第11話 植物の馬鹿野郎……
大地地獄の鬼たちはよそ者に乱暴であった。
――翌朝。
『余命29日』
ドーンという轟音でニャン吉たちは飛び起きた。何が起こったのか誰も分からない。すると、鬼市が山の方を指差して「火山が爆発したぞ!?」と驚きの声を上げる。
「な……! なんなんや!?」と思わず広島弁が出るニャン吉。
「お前ら、逃げるぞ!」と鬼市は声を張り上げ避難指示を出した。4人は山と反対方向へ走って逃げた。
逃げ切ったニャン吉たちは気付けば赤い地面ではなく砂漠地帯にいた。粒子の細かい砂を踏む度にザッザッと音が立つ。山の方を観ると火山は黒い煙を上げているが、マグマは噴き出してない。
「怖かったにゃん。みんにゃ無事かにゃ?」
全員無事であった。
「おかしいな、火山が噴火するなんて聞いてない……」
鬼市は、怪訝な面持ちで火山の噴火を眺めていた。
ひとまず安心したニャン吉が辺りを見回すと広大な砂漠が見えた。先程は逃げるのに精一杯で気にも止めなかったが恐ろしく広い砂漠だ。高い砂山があちこちからニャン吉を見下ろす。
砂漠に鬼がポツンポツンと点在している。鬼たちは『囚人に砂漠を歩かせる拷問』をしている様子であった。ニャン吉は鬼たちに忍び寄って聞き耳を立てた。
「今日も火山灰が大量に降ってくんべな。また豊作になるべ」
「マグマが流れてこねーのが最高だぜ」
「さんて、今日もこの『ジリジリ砂漠』で囚人の拷問といっか!」
「うし、行くか! んだがよ、こんの岩も
「んだぁ! 長老も心配してっぜ。長老は『溶岩が出たら悪い知らせじゃ』とか言ってるべや。しても、今回も火山灰しか降ってねーから大丈夫だっぺ」
「長老のいつものほら話だろ」
「そうに違いねぇ。ところでおめえ、何で服を着ないんだ?」
「おめえこそ!」
素っ裸の鬼たちは砂漠へ入っていった。その後を追うようにサボテンが走っていき、鬼たちの頭を殴っては擬態した。
「なるほど、マグマは出ないのか」と鬼市は1人納得した。
ニャン吉は、盗み聞きした鬼たちの話からあることを閃いた。
その夜、ニャン吉は火山灰の降り積もって灰色に染まった地面を掘り始める。昨日の折れた爪は元通りになっていた。
「どしたんや、ニャ吉」
「集太郎、そこの袋の中の種を持って来てくれにゃん」
「任しぇろ!」
ニャン吉は毒地獄で餞別にもらったカマカマファームで採れた種を掘った穴に植えた。すると、種はみるみる成長していった。芽が出て、葉がつき、茎が伸びて……どこまでも大きくなる。
「さて、どうにゃるか……」
花が咲き、自力で動き出す。根っこが地面から抜けると歩き始めた。植物は目の前にいるニャン吉に根をムチのようにして叩きつけようとしてきた。
「何するにゃ!」
ニャン吉は植物の攻撃を避けた。植物は「のほほ~ん! のほほ~ん!」と叫びながら暴れてだす。ニャン吉は植物の懐に潜り込むと茎を毒の爪で引っ掻いた……が傷1つつかない。
「みんにゃ! 逃げろ!」
鬼市はすでに逃げていた。
植物はニャン吉たちを見失うと、村の明かりのする方へ「お! れ! は! 馬! 鹿!」と叫びながら走っていく。柵を飛び越え村へ入った植物は見張りの鬼に襲いかかるが……あっさり倒された。
(こりゃ……使えるかどうか分からんの)
――翌日
『余命28日』
朝日が昇る前の薄暗い時にニャン吉たちは水を飲みに行った。鬼の見張りの目をかいくぐって飲む水は美味い。
口の周りをビシャビシャに濡らし戻ってくるニャン吉。鬼市が歯を磨きながら大事なことを伝えてきた。
「クソ猫、番犬候補が何人か入って来てるぜ」
「じゃあ、競争が始まるにゃんね」
「と言っても、お前が鬼の首をとった後だから後発は楽なんだがな。特に毒地獄は番犬候補に良い印象を持ったしな」
「先発だから有利というわけじゃないにゃんね」
歯磨きが終わり水で口を濯ぐと、わざわざ用意した白猫のぬいぐるみの上にペッと吐きかける。顔をしかめるニャン吉。鬼市はもう1つ重要なこととして首輪を指差す。
「それからクソ猫、他の番犬候補に首輪を破壊されたら即番犬レース脱落だからな」
「そうなのかにゃ! 分かったにゃ」
朝日を背に朝食を取るニャン吉。少し種を食べながら考えた。昨日の実験して判明した事を心の中で列挙する。
『1つ、ここの大地は硬くて特殊だ』
『2つ、火山灰が植物を育成させる肥料になる』
『3つ、毒地獄の種を植えると怪物ができる』
ここでもニャン吉は正々堂々と戦うつもりはないようだ。取り敢えず植物の化け物を鬼にけしかけて鬼の首を取りたいのだが……難点があった。
(あの植物、知性の欠片もないけえのう。どうすりゃええんや……)
空を舞う虫たちがニャン吉の肩に止まり提案する。
「水をキープしよーうよー」
「なんか入りぇるもんないか?」
その言葉にニャン吉は閃いた。
「水だにゃん! ここの水をかけて植物を育ててみるにゃん!」
『実験その1、水だにゃん』
――辺りが暗くなってきた。ニャン吉は目を光らせ古代鬼村へ忍び寄る。彼が持ち運んでいる袋の中には水が入っていた。村の近くでコソコソ穴を掘る。1時間ほど地面を掘っていった。
(以前より、
今度は地面に種を埋めた後に水をかけた。植物が育ち始めるとニャン吉は一目散に逃げて岩陰から様子を伺う。ニャン吉の目論見通り、植物は前よりも大きくなっていた。
村の明かりを目指して力強く根っこで駆けてゆく植物。以前は破壊することなく飛び越えていった柵を今度は蹴り壊し村へ突入する。
(やれ! やっちゃれ!)
力を増した植物を見付けた見張りが警鐘を打ち鳴らす。植物は簡単に包囲され、たちまち鬼にやられてしまった。正面突破をするあたり、頭の方は進歩がなかったようだ。
ある程度の期待をして、前脚を村の方へ出しかけたニャン吉であった。だが、植物の醜態を見届けると踵を返す。
――翌朝。
『余命27日』
ニャン吉は植物の攻撃の影響をその目で見るため、静かに村へ侵入。聞き耳立てていたがどの鬼も植物の話題を出さない。柵も元通り。
思ったよりずいぶんと効果は薄かった。ニャン吉は肩を落とすが、これ以上なで肩になっても変化は見られなかった。人目を避け村の裏手を通るニャン吉。途中、目に入ったのは畑を耕す鬼であった。
「おら疲れたべ〜」
「おめえそんなこと言ってまだほとんど耕してねえじゃねえか」
「そんなこと言っても……ああ! 服を脱ぎたい!」
「それにゃあ同意だぁ。服は罪だべ!」
鬼たちの談笑を小屋の影から上目遣いで見ていたニャン吉。
(土じゃ! この耕されとる土を使やあええ)
――植物は馬鹿である。植物の化け物計画はどうなる……。
『次回「目覚める大地の力」』
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