第79話 牢獄の町・地下三階にいるのは

 策幽を追いかけ伏魔殿の地下牢へ挑む骨男とホット。骨の化け物に追いかけられる2人は、鬼怒川にゃんごろうの幽閉されていた地下三階へ。だが、そこには策幽の罠が……。


 黒いゴツゴツした自然のままの岩の洞窟が地下三階である。地下三階は前方に直径2メートルほどの4つの穴があった。骨男とホットが階段下りると堰を切ったように4つの穴から黒いマントを被った亡者が飛び出した。

「うおっ!」

「策幽のお人形遊びだな!」

 ケンタウロスの姿のまま、骨男は亡者を青龍偃月刀で薙ぎ払う。ホットはラリアットで亡者を吹っ飛ばす。亡者は思ったより脆く、簡単にバラバラになる。中は骨でできており、様々な種類の生き物の骨が組み合わされていた。


「この程度どうってことねえ……ってまだいるのかよ!」

「骨男、人の姿になれ。それから、こいつを使え!」

 骨男は、骨の姿ではない人型になった。この馬面姿の時は、狭い所で動きやすくなる。さらに、ホットに投げ渡された風地獄製ダイナマイトに点火して、亡者の群れの密集する穴の奥に投げ入れた。

「伏せろ!」とホットが指示し骨男が地面に伏せると、穴の奥の方で爆発が起こり亡者が吹っ飛んだ。ダイナマイトの爆発でも岩の壁や天井はびくともしない。


 背中の上にパラパラとバラバラになった亡者が降ってくる。焦げたマントに、様々な骨である。

「ホット、これどこで」

「タレからもらったものだ。骨男、まだ来るぞ!」

 奥から次々と湧いてでてくる亡者へ、ダイナマイトを次々投げ入れる。爆音と共に伏せる2人の上にパラパラと骨が落ちてくる。


 何発かダイナマイトを使用して亡者を吹き飛ばすが、後から後から湧いて出る。やがて、ダイナマイトも尽きた。


 ダイナマイトが尽きると、再び骨男は青龍偃月刀を振り回し、ホットはシロクマの強力な腕で亡者を殴り倒す。亡者を次々と倒していた2人であったが……。突如、亡者の群れに紛れていた策幽が突如飛び出してきた。

「策幽か!」

「はっ!」

 亡者を蹴り倒しその上に乗り、ホットの頭へ真上から三味線を振り下ろす。とっさにホットは右腕で頭を庇うが……ボギッと音を立てて右腕は肘より下で骨が折れた。

「オッホー、骨折り損ですよ」

「しまった!」

 苦し紛れにホットは、左腕を大振りして策幽のボディを叩こうとした。だが、周囲の亡者を盾として使って策幽は防いだ。


「さあて、亡者さんいらっしゃい作戦はここまでといたしましょう」

 策幽は再び穴の奥に消えていった。


 亡者が動かなくなって落ち着いたところで、骨男がホットへ駆け寄る。

「大丈夫か!」

「うーん、右手を骨折したようだ」


「じゃあ治療のため一旦」

「いや、これくらいなんてことない」


「でもよう、このまま戦ったら腕が」

「大丈夫、俺は医者だ」


「そうか、医者なんだよな」

「そう、骨については非常に詳しい。骨男、お前よりな」


「骨に詳しいからどうしたってんだよ、治療をしねえとよ」

「医者の不養生ともいうだろ。自然のままでいいんだ、骨だけに」


「それ一番いけねえやつだろ! それに骨だけになんなんだよ!」

「死んだら皆骨になるんだ。それが早いか遅いかだけだ」


「おいらはもうとっくになってるよ! 骨太の方針だよ!」

「ははは、さすがは猫吉ねこきちの仲間だけのことはある。お笑い芸人顔負けだな」


「そんなことより、早く治療を」

「あの白猫を見ていると、なんとなく納豆を思い出す」


「どっちかいと豆腐だろ……じゃなくて治療」

「心配には及ばんにゃん。医者が患者にできる唯一のことは何だと思う?」


「治療だろ?」

「違うな」


「じゃあなんだよ……、ああ、希望を与えることか」

「違う違う、そんな根性論じゃあない」


「そこまで否定しなくても……んで、答えは何だよ」

「唯一のそれは、根性だ!」


「根性論じゃねえか!」

「違う、根性を出せとは言っていない。根性が出るように喝を入れることだ!」


 結局、話の間にホットは応急処置を済ませていた。


「よし、行くぞ」

「本当に大丈夫かよ……」

 意気揚々とホットは戸惑う骨男と共に、洞穴の1つに飛び込んだ。中は黒い自然のままの岩の通路であった。狭いのは入り口だけで、中は広かった。奥へと進めば進むほど道幅も天井も広くなっていく。


 何やら奇妙な音がする。耳をすませるホットと骨男。カリカリカリと何かが擦れる音がする。

「こりゃあ、骨と岩が擦れている音なんじゃ……」

「爪かもな……」

 思わず2人は後退りする。カリカリと擦れる音は徐々に大きくなってくる。地面からズンズンと腹にまで響く音が聞こえる。音からその巨大さ、重さ、力強さを察した2人はくるりと出口の方を振り返る。


「なんかよ、おいら嫌な予感がすんだけど」

「お前もか。どんな世界でも兵法はあることを重視する」


「そうだな、ニャン公の世界にも三十六計ってよ」

「猫吉の世界か……。まあ……なんだ。逃げ――」

 ホットが言い終える前に、今度はダッダッダッと軽快にその足音が迫ってくる。気付けば2人の後ろまで迫ってきた。後ろからはグルルルと不気味な音がした。


 ほとんど金縛り状態の2人。背中に地下水がピチャンとホットの背に落ち、「骨しゃぶぅ!」と思わず声を上げてしまう。と同時に、恐る恐る後ろを振り返るとそこには……。

「グワァー!」

「き……恐竜だ!」

「落ち着けほほほ骨男。こいつは、魔界の恐竜だ」

 真っ黒なティラノサウルスに似た恐竜が、大きな牙を出して、こちらの様子を窺っている。硬そうな鱗、細くもたくましい脚、太い尻尾、大きな金色の瞳、まさに、恐竜である。


 恐竜の上から三味線の音色が響いてくる。恐竜の頭の上から出てきた策幽。

「やあ、地下牢にはこんな見張りが残されていました。魔族には劣るが中々の強さです」

「恐竜か! お前……そいつをどうやって手懐けた!」と気が動転したホットが震える声で言った。


 恐竜は低い唸声を上げた。すると、突如背中をピンと伸ばして二足歩行になった。さらに、グワァーと鳴くと、腕を胸の前で構える。オセアニアの舞であるウォークライのようなものを舞いだした恐竜。

 予想外の行動に、棒立ちになって見守る骨男とホット。恐竜は、ラグビーボールみたいな岩を拾い上げると腕にかかえ、舌を出して「グワァー!」と咆哮を上げた。

 恐竜の舞が始まると、策幽は恐竜から真っ逆さまにずり落ちて、岩に頭をぶつけた。


 ――亡者を退けたが、遥かに恐ろしい恐竜が現れた。さらに、恐竜は戦士の舞を舞って咆哮する。絶体絶命の2人であった。


『次回10月16日(月)午後6時頃「牢獄の町・牢番の恐怖」更新』

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