第63話 墓の下に眠るものは

 全ての発端となった一万年前の暴君。天子魔系の閻魔である天子魔壊乱の墓を壊し、その下から現れた巻物を取り出す。その中身は……。


 満月は冴え渡り、寒風が吹く。天馬は月明かりを頼りに巻物を紐解いて中に目を通す。そのほとんどが閻魔の不祥事で、文字通り墓場まで持って行ったのである。


 天馬、ホット、武蔵の3人は、大量の巻物を隈なく見る。

「これは!」

 ホットが黒い巻物の中を読んだ時に驚きの声を上げた。突如大声を出したホットの方を振り向く2人。何が書いてあるのかと2人が聞く前に、肉球が見えるように手を突き出して静止したホット。

「うむ……、鬼反たちの詳細が載っている」

 その中身をホットは音読して伝える。モモの所までくると、突然大声を上げる。

「なに! モモの野郎隠していやがったな!」

「何を隠していたんだ?」

「あいつ、五行の属性について我らに嘘をついておりました。あいつの天性は火性です」

『なに!』と天馬と武蔵が同時に驚き声を上げる。


「すると、水性ってのは……。鬼反め、俺に嘘を教えたな」

 してやられたと苦笑いする天馬。

「これはまずい! 本当にモモが火性ならば獅子王に単独討伐は無理だ!」

 激しく動揺する武蔵は、落ち着こうとその辺の土をこねておむすびを作り出した。

「それは三角むすびですかな?」と自分も落ち着こうと戯れに天馬が口にする。

「え……ああ、何をしているんだ俺は」

 武蔵も無意識であった。


「それから」

「まだあるのかホット!」

「はい、八咫不埒の天性は土性です」

「ああ! そうだったのか! 太陽の使いが最も力を発揮する土性であったか」

 何かを納得したような顔でそう叫んだ天馬。

「何を差し置いても倒しておいて正解でしたな」

 武蔵は一切他の敵を狙わずに不埒のみを倒すニャン吉の作戦に、改めて感心する。その先見性と敵の痛い所を突く知恵に、邪王猫の本領が発揮されたと心で笑う。


「とにかく! まずは薮医者パラダイスへ戻りましょう。暖かい布団と部屋でゆっくりと休んで、それから善後策を練ることにしましょうか」

 こういう時に1番冷静なのはホットである。彼は非常に冷静なシロクマの武人と称されていた。骨しゃぶからは非情で冷酷などと揶揄されていた。


 必要な巻物のみを持ち、残りは元の石室に戻しておいた。


 帰りの道は明るかったとはいえ、しょせんは月明かり。この決戦も同様に未だ綱渡りをしていることは否めない。


 ――同時刻。伏魔殿へ撤退した鬼反軍。城へ戻ると、大量に用意してあった赤い液体を使って治療する。鬼反と策幽と柿砲台はそれで全快するが、危篤状態の不埒にはほとんど効果がなかった。

 モモとミケは鬼反の万象で回復させた。彼らは、鬼反の三途拷問としての万象で蘇ったので、ドクロマークを破壊しない限り何度でも全快する。

 ただ、問題はケロケロ外道であった。蘇らせるにしても遺体は瓦礫の下敷き。魂も回収することができずにいた。


「鬼反、ケロケロ外道の野郎を生き返らせなくていいのか?」

 顔を洗いながらモモはそう勧めたが、鬼反は首を横に振る。

「俺の力では無理だな。遺体の一部と魂がなければ不可能だ。囚人兵のような出来損ないなら簡単に体を作れるが、それにしても肝心の魂がない」

「不便な技だな」

 苛立ち顔を洗い過ぎたモモは、額が禿げて血が垂れ始めた。それをみた鬼反は、三途一族としての万象、『三途紋所さんずのもんどころ』を発動してモモの額を撫でた。すると、たちどころにモモの禿げが治っていく。撫でられたことが不愉快過ぎて「シャー!」と息を吐き手を引っ掻こうとするモモであった。


 伏魔殿での治療を終えた策幽は、不埒の見舞いに治療室を訪れた。白い扉を開けて中に入ると、不埒の横になるベッドの周りで子どもたちがなにやら奇妙な舞を舞っている。鼻に金の延べ棒を刺して、ザルを片手にあのポーズ。

「あ、ちょっと用事よーうじ。はい、あーりまーして」

 7人の虫たちが舞うどじょうすくいは、圧巻だった。思わずたじろぐ策幽。僅かに意識が回復した不埒は息子たちに微笑みかける。


 策幽が咳払いを1つすると、獅子身中の虫たちは静まった。

「さて、獅子身中の虫諸君。君たちに頼みがある」

「なんでしょう、策幽様」

 長兄の甲が代表して策幽の話を聞いた。


「不埒を避難させて欲しいのだ。避難先は危険な所だが、上手くいけば不埒を治すことも可能かもしれない」

「それならば! 私めに何なりとお申し付けください」

 策幽は、詳細を語った。

「……それは確かに危険な任務ですね」

「この戦いが終わり次第私たちもそちらへゆく。やってくれるか?」

「はい! お任せを!」

 甲は、弟妹たちにそのことを伝えると、次に枕元で不埒へ伝える。不埒は力なく頷いた。


 伏魔殿の6畳ほどのオフィスビルのような一室からは柿砲台の声が聞こえてきた。今回の戦いでも影の薄かった柿砲台は、伏魔殿の留守を守る自らの執事とその飼い犬と今後のことについて話し合う。

「これから最後の戦いが始まるでおじゃ」

「へー、最後ねえ」


 ソファに大股広げて座る筋肉質で上半身裸の執事・花枯爺は、気のない返事をする。その隣でソファに横たわり大あくびをする飼い犬の墓地。全ての銀歯が電灯の光に反射する。

「その時歴史が動くでおじゃる。一大決戦になろうて」

 執事と飼い犬は返事もせず、薄ら笑いを浮かべて主人の方をチラ見した。


 何も言わずにダランとソファに腰掛ける2人に、柿砲台が苛立つ。

「返事はどうしたでおじゃ!」

 花枯爺と墓地は顔を見合わせ笑った。それに怒り心頭した柿砲台は、声を荒げる。


 ため息を吐いてソファから立ち上がる2人。墓地も後ろ足で立ち上がる。それから、心の叫びを叫ぼうとする人のように胸に手を当て、柿砲台へ反対の手を伸ばす。彼らは、大きく息を吸った後、オペラを歌うよう大音量でこう歌った。

「甘い汁が吸いたいよーう」

 高い声から徐々に低くなり、よーうの所で一気にまた高くなる。


「もう好きにしろでおじゃ!」

 柿砲台は激高しそのまま部屋を飛び出した。この短気が2人の出奔へとつながるのである。


 ――翌日、病院の窓から差し込んできた朝日にニャン吉は目を覚ました。ベッドの上で背筋を伸ばし、さらにはブリッジを決めて体の調子を確かめる。

「気持ちいいにゃーん!」


 すると、番犬軍の皆起きてきた。それを見た武蔵は、朝食の時に集まるように伝える。


 ――墓に眠るモモの詳細。対策を寝るためにも、武蔵は食堂へ集合をかける。


『次回9月5日(火)午後6時頃「非暴力広場の爺さんと黒猫」更新』

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