第5話 怪しい下準備

 鬼の首を取るために毒地獄を回ったニャン吉は何かをひらめいた。


 邪王猫な笑いを浮かべるニャン吉。刀傷のように細く釣り上がった目は下三白眼となり、眉根に怪し気な影ができる。広角は極限まで上がっており、口の中が暗くて見えない。


 そんな悪意に満ちた顔したニャン吉は鬼市に質問をした。


 まずは、地獄の経済について。ニャン吉は金の流れを抑えることがクズ対策の時、最高に有効なことをよく知っていた。

「鬼はお金を使っているにゃんね。お金はどこで受け取るにゃん?」

「銀行さ、ATMが便利だよ」


「キャッシュカードかにゃん?」

「キャッシュカード? ああ、『獄卒士の免許』で給料を下ろすのさ」


「例のあれかにゃん」

「知っているのか? ああ、昨日誰かに聞いたのか」


「給料日はいつだにゃん?」

「毒地獄では、今から5日後に一律で全国民さ」


 次にニャン吉は拷問所について質問をした。それは、戦闘の勝敗を分ける武器の調達についてである。

「拷問所の武器はどこで買うにゃん?」

「あれは全てうちの製品だ。『魔界ショップ』製さ。拷問所の職員しか買えないよ」


「拷問所の職員は不祥事があったらどうなるにゃん?」

「まずは解雇。場合によっては閻魔の名誉を傷つけたとして囚人になったりするだろうね」


「魔界ショップ製の武器は鬼にも効くかにゃん?」

「安全装置を解除すればイチコロさ」


 最後にニャン吉は歓楽街について質問した。クズはゾロゾロとそこへ集まるというのがニャン吉の結論であった。

「歓楽街はあるかにゃ?」

「東の方に金座きんざという所がある」


「いかがわしい店はどれくらいあるにゃん?」

「鬼のおまわりが遊びに行くような店が星の数ほどあるね」


「ありがとにゃん。また明日にゃん」

 ニャン吉と鬼市はにたりと笑った。特にニャン吉は先程同様に再び邪王猫な笑いを浮かべた。


 鬼市はホテルに帰った。


「蝶々! 蜻蛉! 話があるにゃん」

「何や話っていうのは、蝶々の出番か?」

「蜻蛉にお任せー」

 ニャン吉は作戦を話すため人気のない場所へ移動した。そこに生えていたジューシーな赤い草を食べながら話しを始めた……。


「まずはお前たちのどっちかには拷問所の職員を見張ってもらいたいにゃん」

「よし! 蝶々に任しぇろ!」

「悪いが俺にはできなーいね。蜻蛉の目は全て節穴なーんだ」

 蜻蛉は背を向け飛び去ろうとした。


「蜻蛉、お前にはATMの暗証番号を見てもらいたいにゃん。最低20人の暗証番号と名前と住所を記憶してほしいにゃん。それから、分前は10分の1。これでどうだにゃん?」

「……トンボの眼鏡は水色眼鏡、よし! 俺にしかできなーい任務だ」


「さて蝶々、お前はこの写真の男をつけてほしいにゃん」

「分かった、しょうしゅるソース」


 ニャン吉は鬼市にもらった指輪型カメラを蝶々に渡した。宝石の部分がレンズになっている。

「こんなに小さいのがカメリャなんか?」

「拷問所で鬼市にもらったにゃん。そのカメラで写真の男を撮るにゃん。そいつは妻帯者で左手の薬指にドクロの指輪を着けていたにゃん」


「悪趣味なしょれを目印にしゅるんじゃの」

「そう。そいつは鬼のおまわりと同じ匂いがしたにゃん。麻薬の中毒者だにゃん。薬が切れたら必ずそいつは金座へ行くにゃん」


「しょれから」

「そこで麻薬の取引現場を写真に収めるんだにゃん。蝶々なら見付かっても誰も気に留めにゃい。それから、そいつは絶対女癖が悪いにゃん。そういうのもきちんと撮るにゃんよ」


