第3話 鬼との力の差

 タバコを吹かしながらオカマバー・オカマキョンシーに入ってきたヤクザ風の男。鬼市害がその男を警戒する。


 パンチパーマに細目で歯が虫歯だらけのヤクザ風の男。タバコの匂いを嗅いだ時に険しい顔して鬼市害が男を咎めた。

「おい! おまわりさんよ。ここはそういう店じゃねぇぞ。をやりたきゃよそへ行きな!」

「おい、店長! われこら! 麻薬を誰がやっとる言うんじゃ」


「あんたみたいなのは入店お断りだよ。この酒やるから帰りな!」

 バーの上にドンと焼酎のビンを置いた。ビンのラベルには『アル中焼酎じょうちゅう』と書いてあった。舌打ちしてバーの前に立ったおまわりはニャン吉を踏んだ。

「にゃあ! 何をする!」

「何じゃわれ!?」

「ニャン吉だにゃん! 踏んだんだから謝れ!」


 おまわりは屈んでニャン吉をにらんで謝った。

「悪かったのうクソ猫! これで許してくれや」と言うとタバコの灰をニャン吉の頭の上に落とした。

「何をするにゃ……鼻に入ったにゃ……。この野郎! 番犬候補を舐めるにゃよ!」


 怒ったニャン吉はおまわりに飛びついた。だが、ニャン吉は頭を片手で掴まれ座敷に投げられた。

「われは候補にすらなってないのう。せめて番犬候補にならんにゃ相手にならんのう」

 おまわりは床に唾を吐いて嘲笑う。


「おい! さっさと出て行きな! じゃないとこっちも容赦せんぞ」

 鬼市害が腕まくりをして目を釣り上げおまわりに怒鳴った。太い丸太のような腕を見せ鬼のおまわりに詰め寄る。


 一瞬たじろぐおまわりであったが、冷静さを取り繕い「帰るわこんな店! 後のう、ニャン吉こら! 覚えとけえよ」と捨て台詞を吐き店を出て行った。


「ごめんねぇ、ニャン吉ちゃん」

「大丈夫だにゃん……」

(まさかここまでじゃとは……。鬼と力の差があり過ぎじゃ……)

「最近は麻薬をする鬼が増えたわねぇ。やはり番犬不在じゃあね……」とオカマ鬼たちがヒソヒソ話をしているのがニャン吉の耳にも入った。


 そして、オカマキョンシーが閉店して、ニャン吉は魔界家に一泊お世話になる。ニャン吉は1階のソファーに横になると魏志倭人伝子が背中に毛布をかけてくれた。ニャン吉は電気を消してもらう前に鬼市害に尋ねる。

「麻薬がここでは流行っているのかにゃ?」

「……気にすんな! ニャン吉。これぐらいのことは俺らで何とかするからよ。試練に集中しろ」


 ――夜が明けた。

『余命30日』


 どんな時でもニャン吉は熟睡できる。よく寝たニャン吉は、村の外れにある花畑を散歩した。


 花畑に沿って流れる小川のせせらぎに心癒やされると、ニャン吉はトイレに行きたくなった。赤い花にションベンをかけていると、1匹のカラフルな揚羽蝶がヒラヒラとやって来た。


「蝶々だにゃん。久々にじゃれるかにゃん」

「お前何しょるんや、蝶々様がしゅおうとしとった花に、ニャンションかけやがって」

 なんと、舌足らずな喋り方で蝶々が話しかけてくるではないか。

「お前喋れるのかにゃん!?」

「当たり前のこと言うな! お前脳味噌吸のうみしょしゅうで」


 蝶々の声を聞きつけて、緑色の蜻蛉とんぼもやって来た。蜻蛉は妙に間延びした喋り方で蝶々をからかう。

「蝶々、猫が相手だとお前の脳みそがしゅわれーるぞ」

「うっしゃい、蜻蛉。お前もちゅちゅくんじゃしに来たんだろが」


「すいませーんね猫、蝶々は馬鹿なーんだ。許してあーげて」

「馬鹿はお前じゃ」

 2匹は花の上で喧嘩を始めた。


 ニャン吉は虫たちの喧嘩を無視。近くに香しい紫色の草を見付けると躊躇せず食べ始めた。

(こりゃうまいのう、なんじゃこの紫の草は)


 鬼市が花畑で草を食べるニャン吉へポイズンシティに行く時間が来たと伝えに来た。

「クソ猫、父さんが時間が来たってよ」

「分かったにゃん。昨日のオカマ鬼が待っているにゃん」

「その人の家はあっちだ。ついてこい、クソ猫」


 2人の会話を聞きつけた2匹の虫が突然話しに割り込んでくる。

「お前りゃポイズンシティポイジュジュに行くんだったら蝶々も連れてってくれ。連れてかんかったら国家的損失こっかてきそんしちゅになるんで」

「俺は役に立つと思ーうよ。猫の手も借りたいくらいなーんだろぉー、鬼さんよ。蝶々、お前は必要なーい。花でもちゅちゅいてろ」


「何だにゃ、お前たち。あっちへ行ってろにゃ。こんな虫にゃんか必要にゃい。だろ、鬼市」

「別にいいじゃん」

 気のない返事である。

「にゃ、にゃ、にゃ、にゃんで……」


「じゃあよろしゅくの、鬼とクショコ。蝶々様を楽しましぇろよ」

「クショコじゃにゃい! ニャン吉だにゃん!」

「分かった、ニャ吉」

 蝶々が仲間になった。


「蜻蛉は役に立つと思ーうよ」

 蜻蛉も仲間になった。


 2匹は軽快についてくる。時々風で飛ばされそうになるけど。


「鬼市! 何でこんにゃの連れて行くにゃん。危ないにゃんよこいつら」

「虫けらでもいないと寂しいもんだよ」


 昨日の笑い上戸な鬼は、赤青黄のマーブル模様の軽バンで待っていてくれた。

「おう、来たか。爆笑だな!」

「……にゃにが?」

 ニャン吉は助手席に乗り込み、シートベルトを締めた。虫たちも助手席に乗った。鬼市だけ後部座席でヘルメットを装着している。ニャン吉が笑い上戸の鬼の顔を見ると、少し昨日の化粧が残っていた。


 車から外の景色を見ていると、笑い上戸の鬼は急に独り言を言っては笑い出すのでニャン吉たちは何度も驚かされた。

 それだけではない。いきなり「地獄は最高だぜ!」と言って車を急停車させたのだ。

 突然停まったため椅子から弾丸の如く発射されたニャン吉は、フロントガラスを頭から突き破って外へ飛び出していく。さらに、ズゴンと音を立てて首から上が地面に突き刺さった。


 笑い上戸の鬼は急いで外へ出ると全裸になって「空よ! 海よ! 大地よ! ありがとう! 鬼は来年のことを言うと笑いまーす」と大自然と何かに感謝を叫ぶ始末。ニャン吉は自力で地面から抜け出した。土色に染まる猫の顔。


 ニャン吉と蝶々と蜻蛉は、その鬼がだんだん怖くなってきた。蝶々は「ニャ吉、今のスタントやりしゅぎじゃ」と言うと、蜻蛉も小声で「ニャッキー・チェンだーね」と言った。


 ――ポイズンシティに着いた。ニャン吉たちは笑い上戸の鬼にお礼を述べる。

「ありがとにゃん」

「おう! ニャンもがんばれよ!」

(名前、間違えとるわこいつ)


 町の毒溜どくだめ広場で鬼の運転手と別れたニャン吉たち。


 ポイズンシティは都会だ。高層ビルが林立しコンクリートの道路が至るところに伸びていた。ニャン吉のいた現世の都市となにも変わらなかった。


 ――鬼のおまわりに戦いを挑むも、相手にされず軽く捻られたニャン吉。鬼との力の差を痛感する。だが、落ち込む暇などない。大都会、ポイズンシティへ挑む。


『次回「大都会と拷問所」』

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