は暑そうに鼻息をフンフン鳴らす。ハム男は新しい仲間のレモンに取材した。
「君が新しい仲間ですね?」
「ハイ、閻魔帳の三世から生まれましタ」
「なるほど、一世鬼ですか」
「一世鬼って何ですカ?」
ハム男は笑みを浮かべると顎に手を当て『一世鬼』の説明をした。
「なるほど、私が初代となるわけデスネ。一世鬼の特徴は何ですカ?」
「代々続く鬼の一族に生まれるのと違って、一世鬼は地獄に適応ができない事もあるのです。例えば、強さに限界があったり、生まれた地獄以外では力を発揮できなかったりなどです」
「それでは、ニャン吉様の試練について行ける限界がどこかで来るのデスカ?」
「いや、君はここの鬼を何十人も倒したのですから、最後まで行けるでしょう」
「そうですカ、良かっタ」
レモンはホッと胸をなでおろす。それを見た集太郎が「ホッとレモンじゃ」と1人安心する。
レモンの安堵する姿を見て嬉しそうにハム男は自身の信念を語り出す。
「人に真実を伝えて安心させることも新聞の役目と拙者は考えております。お役に立てて良かった」
「ふん! ハム男君! 例の話」と牛一がなにかの話をするようハム男に促した。
「そうでした。ニャン吉君、番犬候補同士が戦うのは知っているね。今参加者はどれだけいると思う?」
「3人くらいかにゃ?」
「62人です」
「そんなにかにゃ!?」
「はい、今試練から首輪が壊されたら脱落して、番犬になった者の奴隷になるようになりました。それから、『1次試験』と『2次試験』に今回は分けるかもしれないと閻魔様が告知を出しました。詳しくは宇新聞に載せます」
「分かったにゃ、ありがとにゃ」
「はい、それでは……牛一さん! 早く行きますよ!」
「ふん! 暑い!」
うだるような暑さに参った牛一が中々立ちたがらない。仕方無しに鼻輪を引っ張ってハム男は牛一を立たせた。そして、宇新聞は去って行った。
――木戸を除けて呑気にチンチロをしていたニャン吉たち。ニャン吉が「半」と言うと鬼市がにたりと笑い丼を除ける。サイコロは「丁」であった。
ごまかし半分でふと外を見たニャン吉は、戸のあった辺りに佇むドア弁慶を見付けた。手には鬼負からの手紙が。
「ドア弁慶! ありがとにゃん」
ニャン吉は急に立ち上がり、丁になったサイコロをわざとらしく蹴飛ばし、ドア弁慶を迎える。
手紙を鬼市へと手渡すと「何でドアを開けっ放しなんだ……」と悔しそうにつぶやきドア弁慶は消えた。
鬼市は鬼負からの手紙を読んだ。そこには、砂漠化と火山のメカニズムについて詳しく書かれていた。
「なるほどね。長老に教えてくるか」
太陽が容赦なく照りつける砂漠。拷問は岩の上で片手の指1本で逆立ち腕立て伏せをしている。
拷問に手紙が来たことを鬼市が告げた。砂漠化対策と火山のメカニズムを教えてあげると安心したようで、先程乗っていた直径1メートルほどの丸い岩を手刀で突いて割った。
「ありがとう、これで一安心じゃ。何かお礼をせんといかんな……、そうじゃ! 明日砂漠の遺跡ペラメッドへ連れて行ってやろう」
「ペラメッドって何だにゃん?」
「砂漠の遺跡じゃよ。あそこには一定の条件を満たして敗れた番犬候補の遺体が眠っておるのじゃ。行ってみるか?」
「行くにゃん」
「ほっほっほっ、じゃあ今晩もワシの家に泊まるが良い」
「岩の囲いだにゃん」
ニャン吉は明日ペラメッドへ見学に行くことにした。
その夜、拷問の7人の子が火山の噴火を聞きつけて帰ってきた。今夜は満天の星の中、砂漠でキャンプファイヤーを囲って祭りだ。
長男、
次男、
三男、
四男、
五男、
六男、
七男、
彼らはいずれ邪魔大国の各村の長老になるべく期待されてポイズン大学へ通っていた。
さらに、秦一郎の子も帰ってきた。
長男、
長女、
次女、
三女、
(なんで古代中国の戦国の七国から名前をとったんじゃろ)などと彼らの名前を聞いてニャン吉は1人思う。
魔魔妬喪は見た目は7歳くらいの目がパッチリした可愛らしい子どもである。平安時代の雅な公卿の娘だといわれると信じてしまいそうだ。
胃胃子は、超筋肉質で体格が良く、目はタレ目で鼻は低い。唇は薄く顎がしゃくれていた。こちらはどっちかというと、鎌倉時代の木像っぽい。運慶快慶が見たら職人技を見せたくなる。
終子は吊り目で顔がとにかく大きくて愛嬌がある。終子の顔を見ると思い出されるのは、平安時代に平清盛が福原の都に遷都をしたときのこと。清盛の寝室に現れた壁一面ほどのでかい顔の例の妖怪だ。
3姉妹はニャン吉の方をジッと見る。
「どうしたにゃん?」
「私たちは花も恥じらう女の子よ!」
「そ……そうかにゃ」
突然の発言に、ニャン吉は頭をフル回転させその言葉の意味を考察した。
(自分で言うかのうそんなん。図々しいじゃろうに……待てよ、鼻も恥じらう
鼻をたらした垂れ目の楚漢太郎も「俺は花も恥じらう男だぜ」と便乗。
(うっさいの、この餓鬼)
そのやり取りを聞いてレモンは何を思ったか突然立ち上がった。鬼市を押し退け近くに生えていたサボテンに咲いた花をシゲシゲと見る。
(別に恥らってないような気がするケド……)
レモンは釈然としないままキャンプファイヤーまで戻ってきた。
酒も入って酔いが回ってくる頃。拷問が「ワシの火の輪くぐりをみせてやる」とか喚いてキャンプファイヤーに突っ込もうとする。それを子どもたちがスクラムを組んで止めた。拷問の怪力はこうでもしないと止まらないらしい。
同様に飛んで火に入る夏の虫の如く、集太郎とペラアホが火の中に飛び込みそうになるのをニャン吉が飛び付いて止めた。
何とも忙しない夜であった。
ニャン吉たちは明日に備えて早目に寝ることにした。
――大地地獄の長老は安堵する。そして、ペラメッドという所へ連れて行ってもらうことに。
『次回「陰謀」』
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