第81話 魔性の花園・暗い植物園
地下牢にて策幽を討伐したホットと骨男のコンビ。同時期、タレとレモンが伏魔殿の庭へ柿砲台を追いかける。
炎に包まれる城の中、ステンドグラスの窓ガラスに体当たりをして外へ飛び出した柿砲台。色とりどりのステンドグラスが芝生の上に散乱する。
「クエッ! 奴を追うぞレモン」
「ハイ」
タレの背にレモンが乗ると、タレは翼を広げた。そして、柿砲台が割った窓ガラスへ突っ込んで、窓枠ごとぶち壊して外へ飛び出した。
城を焼く業火に照らされ赤く染まった庭園に飛び出した2人。芝生へ着地すると、その広大さに目を見張った。見通しの利く範囲ですら、サッカーや野球など球技をするスタジアム程度の広さはある。しかし、その奥には、百花繚乱の魔界の植物園が待ち受ける。
「どうするクエッ」
「まずは千里眼で様子を見マショウ」
千里眼で辺りを見回すが、気配は全くしない。
用心深く、互いに反対側を警戒しながら一歩ずつ庭園の奥に足を踏み入れる。芝生を踏みしめながら奥へと進む。
悪魔の植物が植えてあり、魔界の植物園は妖しく誘う。植物が地面にも直にびっしり植えられており、植物で覆われ空は見えない。今、2人は鬱蒼としたその植物園へ入った。
暗い植物園には様々な妖しい植物が植えられている。魔界の植物が足元を隠し、50センチ下に地面があった。足元をしっかりと確かめながら道なき道を進軍する。
凍り付くように冷たい白い花。顔のある木。真っ黒いラフレシア。近くに寄って観察すると、花ではなく鼻の時も……。
「クエッ、大丈夫かレモン」
「ハイ、植物にやられる心配はありマセン」
大きな一つ目で微笑むレモン。
植物園の中に入ると真っ暗で何も見えない。燃える城の明かりが見えなくなると、完全な闇。タレが口から炎を吐くと、レモンが用意した松明に火を灯す。松明は、猫の手の形に削った野球バットサイズの木の棒である。その先端に、植物性油の『燃えるにゃん』をたっぷりと塗ってある。
「クエッ、私が持とう」
「いえ、それには及びマセン。今の私は燃えマセンカラ」
乱雑に植えられた植物に視界が遮られる上に、数メートルほどしか照らせない微かな明かりだけを頼りに、2人はさらに奥へと進む。しばらく行くと2人は足を止めた。赤く透き通った蔦が木と木に蜘蛛の巣のように絡まり前に進めない。
「これは……バタバタ鳥、やりマスカ?」
「……クエッ、柿砲台の浅知恵め!」
タレは口から火炎を放射した。だが、その蔦は燃えることなく、幾つもこちらへムチのように飛んできた。
タレはサッと空中へ逃げた。レモンもタレの背にサッと乗った。この旅で一番罠にかかって苦しんだのはこの2人である。過敏なほど罠を警戒する2人を捉えるのは無理だった。
高い木から伸びる枝の1つに留まり下を見下ろす2人。蔦は岩に絡みつくとそのまま締め上げ、岩はピシピシと音を立てて崩れていった。
「大した破壊力だクエ」
「地の利で奴の本領発揮デスネ」
タレとレモンは千里眼で周囲を視ていくが……、柿砲台の気配を見付けることができない。
「クエッ、近くにはいる」
「ハイ、イマス」
「歩くのは危険だ。低空飛行するぞ」
「止まる時は私が木にぶら下がりマショウ」
レモンを背に乗せてタレは木々の間をすり抜けるように飛行する。怪しい物を見付けたら1度ホバリングし、罠のない木にレモンがぶら下がった。頭の上の蔦を木に絡めて、根っこをタレの胴体に巻き付け吊るす。
その様子を一定の距離から観察する者がいた。草むらにひそみ全身を隠す柿砲台である。3つの目でタレとレモンを追いかける。
柿砲台は「このまま進めでおじゃ……」と2人を千里眼で追う。
タレは高さ1メートルほどの高度で人の歩くほどゆっくり飛行する。奥へ行けば行くほど地面に生える草の背丈が高くなり、やがて真紅の鉤爪にカサカサと当たり始めた。橙色の羽毛にもザワザワと触れるようになり、気持ち悪くなったタレは僅かに高度を上げる。
「そろそろでおじゃ」
木々の枝を注意深く観察していたレモンがあることに気付いた。
「この植物ハ……」
木に絡まる植物から青いウツボカズラが垂れ下がっていた。ハエトリグサもあり、食虫植物が密集する。こいつらは、何かヒソヒソ話しをしている。
前の木にあるウツボカズラからはこんな声が聞こえた。
「世の中機械ですよ」
「植物なんか時代遅れだ」
「日光浴よりEスポーツですよ。ゲームゲーム」
「今植物なんか時代遅れって言ったのどいつだ!」
後ろのハエトリグサからはこんな会話が聞こえた。
「製鉄には夢があるってなあ」
「いいよね、たたら製鉄」
「いや、そんな古い話しじゃなくって……」
「いいよね、たたら製鉄」
右にびっしり生えたモウセンゴケはねっちりした暗い声でコソコソ話しをしている。
「へへへへ、
「ぬふふふ、お前にはリゾートホテルをやろう」
「いよっ、木長。植物園一の色植物」
「まあまあ、むむ! お前、このお菓子、本当にお菓子しか入っていないじゃないか。しかも美味い!」
左には、木の枝から垂れ下がるウツボカズラが。
「結局、世の中甘くないんですよね」
「そうさ、舐めてかかるとだめだ」
「本当に、苦い思い出ばかりですよ。道路も苦い、ブロック塀も苦い、建物はことごとく苦い、本当に人間って何考えてんだろ」
「本当、世の中舐めると舌が痺れるよ」
聞き耳立てていたレモンとタレ。
「植物なのに環境保全について全くの無関心デスヨ」
「クエッ、植物の心もここまで落ちたか」
今まで密かにつけていた柿砲台が「今だ」と大地に根を張り出した。柿から直に伸びた木の根が大地に勢いよく伸びていき、やがて、周囲の植物全てにつながった。
根を握られた植物たちは、突然黙りこくった。何やらブルブル震えて「トモダチトモダチ」と片言で喋りだした。
突然起こった異変にタレとレモンは警戒する。
「クエッ! 柿砲台の万象技だ!」
「ハイ!」
2人は本地覚醒する。
タレは、真っ白な羽毛の鳳凰になった。橙色のフワフワとした羽毛は、ナイフのように鋭くて、白く輝く羽に変化。太い首は鶴のようにしなやかで細く変化。広げた翼は七色に輝き、まるで虹の化身である。
レモンは頭の上に銀色の蔦が伸びて七色の花を咲かせる。花びらは七つの色に彩どられ、七宝を集めたようになっている。レモンの下側からは銀色の根が伸び、レモン本体は金色に輝く。
綺羅びやかに、七色に輝く2人に、たじろぐ柿砲台。
「こんなの見掛け倒しでおじゃ」と強がったものの、羨望の目で見詰めている。
――魔界の植物園へ足を踏み入れたタレとレモン。奥には、柿砲台の罠が……。
『次回10月20日(金)午後6時頃「魔性の花園・乱れ咲き」更新』
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