第12話 目覚める大地の力
大地地獄の鬼を従えるため、力で劣るニャン吉は毒地獄でもらった種を育ててみる。すると、種は植物の化け物となって暴れだす。それを利用しようとたくらむのであった。
大地地獄の大地にただ植えただけでは植物の力は弱かったので、試しに水をかけると強化されることに気付いたニャン吉。今度は畑の土を盗んで植物を育成する。
『実験その2、土だにゃん』
脱衣主義の鬼たちが畑を耕し終わって家路についた頃。夕闇に目を光らせるニャン吉の魔の手が畑へ及ぶ。
畑に種を植えてみた。しかし、芽は出ない。ニャン吉は耕された土を少し袋に入れてネコババする。
集太郎とペラアホが昨日、西から日が昇ったと議論中のところへニャン吉は帰った。
――そして、夜。ニャン吉は再び村近辺の土を掘って種を撒く。今度は耕された土をかけて水をかけた。
勢い良く植物が生えてきて暴れだした。駆け付けた鬼に金棒で破壊された。やはり、以前より強くなっていたけれども、頭の方は進歩なし。
(解ったで。コツは農業じゃ)
分かったようなことを言う猫である。
この頃になると村の警備が強化され、夜も見回りがおこなわれるようになった。白い猫の人相書きを掲示板に貼り、『クソ猫を許すな』と煽り文句を書いてあった。
鬼たちはニャン吉を以前見かけた所も見張るようになる。だが、この程度で止めることができるようなら邪王猫ニャン吉ではない。相手の裏をかくのは得意中の得意。畑の側に建てられた高床式倉庫の屋根に登って隠れると、夜に動かず朝を待った。
『実験その3、深く掘るにゃん』
『余命25日』
朝日が昇る前にニャン吉は屋根から飛び降りた。音もなく着地すると、畑を更に深く掘り始めた。
(畑に植えても育たんのは、深さが足りんけえよ)
ニャン吉は最初の頃より穴掘りが上手くなっていて、1時間で以前の倍近くに深い穴を掘ることができた。
人の気配を察知するのに長けているニャン吉。それは、西日本の動物社会を統一する戦いの過程で身に付けた技術。誰にも見つからずにまんまと穴を掘ると、その穴へ種を放り畑の土をネコババしてかけた。その上から水をかけて植物を育てた。
村の外から植物を観察していた。だが、またしてもあっさり植物はやられた。強くはなっても頭の方が進歩しない。集太郎が「あいちゅら大丈夫か? ニャ吉」と心配するほど。
『実験その4、連続攻撃だにゃん』
――次の日。
『余命24日』
村の警備は更に強化されたがニャン吉は容易く村に侵入し、いくつか穴を掘る。種と土をセットして、順に水をかけて連続攻撃。しかし、それでも鬼にはやられてしまう……。
植物の醜態の数々に、いよいよニャン吉は頭を抱えて悩む。
(なんやこの植物、頭が悪すぎるじゃろうが! 鬼が金棒を振り回しとるのにバカの一つ覚えで正面突破しかせんとはの!)
