第82話 魔性の花園・咲き乱れ
悪魔の植物が咲き乱れる植物園へ柿砲台を追いかけるタレとレモン。自然を大切にしない食虫植物たちが柿砲台に操られ、タレとレモンに襲いかかる。
タレは鳳凰。レモンは七宝の姿に変化した。白く輝く羽毛を持つタレがその翼を広げると七色の光彩が輝く。レモンは銀色の蔦と根を伸ばす、蔦の先に咲く虹色の花。
八方を囲む木々から伸びてくる青いウツボカズラ。青いハエトリグサ。青いモウセンゴケ。他様々な青い食虫植物。地面に根を張り、食虫植物の根に絡め操作するのは、茂みに隠れる柿砲台。
「かかれ!」と柿砲台が根っこから号令をかけると、食虫植物は一斉にタレとレモンを襲った。
ウツボカズラたちが、「汚職事件」と叫び、よだれを撒き散らしながらレモンへ噛みつこうとした。レモンはタレの背から根の足でピョンと木の枝に飛び乗る。そのまま根を木に絡み付けてから足場を確保し、蔦を伸ばしてよだれベタベタのウツボカズラを全て叩き落とす。
タレに襲いかかったハエトリグサとモウセンゴケ。タレは翼で自分の周りに炎を巻き起こし、回転させて渦を作った。ハエトリグサとモウセンゴケはそれでも燃えることなく突っ込んでくるが、鉤爪で裂かれてバラバラになる。
「バタバタ鳥、近くにいマスヨ」
「クエッ、今探してい――あそこだ」
茂みの所に気配がした。タレはそこへ
タレは鉤爪を突き立てたままそいつを茂みから引きずり出した。その正体は柿砲台であった。
「クエッ! 見付けたぞ」
「おじゃじゃ!」
柿砲台は、木製マネキン人形のボディを出そうとしたが、タレが柿砲台を振り回してチャンスを与えない。猛禽類の鋭い鉤爪を突き立てられた上に振り回されると、柿頭からは血が溢れて周囲に飛び散る。
「くらえクエッ!」
散々振り回した末に、タレは柿砲台を地面へ投げ飛ばした。
草を倒しながら大地の上を転がっていく柿砲台。転がる勢いは止まるどころか、どんどん加速していく。だんだんと急勾配になっているようで、増々勢いよく坂を転がり落ちていく。見失ってはならないと焦るタレとレモンは急ぎ後を追う。
数メートルほど転がり落ちたところで、柿砲台は姿を消した。焦ったタレが回り込むと、そこは崖となっていた。崖から下を覗き込むと、少し開けた所でこちらの松明の明かりがキラリと反射した。
一旦火喰鳥に戻ると、大きく息を吸って、水色のクチバシから真っ赤な炎を吐いた。炎の息に照らされて、周囲が一瞬見えた。
崖の下には湖があり、湖面を遮る木々はなく、ひょうたんの形をしていた。湖の周囲は芝が茂っていた。空を見上げると、満天の星が見えていた。
「クエッ、森を抜けたか」
「あの湖に落ちたようデス」
湖の畔へ降り立ったタレ。茂みに着地するとガサッと音が鳴った。2人は、柿砲台が落ちたと思われる湖を覗き込んだ。すると、湖は真っ白に光り輝き、当たり一面を照らした。
「クエッ! 眩しい」
「私は大丈夫デス」
光の中から、青みがかった髪をした彫りの深い女性が真っ赤な美しい口元に笑みを浮かべ、透き通るような青い目でこちらを見ている。古代ギリシアの女性が身にまとう布の服を整えると、女性は透き通った高い声で2人に尋ねてきた。
『あなたたちが落としたのは、金の柿砲台ですか? それとも銀の柿砲台ですか?』
「クエッ……、なんだ」
「どうしたのデス? ただ水の中から出てきただけではないデスカ」
戸惑うタレ。別に戸惑わないレモン。2人の表情を見た女性は聞いてもいないのに一方的に語り始めた。
『私は植物園の魔人。以前は金の斧と銀の斧で木こりの首を落としていました』
「クエッ」
『でも、私は改心しました。魔族の行いにうんざりした私は、あの方たちとは決別するのです』
「話しに脈絡がありマセン」
『伏魔殿の城主悪道を私は、なんか嫌いなのです。理由はありません』
「クエッ」
『美しい女神と皆に囁かれるこの私ですが、体脂肪は高めで運動不足のため運動会を開きたいのです……。それで、どっちの柿砲台です?』
この怪しい女を警戒して、タレは千里眼を怠らない。だが、なにも罠はなさそうである。
「柿砲台を選んだらどうなるクエッ?」
『正直に答えなさい』
「両方クエッ」
『残念、欲に駆られたアホウドリ。もう柿砲台は返しません』
「分かったクエッ。じゃあ帰るクエッ」
面倒事は片付いたとそそくさと帰ろうとするタレであったが……。
『せっかくここまで来たのです。あなた方もこの湖の底に沈めて差し上げましょう』
「クエッ! やっぱりか!」
「このぬれ煎餅はやはり敵デスネ!」
魔人は水から脚をザバンと上げると、陸へ上がってきた。両手には金と銀の斧が握られていた。
鳳凰に変身したタレは、翼で魔人の方を指しながら「
「
タレもレモンも武蔵と修行した時に、ニャン吉の世界の歴史を学んでいる。その時に梁山泊と伏魔殿つながりで水滸伝も何度か読んだ。
魔人の後ろの方でバシャバシャと水音を立て溺れる者がいる。
「おじゃあああ!」
柿砲台であった。柿砲台は、湖の湖面を走ってくる魔人に頭を掴まれた。鷲掴みにされ、水を湖面にポタポタと垂らしながら魔人の顔の前まで持ち上げられる。
『柿砲台、もう1度聞きます』
「はいでおじゃ」
『あたしってきれい?』
「お……おじゃ?」
『もう1度聞きます、次は無いですよ。あたしってきれい?』
「分からないでおじゃ」
『じゃあ、おやすみ』
魔人は柿砲台を宙へ高く投げると、どこからともなく出した真っ赤な鉛の斧で落下してくる柿砲台の顔を頭から真っ二つに叩き割った。
「うおじゃああ!」と断末魔と血飛沫を上げ、柿砲台は絶命した。
壮絶な光景に絶句するタレとレモン。魔人は、水面に浮かぶ柿砲台の遺体の片割れを手に取ると、ガブッと獣が噛み付くように噛み付いた。口を真っ赤に染めながらクチャクチャと柿砲台を貪り食う。
『ぷっ! 不味い、渋柿かこの方は』
「今の内に」
「エエ」
忍び足で逃げようとする2人へ、『待ちなさい』と呼び止める魔人。待てと言われて待つ奴はいない。飛び去ろうとするタレ。だが……。
「クエッ! 足に草が絡みついている」
「私もデス」
水から上がってきた魔人が、柿砲台の遺体を片手に2人へ近寄る。
『そうだ、良いことを思い付いた。余興だ余興』
魔人は柿砲台に息を吹きかけると、元の頭に戻っていく。だが、ドロドロに溶けた顔は、もはや柿砲台とは言い難い。
『どうでしょう、このゾンビ柿砲台と戦いなさい。もし、負けたなら永遠に我が奴隷として、死ぬまでこき使って差し上げましょう』
「クエッ、この異常者め!」
「……参りマシタネ」
――植物園には恐ろしい魔人がいた。魔人は柿砲台を殺害し、さらにゾンビに変えてタレとレモンと戦わせる。それを余興と喜ぶ異常者だ。
『次回10月23日(月)午後6時頃「魔性の花園・天殺星の余興」更新』
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