第16話 門番・三途拷問の憂い
ジリジリ砂漠へと築かれた避難所には続々と他の村の人も集まりにわかに活気付く。やがて、復興の一大拠点となっていった。なんでも、古代鬼村は7つある村の1つであり、まだ他に6つ村があるらしい。
7つの村は『
邪魔大国には統括するために長老という役職があった。現長老の名は
服を着たがらない鬼に三途拷問を紹介されたニャン吉たち。拷問は大地地獄の鬼の中でも超筋肉質な爺さんで超元気であった。鋭い目をし、白髪のオールバックに白い顎髭を蓄え、どことなく武士っぽい。
ニャン吉は砂漠にある避難所に築かれた長老の家……というか岩で囲んだだけの吹きさらしの野ざらしな家にお世話になることにした。
「ほほ、お主青いの」
「真白だにゃん」
拷問は7つの村の全ての鬼にニャン吉に協力するようにお触れを出した。
鬼市が言うには、拷問は大地地獄の『門番』であり、門番の協力があれば鬼の首を取ったことになるらしい。
翌日、山を静かに眺めていた拷問。腕組みをし深いため息を吐いた。
ニャン吉は拷問の隣に座ると「ここの火山は死火山じゃにゃかったのかにゃ?」と尋ねた。
拷問は冷えたマグマと火山灰で黒く染まった山を指差し語り出した。
「そうなんじゃよ、ワシの代では1度も溶岩を出したことはないのじゃ……。遥か昔は噴火したら溶岩を出すこともあったらしいがの……」
「砂漠も広がっているって聞いたにゃん」
今度はジリジリ砂漠に目をやる2人。拷問は憂いを帯びた顔で砂埃の舞う砂漠を眺めた。
「そうなんじゃよ……、このままでは村も維持できん。滅亡の前触れではないか……」
ニャン吉は、毒地獄の文明ならこの問題を解決できるのではないかと考えた。そこで平らな岩のテーブルで硬い木ノ実の殻を割る手伝いをする鬼市に聞いてみる。
「毒地獄の文明にゃらこの問題も解決できるんじゃにゃいか?」
「ああ、できるだろうね。クソね……、いや! 白猫!」
鬼市は横目で自分をにらむレモンの視線を感じた。レモンは茶色い土器で野草を煮る手が止まり、失言すれば何をしでかすか分からない様子。充血した目でレモンは次の言葉を待っている。
「砂漠化や火山のメカニズムも分かるはずさ! そうに違いない! 白猫! ナイスアイディア!」
わざとらしくニャン吉を過剰に褒めると、鬼市はレモンの方をチラリと見た。レモンの怒気はある程度収まった。少なくとも、視線は再び土器に注がれていた。
木ノ実を円心状の木目がある木皿に添え、土器の野草を木製のコップに注ぎ終わる。辺りには香ばしい木ノ実の香りと、野草のスープの甘い匂いが立ち込めた。都会とは違った素朴な料理の匂いに、どこか温かみを感じる。
岩の間から服を着たがらない2人の鬼が「美味そうな匂いだべさ!」と何やらポリポリ食いながら覗き込んでくる。
「お前ら何食っているんだにゃ?」
「こんれは毒地獄製の『ボケてチップス』だぁ。『
「にゃんてこと言うんだ!」
長老宅の食卓についたニャン吉たち。ほのぼのとした雰囲気に包まれ、さあ食べるかというときにあいつがやってくる。
戸の代わりに岩の間に立てて置いていた木の板をコンコンと叩く音がした。その木製の扉を壊れないギリギリの力で何度も叩いて「開けーや! こら! 戸をぶち破るぞ!」と例のあいつが怒鳴った。
警戒して立ち上がるレモンは「誰だ! 何の用ダ!」と扉をにらみつけ臨戦態勢に入った。
「大丈夫だにゃん、郵便局の人でドア弁慶っていうにゃん」
拷問は「今出るぞ」と言って木戸を横にずらした。
金の延べ棒を鼻に指し、唐草模様の頬被をかぶったドア弁慶がどじょうをすくい始める。
「あ、ちょっと、
ドア弁慶は黒い革の鞄から手紙を出した。
「印鑑お願いします」
「ほい、紋所じゃよ」
ドア弁慶が消えようとする前にニャン吉が呼び止めた。先程鬼市に相談した火山と砂漠化についての対策を聞くため、手紙を運んでもらうように頼む。
「ドア弁慶、今から手紙を書くから毒地獄に届けてくれにゃいか?」
「もーう、人使いあらいなぁ。――それでも何度でも、はーい、
「そこをにゃんとか……、え? 届けてくれるのかにゃん?」
「それが私の仕事ですから」
困惑するニャン吉をよそに1人ザルでどじょうをすくいだすドア弁慶。
ニャン吉たちは手紙の相談をした。
「鬼市、砂漠化や火山の事を誰に聞いたら解るにゃん?」
「クソ……、白猫!
「レモンのことだにゃんね。それにゃら写真を撮って送るかにゃ?」
「そうするか」
ニャン吉は指輪型の写真機でレモンを撮った。レモンが目に笑みを浮かべてピースするので「無表情で頼むにゃ」と注意した。
その間、鬼市は手紙を書いて封をした。
「じゃあ、ドア弁慶。これを魔界家へ届けてくれ」
「ドアのポストにか? 直接か?」
「直接」
「あーい」
ドア弁慶は消えた。
「消えタ!? 消えマシタヨ!?」
レモンは驚きドア弁慶のいた辺りを何度も確認する。
――ドア弁慶が魔界家の戸を叩く。
「開けーや! 戸を――」
全てを言う前に魏志倭人伝子が開けたのでドア弁慶は露骨に不機嫌になった。その不機嫌も束の間のこと、笑顔で手紙を届ける。
手紙を渡したドア弁慶はどじょうすくいを緩やかに見せつける。
上目遣いで魏志倭人伝子が「もう少し優しく叩いてくれない?」と頼むが「それはできない相談です」と断固断わる。
魏志倭人伝子は2階にいる鬼負へ手紙を渡した。
「これが鬼市からだって」
「鬼市は今、番犬レースの付き人中だったよね……なんだろう」
鬼負は手紙の中身を広げて見た。手紙を一読すると机に向かい鬼負はすぐに返事を書いた。
手紙を出そうと玄関まで行くと、未だどじょうをすくっているドア弁慶に渡す。
「これを弟に届けてくれ」
「ポストにか? 直接か?」
「直接」
「あーい」
ドア弁慶は消えた。
ドア弁慶を見送った鬼負は、牧場で牛の世話をする鬼市害に三世の事を報告しにいった。レモンの写真を見た鬼市害は驚き思わず声を上げた。
「おお! これが三世だって!?」
「そうみたいだよ、父さん」
「どうも鬼になったみたいだな」
「そうだね、『
「一世鬼ってなんだ? 鬼負」
「一世鬼っていうのは、突然変異で鬼になった地獄の生物なんだ。定義は曖昧だけど……俺らみたいになることを言うんだ。俺たちはみな一世鬼の子孫らしいからね」
「へー、流石ポイズン大学の学者だな」
「もっと褒めろ」
――火山の噴火によって壊滅した邪魔大国の村々であったが、復興の拠点ができるとにわかに活気付く。ニャン吉は拷問の憂いを解決するために、ドア弁慶に手紙を託した。
『次回「三途の一族」』
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