「任しぇとけ。うちゅしまくりゅで」

 蝶々は意気揚々と任務に就いた。


「蜻蛉、獄卒士の免許を見て相手の住所も特定するにゃんよ」

「それならば心配無用! 蜻蛉の眼鏡はピカピカ眼鏡、任せーろ」

 蜻蛉も気合を入れて任務についた。


(さて、俺は煙幕を作るとするかの。そういや、面白い草が生えとったのう。紫色、黄色、緑色、赤色、を食べたけえ……。他は、青色と藍色と橙色があったのう。虹色七草じゃ。ありゃ美味いし、腹も太るけえ確保しとくか)


 虫たちが任務に就くとニャン吉は1人毒地獄を見て回る。巨大な山脈の麓にとある場所を見付けた。そこは、四方を崖に囲まれていて出入り口が1ケ所しかなく、その出入り口も細く入り組んでいた。

(ここに罠を仕掛けるとするかの)


 次にニャン吉は鬼市からもらったライターで色々な草に火を付けてみた。いくつかは燃えることなく煙を出すのを見付けた。

(煙幕はこれじゃ)


 それからニャン吉は青と藍と橙の草を探すことにした。準備は順調に進んだ。

 

 ――翌朝。

『余命27日』

 赤紫の朝日に照らされる毒溜広場にニャン吉は鬼市を呼び出した。

「鬼市、そろそろ武器の用意をしておいた方が良いんじゃにゃいか?」

「そうだね、カマカマファームに戻るとするか」

 悪意伝わる以心伝心。


『余命24日』

 ――約束の日、すなわち給料日の前日。ニャン吉たちは町の外れに集合した。そこでは任務を果たした者たちが赤紫の朝日に照らされていた……。


「では、まずは蝶々。写真は撮れたかにゃん?」

 蝶々は誇らし気に下衆な写真を提出。そこには、拷問所の男がしっかりと写っていた。


『麻薬を取り引きしている所』


『女遊びの動かぬ証拠』


『違法賭博をしている現場』


『詐欺のプランの売却』


『武器の密売』


『最近行方不明の子供たちが監禁されている建物』

 など、思った以上にヤバイ写真であった。


 全ての写真を観終えたニャン吉は悪寒が走った。よく観ると鬼のおまわりは全部の写真に写っていた。

(あの野郎、無事に皆勤賞とったのう)


「ありがとにゃん蝶々。次は蜻蛉」

 蜻蛉は100件以上のデータが記載された紙を提出。

「蜻蛉……、これ金額がおかしいにゃん。2桁多いにゃん」

「ニャッキー、蝶々と協力したかーらね。そこの写真に写ってる奴らのだーよ」


「ニャッキーって俺のことかにゃ?」

「そうさー、今度からそう呼ぶよーう」


「――ところで、虫たち。お前たちの名前はなんていうにゃん?」

「蝶々はの、花尾集太郎はなおしゅうたろうじゃ」

「俺は、ペラペーラ・ア・ホーン。ペラアホって呼んでくれ」


「えっと……、ペラアホね……。こいつらは悪党だにゃんね。悪を暴くとか言っているゴシップ誌の妄奸誌もうかんしの連中と財界の大物が一緒に笑顔で違法賭博をしているにゃん」

(最初は少し後ろめたい思うとったが、この連中なら問題ないじゃろ。これで作戦名も決まったわ)


「次は、鬼市」

 鬼市は急にラジオ体操を始める。すると、小冊子がポケットから落ちた。それは、本来一般人には見せてはいけない武器のカタログである。表紙には銃を構えるオカマが描かれていた。カタログには魔界ショップ製の武器と在庫の数がしっかりと記載されていた。


 鬼市は呪文を唱える。

「記憶にございません。記憶にございません」

 ニャン吉がカタログを見ている間、鬼市のニャン吉に背を向けたラジオ体操は続いた。本来なら不正である武器の横流しも、ラジオ体操中の最中、知らぬ者が勝手に手配したので本人の与り知らぬ所だそうだ。


 ニャン吉は、カタログの武器購入欄に数字を書き入れると鬼市のポケットに戻して「鬼市、もういいにゃん」と合図をする。鬼市のラジオ体操は終わった。カタログをしっかりと手で確認して含み笑い。


 ニャン吉は数日間練りに練った計画を発表した。


 ――果たしてニャン吉の策とは。


『次回「ニャン吉の策と毒の力の覚醒」』

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