第60話 町中大乱闘その九・ゲームセンターの乱

 ゲームセンターで混戦状態。騒々しいゲームの音源に加え、騒々しい戦いが繰り広げられる。


 ニャン吉とビッグ4はモモとパンチングマシンの前で戦っていた。ニャン吉の爪、もっさんのボクシング、イーコのリズミカル千鳥足からの攻撃、御亀の体当たり、モラッシーの鉤爪などの猛攻をモモは辛うじて避けていた。


 息を切らせ、生傷が増えていくモモ。このままでは確実にやられると判断し、攻撃態勢をとることに。

「てめえら!」

 モモは、機動力を捨てて敵を倒すことに専念。そのため後ろ足だけで立ち上がった。


 そこへ、フラフラと不規則な動きをしながら近寄るイーコ。不意に相手の前で身をかがめる、と同時に足払い。地面を擦るようにして足を払おうとするペンギンの脚を、モモは後ろへ飛び退いた。


 飛んだその先でホバリングし待ち構えていたモラッシー。音も立てずに梟の鉤爪をモモの頭に突き立てようと試みる。だが、身を捩らせ間一髪避けたモモは、壁に足を付け跳躍し爪でモラッシーを狙う。モモの反撃も鋭かったが、さすがに飛ぶ鳥を捉えることはできなかった。床に着地したモモは鉤状の尻尾を御亀に踏みつけられ「ギニャー!」と叫ぶ。


 怒り心頭のモモは、尻尾を折りたたみ両後ろ足で立つ。そして、甲羅に首と手脚を引っ込めた御亀に回し蹴りを当てて蹴り飛ばした。


 回し蹴りを放ったモモは、片足立ちの不安定な体勢になった。そこを両サイドからニャン吉の爪ともっさんの左フックが襲いかかる。右からはニャン吉の爪が顔面を狙ってくる。左からはもっさんの左フックが頭部を狙う。しかし、その攻撃は空を切る。


「図に乗るなよクソ動物」

 モモは口から勢いよく霧を吐き出した。すると、ニャン吉たちは霧に押されて周囲に吹き飛ばされた。霧に押された勢いでニャン吉は、パンチングマシンに頭を打ち付ける。パンチ力、『いてもいなくても困らない程度』と画面に表示された。


 モモの万象技、霧我無きりがないになすすべもなくやられたニャン吉とビッグ4。モモにとって意外なことが起きた。万象技をニャン吉たちビッグ4は未だに使えないのだ。それを知ってモモは勝利を確信した。太鼓のゲームの太鼓の上に立ち、緩やかに顔を洗って挑発する。

「お前ら、まだ万象技を使えないだろう」

 太鼓の上に立つから、少し動く度にポンポンと太鼓の音が響く。


 モモに言われてハッとしたニャン吉とビッグ4。万象を会得する前にこの乱が起きたのである。


 沈黙するニャン吉たち。

 反対にモモは饒舌になっていき、「万象を使えるか使えないかは死活問題だ」と言い放ち顔を洗うと、さらに「赤子と大人の戦いになるぜこれは」と高笑いする。太鼓の上に立つから、少し笑う度にポンポンと音が響く。


 大きく息を吸い込んだモモは口から霧を吐き出した。身構えるニャン吉であったが、瞬く間にその身を霧が包む。

「にゃんと!」

「キャイン!」

「ヤダ! ドロドロしてる」

「……なん!」

「これは粘土か!」

 ニャン吉とビッグ4は泥のようにドロドロとした霧に包まれ身動きが取れなくなった。底なし沼を思わせる霧我無きりがないから脱出できない。


 絶体絶命のニャン吉たちであったが、それ以外はどうなっているだろうか。他の戦いに目を転ずると、ホット率いる骨男、レモン、タレは策幽との激戦が続き、そこへ、武蔵とミケが加わる。

「よーろ昆布!」


 屋上へ目を転ずると、天馬と鬼反の因縁の戦いが起きていた。互いに必殺の一撃を繰り出し、血飛沫を飛ばす。


 外に目を転ずると、そこでは土手鍋小次郎とタコ入道イカが、復帰した獅子身中の虫の7人を率いた柿砲台相手に非常な劣勢を強いられていた。


 戦力の不均衡を感じたホットは、骨男とレモンに外の連中を助けるように指示した。武蔵も切れ者であったが、戦の経験では一万年前の連中の方が遥かに上である。さらに、武蔵へニャン吉の加勢に行くように進言した。