――翌朝。
『余命23日』
後ろから他の番犬候補が迫ってくる。その焦りからなんとか植物を使役しようと狂ったように穴を掘るニャン吉。
さすがに集太郎が心配して「モグラが乗り移っとるみたいじゃ」と声をかける。
ペラアホは「呪われていーるよー」と言っている。
意地になって穴を掘るニャン吉。1時間ほど穴を掘ったとき、ニャン吉の体に異変が起きた。自分の少し大きくなった体に気付いたニャン吉。肉球を見てみると色がピンクから茶色に変化していたのである。更に、肉球が地面にくっついた。
「にゃんだこれは……」
自分の意思で肉球を地面にくっつけたり離したりできる。それのみか、壁に張り付いて歩けるようになった。
「しゅごいのニャ吉。ゴキブリみたいじゃ!」
「ゴキブリは失礼だにゃん!」
「そーうだよー、集太郎。こういーうのは成金たちの癒着っていうーんだ」
ニャン吉は鬼市のいる所へ走っていく。
「やあ、そんな顔してどうした。クソ猫っぷりにでも磨きをかけたのかい」
「鬼市! 首輪を見て欲しいにゃん」
ニャン吉は頭を下げた。
「はっはっはっ、まるで僕に土下座しているみたいじゃないか。臭くってすいませんにゃんってな」
「そうじゃにゃい! 首輪の色だにゃん」
「分かってるよ、クソ猫。首輪が茶色になっているぜ。この地獄に馴染んだんだな。死めくりカレンダーの余命が消えてるぜ。それに、少し大きくなっている」
「やっぱりそうかにゃん」
「ここの地獄に馴染む条件の1つは、『1日に1時間以上何回か穴を掘ること』だからな」
「壁も歩けるようになったにゃん。これがこの地獄に馴染んだときの技かにゃん?」
「そうさ。……んー、お前の場合、足の裏に大地の力を宿す技らしいな」
「そうかにゃん。で、この技の名前はなんていうにゃん?」
「特に無かったと思うけど」
「じゃあ、『猫歩き』と名付けるにゃん」
「猫畜生らしくてお前らしいじゃないか。もう1つ技があるが、あんよに大地の力を宿してみろよ」
「肉球だにゃん」
「その状態で地面を叩いてみな」
「にゃ」
ニャン吉は、猫歩きの状態で地面を叩いた。すると、叩いた所から少し離れた所の大地が盛り上がり、そのまま上へと弾け円形の穴が空いた。円形の穴から黄色に光輝くエネルギーが吹き出した。黄色い円柱が立ち上る。これには虫たちも驚き声が出ない。
「にゃ、にゃんだこれ!?」
「それはガイアのエネルギーといってね、お前の大地の馴染み技の応用だ」
「にゃるほど、面白いにゃん! この技、『猫叩き』と名付けるにゃん」
「はっ! 猫くせーな」
虫たちはニャン吉にもう1回猫叩きを見せるように頼んだ。ニャン吉も試運転を兼ねて猫叩きをした。
「しゅごい…こりぇさえあれば畜生根性丸出しじゃ。蝶々もびっくり」
「こーれーは。バルサミコ、お前にーも見せてやりたーいぜ」
「とにかく、これは実験だにゃん」
兎にも角にも使いこなすのには使うのが1番。ニャン吉は実験を開始した。
猫歩きは地面だけではなく、建物でも使えた。
(こりゃええわ、使い方次第じゃええことできるで)
猫叩きはさすがに地面以外では使えなかった。1度使うと少しの間使えなくなるから連続攻撃もできない。しかし、威力は申し分ない。
例の邪王猫な笑みを浮かべたニャン吉が砂漠へ行くと、予想通り鬼が数名いた。その内、他の鬼から遠く離れた1人の鬼に目を付けた。
「くらえや!」
ニャン吉は猫叩きを遠くから鬼を狙ってぶっ放すと、鬼のいた地面から黄色い円柱が立ち上った。鬼は空へ吹っ飛んでから砂漠の上に落下した。鬼は周囲を見たが何も見えない。そして、中々起き上がれない。
(半径50メートルは届くのう)
猫叩きを色々実験検証してニャン吉は決めた。
(ここは男らしゅう猫らしゅう、1対1で後ろとか側面からしかけるで。力持ちに正攻法はバカのやることじゃ。名付けて、『鬼門はどこ?』作戦じゃ)
仲間の待つ所へ戻るとそこに鬼たちの姿があった。もしやと思い、周囲の岩山の側面を猫歩きで歩いた。慎重に見付からないよう近付くと、なんと、集太郎とペラアホが鬼たちに見付かっていた。
(こりゃやばいわ。集太郎もペラアホも捕まっとる! 鬼市は、付き人にゃ手を出せんけえ高みの見物しとるわ)
――大地地獄に適応した喜びも束の間、虫たちが鬼に捕まってしまう。
『次回「奇跡の種」』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます