第9話 さらば大都会の闇よ
それから2日後、薮医者が診察に来た。ニャン吉の脈を再び測ると、「ふう、こういう音はもういいんだよ。飽きるよ、毎日毎日」と脈を測る愚痴を聞かされた。
ニャン吉を診察し終わると薮医者はつまらなさそうにため息を吐いた。そして、使うはずであった注射をダーツの矢みたいに壁に投げた。注射が壁に見事刺さったので薮医者は笑顔を取り戻す。
「もう大丈夫そうだねえ。飲めば元気になる薬と、飲むと廃人になる薬、どっちがいい?」 「まず廃人になる薬を自分が飲んでみせてくれにゃいか?」
薮医者は元気になる薬を置いて走り去った。
久しぶりに息を抜くニャン吉。外の景色を眺めながら大あくびをしていると、突然戸をガンと叩く音がした。そして、戸が壊れるくらい何度も叩いて「開けーやこら! 戸をぶち破るぞ!」と何者かが怒鳴った。ニャン吉は毒の爪を出して戦闘準備をする。
鬼市が「はい、すぐ出ます」と言って平然と戸の所へ歩いた。虫たちも平然としている。
戸を開けるとそこには、鼻に金の棒をさし、手拭いを頬かむりした火男面の男が立っていた。どじょうすくいの衣服を着て、手にはカゴを持っている。
男は穏やかにどじょうをすくいながら「あ、ちょっと、
「クソ猫、こいつはドア弁慶。冥界の郵便配達員さ」
ドア弁慶は「印鑑お願いします」と礼儀正しく言った。鬼市が印鑑を押すと、ドア弁慶は一瞬で消えた。
「にゃ!? 消えた……」
何事もなかったかの如く鬼市は戸を閉めて、手紙を見た。
「閻魔からだ。クソ猫、お前にもあるぜ」
「蝶々のは?」
初めて見る部類の怪人・ドア弁慶。どうにも納得がいかないニャン吉であったが、地獄とはこんな所なのだろうと受け入れることにした。そして、鬼市から手紙を受け取った。
『ニャン吉よ、こんなに早く毒地獄を突破するとは思わなかった。さすがは西日本の動物社会の棟梁だっただけのことはある。瀬戸内海を中心とするお前が創立した組織、アニマルパルチザンは今も機能しておる』
「アニマルパルチザンは元気にやっているのかにゃ。良かったにゃ」
ニャン吉は手紙の続きを読んだ。
『仲間を率いることにかけては天才的なお前らしいな、蝶々と蜻蛉もいい働きをした。悪党外道の四面楚歌作戦は面白かったぞ。お前の目的は分かっている。毒地獄に麻薬が蔓延するのを阻止したのだな』
「何でそんなこと知っているにゃん!? あんたストーカーかにゃ!」
ニャン吉は手紙の最後まで読んだ。
『ちなみに、鬼とは人のような知性を持つ生物全般のことだ。所謂お前のいた世界の霊長類と同義だ。原則、鬼は人扱いだ。最後に、次の地獄からはあることが重要になってくる。それは、自ら探せ。以上』
ニャン吉が手紙を読み終わると、再び戸を叩く音がした。今度はコンコンと落ち着いた叩き方であった。
「誰だにゃ?」
「朝刊宇新聞の物です。ニャン吉様に取材に参りました」
鬼市が戸を開けると、宇新聞の記者が2人いた。斑模様の牛と、長毛で金毛のハムスターである。牛はスーツの上半分を地肌に着ており、鼻には赤銅色の鼻輪がかかっていた。
牛は「
牛の肩に乗っているハムスターは「
取材がしたいというのでニャン吉たちはホテルのロビーへと向かった。
ロビーにある六角形のガラス製机を挟み、ニャン吉は毒地獄での様々なことを聞かれた。仲間との出会いの時に集太郎とペラアホが取材を受けた。
取材が終わった時、ハム男が言った。
「拙者も番犬候補が入ってきたら、まずは力を見るように指導を受けました。ニャン吉様は麻薬の蔓延を阻止しようとしたことは調査済みです。何でって顔していますね。宇新聞を甘く見ないでくだ……って、牛一さん!?」
牛一は急に立ち上がり歩き始めた。
「ふん! 以上です。ありがとうございました」
牛一は鼻息荒く「牛歩! 牛歩!」と大声を発して自動ドアへ走っていく。
「待ってください! 牛一さん」
「ふんふん! いつからここは自動ドアになった」
「1000年以上前ですよ!」
宇新聞の記者たちは去って行った。
翌日、ニャン吉はホテルのロビーにあった宇新聞を読んだ。
『人事一新、拷問所と警察署』
『鬼のおまわり護送中に地獄門の鍵を奪い逃亡。全地獄指名手配に』
『新番犬候補のニャン吉、期待の
(……なにが邪王猫や!)
体力がすっかり回復したニャン吉は、次の地獄へ行くことを決めた。そして、虫たちに尋ねた。
「そろそろ、次の地獄へ行こうと思うにゃんけど……集太郎、ペラアホは来るかにゃ?」
「蝶々がおれば百人力じゃ、行くでニャ吉」
「俺も行ーくぜーい」
「よし! 大変だと思うけどよろしくにゃ。で、鬼市。次の地獄はどんな所だにゃ?」
「それは試練の内容だから言えないね」
「分かったにゃ。明日は準備して、明後日出発だにゃ!」
旅立ちの日。毒地獄の下り門へ来たニャン吉たち。白い大理石でできた頑丈な門を見ると、地獄は牢獄なのだということを改めて認識させられた。
下り門の周囲には毒地獄の住人やカマカマファームの人たちが見送りに来てくれた。
「ニャン吉、気を付けて」
「負けんなよ!」
皆が口々に声をかけてきた。それから、植物の種をニャン吉は渡された。
「次の地獄でもこれを食べて元気出せ! 毒地獄中の農家からの贈り物よぉん。じゃなかった、贈り物だ!」
「ありがとにゃん、必ず地獄の番犬になってみせるにゃん」
ニャン吉たちは出発した。
――毒地獄の下り門を通った……。毒地獄よ、しばしのお別れだ。ニャン吉は花尾集太郎とペラペーラ・ア・ホーンを仲間にした。毒の力も手に入れて少しだけ強くなった。
そして、次の地獄へ……。
『絶命期限まで、後352日』
『次回「新章、第二地獄」』
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