第6話 ニャン吉の策と毒の力の覚醒

 鬼たちには普通に戦っても勝てない。そう判断したニャン吉は、鬼を罠にかけることにした。練りに練った鬼の首を取る作戦をニャン吉は皆に披露する。


「じゃあ、集太郎、ペラアホ、鬼市、始めるにゃん」


『計画第1・鬼は外、猫はうち計画』

「まずは、家の中に草を炊いて煙を入れるにゃん。そして、火事に見せかけて家から鬼を追い出し、家に侵入して獄卒士の免許を奪うにゃん」


 ニャン吉は草の束を皆に見せた。その草をライターで炙ると、白い煙がモクモクと立ち上る。だが、草が燃えることはなかった。


「この特製煙幕にゃらにゃん。各家の火災報知器が煙感知器の光電式こうでんしきなのはチェック済みだにゃ。熱や炎式じゃにゃくて良かったにゃん」


『計画第2・渡る世間は鬼ばかり計画』

「では、お手元の写真をごらん下さいにゃ」


 今度は集太郎の隠し撮りした例の写真を皆に見えるように地面にバラまいた。写真に写っているのは拷問所の男である。笑顔で2つの鼻の穴からマリファナを吸っている。


「次に、獄卒士の免許で金を下ろしたら拷問所の男をこの写真で脅すにゃん。そして、奴の手で、奴の名義で魔界ショップから武器を買わせるにゃん」

 ニャン吉は虫たちに顔を寄せ力説する。

「いいかにゃ、が大事だにゃんよ! 名義が」


『計画第3・鬼の目にも涙計画』

「魔界ショップには指定した場所に武器を配置してもらうにゃん」

「配置開始」

 鬼市は、太陽を見ながら独り言を清々しく叫んだ。


 ニャン吉は地面に木の棒で器用に地図を描く。

「その場所は、四面を険しい崖に囲まれた円形の岩だらけの荒れ地。出入り口は1つしかなく、崖に挟まれ細く入り組んでいるにゃん。その四面崖の所に獄卒士の免許の奴らを誘い込むにゃん」

「しょれから?」

「どーするーんだーい」


「誘い込んだら出入り口を爆破して退路を塞ぐ。そして、崖の上にリモコン式の武器を配置して撃ちまくるにゃん。崖は登れないように地雷を埋めて、煮えた油も流すにゃん」


 ニャン吉は元気よく大きな岩の上に飛び乗る。そして、用意していた橙色の草を食べたらが変わった。


「これが3大計画だにゃん。名付けて! 悪党外道あくとうげどう四面楚歌作戦しめんそかさくせんだにゃん!」


 首輪の色が紫色に変わっていることに気付いた鬼市。

「おい! クソ猫! 首輪の色が紫色になっているぜ。毒地獄に適応できたんだな。見ろよ、死めくりカレンダーからが消えてるぜ」

「本当かにゃ!」


「本当さ。今なら言えるけど、毒地獄に適応する条件の1つは『毒の七草』という七色の毒草を全て食べることだったのさ。七草は食べると10分の1の確率で死ぬんだ」

「死ぬのかにゃ……」


「今のお前は体が少しだけ大きくなっているぜ。地獄に適応するたびに大きくなって番犬の体に近付いていくのさ。まあ、いつでも元の大きさに戻れるけど」

「そうなのかにゃん」


「それともう1つ。お前は『毒の力』を手に入れたぜ。爪や牙に毒を宿らせたりできる『馴染み技』さ。今のお前なら毒地獄の鬼も倒せるぜ」

「それはすごいにゃん! じゃあ、ちょっとやってみるにゃん」

 ニャン吉が念じると、爪と牙が紫色に染まり毒が宿った。


「それで鬼を攻撃すればイチコロさ。ところでそれは何の毒だ?」

「体の自由を奪う毒だにゃん。でも、死んだり後遺症が残ったりはしないにゃん。……これがせめてもの慈悲じゃ」


「それから、首輪の機能をもう1つ教えよう。僕を攻撃してごらん」

「分かったにゃん、ぶっ殺すにゃん」


 ニャン吉は今までの不満をぶつけようと鬼市にジリジリと近付く。バネのような猫の両足にしっかりと力を込めて飛び上がった。爪を出して鬼市の顔を引っ掻こうとした。その時、首輪から全身に電流が駆け巡る。

「にゃあ!」


 感電して、全ての脚を投げ出し、陸に上がった魚のようにピクピクするニャン吉。それを見て、鬼市は手を叩き爆笑した。

「はっはっはっ、クソ猫。お前が1つでも地獄に適応すると、付き人に攻撃する時に電気が流れるんだよ」

「口で言えにゃ! こんな物いらん……取れにゃい……」


「わっはっはっ! それは1度身に付けたら番犬になるまで外せないのさ」

(くそっ、やられたわ)


「われ、全部聞いたで」

 遠くの岩影から鬼のおまわりがタバコを吸いながら出て来た。麻薬入のタバコを草原にペッと吐き捨てたおまわりはニャン吉たちを強請ろうという魂胆だ。


「われがやろうとしとること警察として、見逃せんのう。囚人になるか? こら」


 ポンと手を叩いた鬼市は満面の笑みをして小声で「丁度いい、こいつで実験してみろ」とニャン吉へ勧める。すると、ニャン吉もまた含み笑いをする。


 ニャン吉は岩を飛び越えると目にも留まらぬ速さで鬼のおまわりの後ろに回り込んだ。

「なんじゃあ……消えた!?」と間抜けな声を出して驚く鬼のおまわり。


 肩甲骨の当たりに爪を立てると、毒の爪でダブルのスーツを引裂きながら背中を引っ掻いた。すると、たちどころに毒が全身にまわり、鬼のおまわりは呂律が回らなくなり前にズドンと倒れた。

「まあ、こんな具合だ。クソ猫」

「実験台、御苦労だにゃん」


 ニャン吉は勝利の証に鬼のおまわりの顔にニャンションをかけてから砂をかけた。集太郎とペラアホも砂をかけた。鬼市は鬼のおまわりの顔に木の棒で挟んだ動物の糞をそっと置いた。

「魔界家をなめんなよ」と怨念のこもった低い声で囁く。


 それから、鬼市はホテルへ戻り、ニャン吉たちは辺りが暗くなるのを待った。


 ――夜の帳が下りる頃、妖しく目を光らせる白猫が草を咥えて住宅を徘徊する。煙幕を各家の庭へ隠し準備万端。住宅街の外へ出てから草原に体を投げ出し夜中になるまで寝た。


 みんなすやすや眠る頃。真夜中に起きたニャン吉たちは、準備運動も兼ねて最後の下見をした。月明かりに照らされたニャン吉は、目を不気味に光らせる。


 集太郎とペラアホに「準備はいいかにゃ?」と聞いたニャン吉。

「任しぇろニャ吉。蝶々は最高の気分じゃ」

「心洗われーる星空に、悪党外道に乾杯ー」

「よし! 出陣だにゃん!」

 ニャン吉たちは、黒田節を歌いながら出陣した。


 悪党外道の四面楚歌作戦開始である。


 ――ニャン吉の悪知恵は果たしてどこまで通用するのか。悪党外道の四面楚歌作戦を実行に移す。


『次回「悪党外道の四面楚歌作戦」』

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