第59話 町中大乱闘その八・ゲームセンターでリアルファイト

 ゲームセンター『地獄はハッピー』に集まった番犬軍。各自、赤い液体という外傷にのみ効く薬で傷を塞ぐ。


 赤い液体の小瓶をゲーム用の椅子に置いて数を確かめるホット。

「赤い液体は使える量が決まっております」

「ああ、骨しゃぶ以外には無理をさせられん」

 不謹慎な一言に敏感な天馬とホットは、豪快に笑い合った。


 ゲームセンターでゲームをしながら善後策を練る番犬軍。反乱軍の居所が判らない今、無闇に動き回るのは得策ではないと意見が一致した。


 もっさんとモラッシーが対戦ゲームで熱くなりすぎて掴み合いの喧嘩にまで発展した。椅子を蹴り飛ばし、もっさんは左フックからの右ストレート、モラッシーは鉤爪でそれをいなす。

 本当ならこの喧嘩を止めなければならない。だが、天馬とホットが面白がって指笛を鳴らすので、皆ついついそれに従ってしまう。いつもなら止める役のクラブはトイレにこもっていた。


 そこへ、ゲームセンターの天井を突き破り1階まで落ちてきたものがあった。番犬軍は一様に落下物に視線を注ぐ。と同時に、窓から誰かが入ってきた。それは、御結武蔵である。

「師匠!」

「獅子王! 皆も一緒か」

 武蔵はミケに奇襲を仕掛けた後、その後を追いかけていたのだ。


 あの時、ミケの頭には自らの万象、楽缶らっかんが乗っていた。その中にモモの霧我無きりがないを封印していて、その缶を武蔵が刀で突いたのである。中から霧我無きりがないが飛び出してミケの体を遥かな空まで押し上げ、そのまま空から今の今まで落ちてこなかったのである。


 武蔵は、霧に押し上げられたミケを千里眼で視ながら追っていると、このゲームセンターに辿り着いたのである。

「ここにミケが落ちてきたはずだ」

 天馬が落下物の方を指差すと、武蔵は刀を抜き慎重に歩を進める。その後からニャン吉たちもついていく。


 ニャン吉とその仲間にビッグ4と一万年前のメンバー。この面子ならばミケを倒すことは容易い。半分の人数でも容易く倒せよう。


 奥のコインゲームのコーナーにミケが落下した跡があった。天井に大穴が空き、コインゲームの一つ、『地震・雷・火事・親父の内1つだけ仲間はずれのおっさんゲーム』が大破し、ガラスや機械を散乱させていた。床のコンクリートは砕けて散乱し、鉄骨がへし折れ、大穴が空いている。そこに三毛猫の背中が見えた。

「さて、覚悟しろ」と武蔵がミケの背に刀を突き付けた。と同時に天井に空いた穴から何かが降ってきた。それは……。

「ミケ! このマヌケミケ!」

 天井から飛び降りてきたのは反乱軍であった。ミケを穴から引っこ抜いているのは例の黒猫、モモ。その隣に、拷問の肉体をした鬼反、三味線を構えた策幽、柿砲台が降りてきた。


「おや? 天馬とその他。生きておられたのですねえ」と少し驚いた表情を浮かべ三味線を弾く策幽。

「当然だ」


 ここで天馬と武蔵とホットの達人勢は気付いた。鬼反は魔族。つまり、魔法を使う。そう、魔法は千里眼で見破らなければ視えないし感じることもできないのだ。鬼反の両手には膨大な魔力が溜められていた。

「お前たち! 伏せろ!」と武蔵が言い終える前に鬼反は魔力を開放した。その刹那、何者かによって鬼反は真横に吹っ飛んだ。ゲームセンターの外まで飛んでいくと、魔力は爆音轟かせ爆発した。


 何が起きたのか誰も分からない。鬼反が飛んでいった方と反対側に、白く輝く鳥の姿があった。

「クエッ。やはり、待っていて正解だったな」

「こういう時は敵の出方を窺うのに限る」

 招き邪王猫を持つクラブと、鳳凰になったタレの姿があった。


 タレの姿を見ると、一際警戒するモモたち。


 ミケの落下地点を中心に、モモたち反乱軍と番犬軍が対峙する。先程蹴り飛ばされた鬼反も悠然と戻ってきた。


 ゲームセンターにて戦いは始まった。


 ニャン吉とビッグ4は共にモモへ攻撃を開始。パンチングマシンがあるエリアでモモが番犬及びビッグ4と戦闘を始めた。


 武蔵は再びミケを狙う。頭を打ったミケは、少しおかしくなっていて「むむむおむすびごろにゃん」と口ずさみ武蔵の剣技を避ける。そして、シューティングゲームエリアへ。


 ホットと骨男、タレ、クラブ、レモンは策幽を追いかけ音楽系ゲームのあるエリアへ。


 そして、鬼反と対峙するのは天馬であった。

「何度目だろうな、お前と戦うのは」

「今度こそ覚悟をしろ、鬼反!」

 一万年前からの因縁。天馬と鬼反、この2人の戦いは今、『ヒヨコちゃんのヨピヨピレースでちゅ』というアーケードゲームの大画面をバックに始まろうとしていた。

 天馬が方天画戟を出すと、ヒヨコが大画面に映り『今日も楽しいお遊戯だー』と大音量の声が響く。

 鬼反も負けじと筋肉質な体に魔力を纏うと、5匹のヒヨコが大画面に映り『背伸びしたいお年頃』と歌が流れる。

 天馬が方天画戟を頭上で猛々しく振るうと、ヒヨコがコケて『目が回るよー』と目を回す。

 鬼反が雲の万象、天出雲あめのいずもを両の手の平からモクモクと出すと、ヒヨコが『パパ、煙いからタバコをやめるのだ』と言う。


 先に仕掛けたのは天馬である。その場から一足飛びに間合いを詰め鬼反へ方天画戟を振り下ろす。すると、鬼反も天出雲あめのいずもで受け止める。と同時に、画面のヒヨコがピヨッと鳴いた。

 上下左右から方天画戟が水の流れるが如く縦横無尽に斬りつけてくるが、それを天出雲あめのいずもで作った刀で受け止める。その度、ヒヨコの数は増えていきピヨッと鳴く。10合も刃を交えた頃には、画面のヒヨコが10匹になり紙を丸めた刀でチャンバラを始めた。

『対決ごっこは楽しいでちゅー』

「鬼反、あっちへ行くぞ」

「ああ」

 ヒヨコのせいであまりにも気が散る。2人は場所を移した。ヒヨコたちは、2人を見送るようにダンスを踊った。あどけないヒヨコたちが転けたりしながら踊る姿は、とても可愛らしく、決闘の雰囲気をぶち壊してくれる。


『次回8月16日(水)正午「町中大乱闘その九・ゲームの乱」』

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