第32話 ハンター参上

 にゃんクソは水地獄でのニャン吉の評判を最悪なものにした。鬼の首を取るのに協力を仰ぐのは難事だ。


 水地獄の鬼の首を如何に取るか、などと悩んでいてもしかたがない。朝からニャン吉は、仲間とファイヤーダンスを踊っていた。砂浜で松明を振り回す。


 正午頃、未だにファイヤーダンスを踊るニャン吉たち。そのさなか、砂浜に体長10センチほどの鼠が上陸した。青い首輪を着けて番犬候補に偽装し、ファイヤーダンスを踊るニャン吉を指差し確認する。

「お前は番犬候補のニャン吉でちゅね、この忠太郎と勝負でちゅう」と鼠は名乗り上げた。

「よし! 勝負だにゃん!」と慣れた様子のニャン吉。

 砂浜で僅かな距離を隔ててニャン吉と忠太郎は対峙する。


 先手必勝、ニャン吉は猫叩きを放った。忠太郎の足元から黄色いエネルギーが勢いよく噴き出す。白い砂を巻き上げ黄色の柱が天へと登る。

「よし! 当たったにゃん!」

 猫叩きは直撃した。しかし、忠太郎には全く効いておらず、余裕の表情で体についた砂を手で払う。

「にゃに!」


「今度はこちらの番でちゅう」

 忠太郎は脚に力を込めると突進し、ニャン吉の額に頭突きを当てた。頭突きを受けた衝撃でニャン吉は後ろに吹っ飛びヤシの木に背中から激突。木は真ん中辺りで折れて地面に倒れた。ヤシの木の根元の辺りに落ちたニャン吉は、立ち上がり忠太郎を凝視した。

(何て威力だにゃん! もっさんとは比較にならにゃい強さだにゃん!)


 鬼市は相手の正体を知っていた。骨男とクラブも正体に気付いた。だが、そのことを番犬候補へ伝えてはならない。ハンターは番犬候補よりもはるかに強く、ニャン吉がどう足掻いても勝てる相手ではなかった。鼠が猫に勝つぐらい難しいことだ。


 ゆっくりと歩いてくる忠太郎。警戒したニャン吉はとっさにヤシの木に登る。てっぺんまで登ると、木から木に飛び移り反撃の機会を窺う。

「猿の真似事でちゅうか?」と忠太郎がヤシの木々の下から樹上を見上げる。

 突如ニャン吉は木から飛び降り、地面に着地すると同時に猫叩きを放った。忠太郎への不意打ちのつもりだったが、軽く忠太郎には避けられた。

「くそ! 強過ぎるにゃん!」

「さあさあ、遅いでちゅうよ」

 忠太郎は一気に間合いを詰める。ニャン吉の横腹に蹴りを入れ海まで吹っ飛ばした。ニャン吉は水飛沫を上げ海に突っ込んだ。


 海面から顔を覗かせ何とか立ち上がるニャン吉。ヒゲから海水が滴り落ちる。

(やばい! 何をどうやっても勝つところが想像つかにゃい!)

 忠太郎は追撃をしようと砂浜まで走ってきた……しかし、海の中には入ってこない。いつまでも砂浜でニャン吉が上がってくるのを見ている。

「どうしたにゃ! お前も水地獄に適応したのにゃら海に入ってこいにゃ!」

 水色の首輪……いや、腹輪をした忠太郎は海に入るのを躊躇している。

(にゃんで止めを刺しにこにゃい……、こいつ本当に番犬候補かにゃ?)


 この絶好の機会であるにも関わらず、海に入らず手をこまねく忠太郎に抱いた疑惑。この鼠は番犬候補ではないのではないかとニャン吉は考えた。

「お前は本当に番犬候補にゃのか?」

「それはどういう意味でちゅう?」


「何で海に入らないんだにゃ?」

「私は海が嫌い何でちゅうよ」


「じゃあここまでどうやって来たにゃん?」

「もちろん泳いでちゅ」


「今ニャン吉様はいつものように動けにゃい。今を逃す手はにゃい!」

「私は優しいでちゅう。陸に上がるのを待ってあげるでちゅ……」


「毒が怖いにゃんね。海の毒が」

「そんなわけ……」

 ニャン吉は海水を忠太郎めがけて飛ばした。思わず忠太郎は水を避けた。

「あんた何者だにゃ? 番犬候補じゃないにゃら鬼だろにゃ! それも警察とか軍隊とかだろにゃ!」

「……参ったでちゅう、降参でちゅ」

 忠太郎はハンターについて白状した。ハンターは見破られた時点で負けが確定する。敗北した忠太郎は、「番犬になったらまた会おうでちゅ」と言うと、お椀の船に乗って海を渡りだした。途中、風に煽られお椀の船は転覆し、毒の海で溺れかけた。


 ――にゃんクソから1週間がたって海から毒気も消えた。クソ爽やかな潮風もただの潮風に戻った。だが、魚はニャン吉を見ると魚の腐ったような目で見てくる。


(早く門番の乙姫に協力してもらうか魚を8割従えないといけにゃい。どうするにゃん)とここにきてようやくニャン吉は悩み頭を抱える。


 その間、骨男は歪んドールを改造し新機能をつけていた。

「ニャン公! 歪んドールに防水機能をつけたぜ」

「にゃん」

 歪んドールを起動すると同時に、大慌てでクラブがやって来た。

「ニャン吉、大変だ! 竜宮の亀がさらわれた!」

「にゃん……ん? それはまずいにゃん!」


「悪いが亀の救出を手伝って欲しい。毛ガニの頼みだ」

「任せろにゃん!」


「ありがたい、亀をさらったのは浦島野郎とロブスター3兄弟だ。野郎の方は、昔助けた亀に食い逃げされた時の代金を請求している」

「それは亀が悪いにゃん。払うべきだにゃん」


「ロブスター3兄弟の方は海のギャングと呼ばれている」

「鯱じゃにゃいのにギャングかにゃ」


「奴らは海老でありながら海老の刺青をしている」

「にゃんと!」


「奴らは保安官である俺を目の敵にしている。今回は決闘を申し込まれた」

「西部劇だにゃん」


「奴らは西の海、『ちんちくりんモアイ』の岩場にいる。乙姫様も向かっている。さあ、行こうニャン吉。お前のことを相棒って呼ばせてくれ」

「相棒か、分かったにゃん。よし、行こうにゃん」


「普通に泳いで行くと間に合わない。あいつに連れて行ってもらおう」


 クラブが海へ向けてハサミ笛を吹いた。すると海面に大きな影が現れた。すると、海面からイカの足が2本水飛沫を上げて飛び出した。顔を覗かせたのは、あのタコ入道イカであった。

「このタコ入道イカの背に乗って行くぞ、相棒!」

「タコ入道イカ、頼むにゃん」

「おーう、任せろ。タコ入道イカー」


 ニャン吉一行とクラブはタコ入道イカの背に乗せてもらった。ヌルヌルしていたので鬼市が嫌がったが、レモンの一にらみで大人しく乗った。

「さあ、ゆけ!」とクラブが号令をかけると、タコ入道イカもノリノリで「タコ入道イカー、タコ入道イカー」と気合を入れて海を渡りだした。


 ――ハンターを退けたニャン吉は一難去るが、鬼の首は取れそうにないし、亀は人質に取られるし、また一難。

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