第77話 突撃伏魔殿
伏魔殿は地に落ちた。さらにハム男も城内から飛び出した。タレが、ハム男を咥えて番犬軍の待機する丘へ戻ってくる。
伏魔殿が地に落ちたのを見た番犬軍、脱法犬、万里の魔城の魔族たちは驚きのあまり開いた口が塞がらないせいで馬鹿みたいな顔になった。
伏魔殿を占拠する鬼反軍は、落下の衝撃をモロに受ける。自然落下する物の中にいる時、中の物は慣性力を受けて無重力状態になる。モモが天井のシャンデリアに絡まってジタバタする。
鬼反軍は、直ちに体制を立て直す。
「今いるのは……大広間ってところか」と周囲を見回しながら鬼反は言う。
大広間は、黄金の手すりのついた大階段が1つあり、壁は白く、床は緋色の絨毯が敷かれていた。
辺りを確認した策幽は「これは守るに適しておりません。すぐに元に戻さねば」と判断し、制御室へ急いだ。
この洋館は、だだっ広く階数は2階までしかない。周囲には柵もなく、防衛するのに最悪の造りであった。さらに、2階には2部屋しか無く、その1つの城の制御室から煙が出ている。
「これは……自爆しとるやん!」
コンピューターは自らの配線を焼き切って黒い煙を出していた。モニターには、『燃え尽きたぜ、配線』と表示されていた。
さすがに戸惑う策幽は、戻ってきて仲間に伝える。
「もはや打つ手なし。堕天使の森へ逃げるとするか」と鬼反は言ったが……。
「もう奴らは来ている!」
モモの言葉に覚悟を決めた。
少し逆上ること数分。番犬軍は空から落下する伏魔殿を見て仰天し釘付けになる。何が起きたのかと聞きたいような顔をして互いの顔を見る。
大地に墜落し、凄まじい地響きを立てる。さらに、鉄壁の要塞が隙だらけのただの家に様変わりする姿を見た時は、番犬軍は笑うしかなかった。
伏魔殿から何かが外へ排出された。それを千里眼で視ていた番犬軍は、ハム男であることを確認した。
「クエッ! 回収してくる」
直ちに飛んで回収するタレ。ふっ飛ばされたハム男をクチバシで掴む。
「君は、タレさんですね!」
「ク……後……」
ハム男を咥えていたため喋れない。
番犬軍と合流したハム男は、事情を説明すると、すぐに総攻撃をかけるように勧めた。
「かくかくしかじかとは言いません」
「言った方が楽ににゃるぞ」
好機を逸してはならないと番犬軍が総攻撃をかける。伏魔殿へ最速で行くために皆タレの背に乗った。最後にタレの背に乗る天馬の横顔を見てハム男は初めてみた先祖へ話しかけた。
「あなたは赤兎馬馬賊……いや、天馬ですか?」
「ああ、お前はハム男か……」
久々の再会で感慨に浸りそうになったので、骨男が「おめえら後にしろ」と遮った。
「じゃあ行くにゃん!」
タレは、火喰鳥から鳳凰へと姿を変えた。ニャン吉は、細くなった首からするりと落ちた。ニャン吉を途中で咥えると、タレは有無も言わさず弾丸の如く飛んでいった。
鳳凰なら1キロほど離れていても、伏魔殿へ着くのに3秒もかからない。城の扉を破るのに、ニャン吉を投げ付ける。それは、伏魔殿が落ちると同時に立てたニャン吉の計画である。もちろん、当初はニャン吉がタレ背から飛んでカタパルト代わりに発射する計画だった。
ニャン吉が扉に激突して、鉄の両扉を内側へ貫通しながら破る。転がるように前へニャン吉は突っ込んでいく。
その直後、タレは城の窓を火を吐いて溶かし、城内へ優雅に入っていった。
「俺を投げる必要にゃいだろ!」
城では、モモ、鬼反、策幽、柿砲台が番犬軍を見据え、最終決戦へ突入した。1階広間の大階段を隔てて退治する番犬軍と鬼反軍。互いに口を開こうとした矢先に、タレがとんでもないことをした。
「クエッ! 燃えろ!」
タレは、炎を吐き、緋色の床、真っ暗なカーテン、その他燃える物全てに放火した。過激な火攻めは、タレが1番得意とする戦法。
「何をする!」と血相変える策幽。
しかし、モモは御満悦。1番憎い魔族の城を、その権威の象徴を火の中に沈めるところを見ることができたからだ。火は瞬く間に天井まで立ち上る。この状況は互いにメリットしか無い。
大階段を一段下りた鬼反が、番犬軍へ演説する。
「よくきたな! さあ、ここで一万年の決着をつけよう」
鬼反たちは散った。柿砲台は、外の庭園へ。策幽は、地下牢へ。モモは、屋上へ。そして、鬼反は、2階の大会議室へ……。
「獅子王、征くぞ!」
「征くにゃん!」
天馬の号令でそれぞれがそれぞれの敵を追いかける。本来なら戦力を集中したいが、今倒さねば1人でも逃してしまうと一巻の終わり。魔族が出てくるのは明後日と迫っている。
ニャン吉率いるビッグ4……つまり、番犬レースのメンバーは、モモを追いかけていく。魔の館を焼き尽くす火炎で割れた窓から外の壁を伝って屋根へ。モモの爪痕を追いかけ、ニャン吉、もっさんは壁に爪を立て登る。イーコと御亀はモラッシーの脚に掴まり共に空を飛ぶ。魔の城の頂上へ、今ニャン吉たちは挑む。
骨男とホットは、暗い地下牢へ策幽を追いかける。地下牢への最初の階段を降りた時、地上の火事が嘘のように冷気が顔を撫でてくる。地下牢は奥深く、複雑に入り組んでいる。魔の暗部と呼べる死の世界へ2人は飛び込んだ……。
タレとレモンは、伏魔殿の窓を突き破り、その広大な庭園へ足を踏み入れた。外の植物は、城から漏れ出す火炎など物ともせず、一切焼けること無く火を嘲笑うように咲いていた。一旦火喰鳥に戻った鳳凰と閻魔帳の化身は、魔の園へ足を踏み入れた……。
2階の大会議室へは、鬼反を追いかけ天馬が乗り込む。扉を蹴破り中へ突入すると、だだっ広い部屋の中央で腕組みをする鬼反。彼は泰然自若と構えていた。
「……これが最終決戦だな鬼反」
「……長かった。俺の一生では足りないくらいに……」
三途拷問の筋肉質な体にスーツを着た鬼反。野心と復讐心に燃える彼の目は、黒く妖しく輝いていた。
中華風の武闘着を身にまとい、方天画戟を右手に携えた天馬。彼の馬面も、真っ赤な長い髪も、胸まである真っ赤な長い髭も、天馬の静かな心のようであった。一万年の長きを耐えた者同士の、最終決戦が今火蓋を切る。
――メリーの失敗。伏魔殿の墜落。番犬軍の速攻と火攻め。二転三転する城攻めも、最終局面を迎えた。
『次回10月11日(水)午後6時頃「牢獄の町・亡者の世界」更新』
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