「武蔵殿! ここはタレと私で十分! あの弱っちい猫どもを助けに参られよ!」

「ああ、そうさせていただく。……一応獅子王と呼んでくれるか」

「クエッ!」


 モモの霧に捕まりなぶられるニャン吉たち。それは、蜘蛛の糸に捕まった虫のようであった。


 ――乱戦状態は数分ほど続いた。全身に傷のない者は1人もいなかった……。だが、そんな中、一際ひどい傷をおっていた小次郎は、全身から血を流す。獅子身中の虫たちが鉄パイプを片手に手酷く傷付けていったのである。鎖を振り回し、メリケンサックをつけた獅子身中の虫へ小次郎は最初「不良か!」と思わず心の声を上げてしまう。


 骨男とレモンが加勢しても、相手は8人。それも、不埒の血を引く太陽の虫。多勢に無勢で押され始めていた。タコ入道イカは敵の最初の一蹴りで遠くまで飛んでいった。


「く……ここまでとは」と弱音を漏らす小次郎。

 苦戦する小次郎を眺めてほくそ笑んだ獅子身中の虫の長男の甲。カブトムシらしく角で戦わず、鉄パイプを振り回し「どうした侍! 父上の背中を突いたときの威勢はどうした! その刀でな!」と父である不埒をやられた恨みを込めて、鉄パイプで刀を指す。


 甲は弟妹たちに目で合図をした。その意味する所は、『そろそろ頃合いだ』である。すると、獅子身中の虫たちは一斉にミケの万象である楽缶らっかんの缶詰に爪を立てて空けた。中から立ち昇る怪しい妖気を喉に当てると、弟妹たちが一斉に声を上げた。

「ももも、モモがもももも!」

 その声がゲームセンターとその屋上の全てで、同じ音量で響いた。これは、策幽の万象技の拡声器であった。鬼反軍はその合図が耳に入ると、敵に背を向け一斉に逃げ出した。

「鬼反! 的に背を向ける気か!」

「なんとでも言え天馬!」

 鬼反の背を追いかける天馬であったが、あまりの逃げっぷりに警戒して距離を取りながら追いかける。


 鬼反軍の一同は、獅子身中の虫のいる外へ向かって行った。やはり、あまりの逃げっぷりに番犬軍は皆、罠かも知れないと警戒しながら後を追いかける。


 獅子身中の虫は、骨男、レモンと戦う手を止め、一斉に小次郎を輪になって囲った。

「なんでぇ!」

「これは、虫の知らせデスカ」

 傷だらけの骨男とレモンは、この戦いで死を覚悟していた。それほどの激戦となっていたのだ。それが、敵は急に自分たちから背を向け、一斉に小次郎を包囲するのである。

「俺を包囲しても対して……」


 正面玄関のガラスを突き破って飛び出した策幽。小次郎は思わずそちらに気を取られる。すると、屋根から飛び降りた鬼反が小次郎の頭を肘で殴りつけた。意識が朦朧となった小次郎は前後不覚となりその場でよろける。

 そこへ、策幽の背中にしがみついていたミケが楽缶に爪を立てて、小次郎へと投げ付ける。そこから現れた紫色の霧が小次郎を包む。

 さらに、小次郎へ追撃する。策幽が三味線で頭を殴打し、モモが背中を引き裂いた。満身創痍の小次郎は、大地に倒れ伏した。


「さて、もうこの辺でいいだろう」

 鬼反がそう合図をすると、一斉に走りだす。ポイズンデパートへと伸びるアスファルトの道路を数十メートル駆けると、ゲームセンターに向き直った鬼反軍。


 ゲームセンターから出てきた番犬軍と、僅かな距離を隔てて道路で対峙する。


 ――ゲームセンターでは、完敗した番犬軍。地に倒れ伏す小次郎がそれを象徴している。


『次回8月23日(水)正午頃「仕切り直し」更新』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る