第33話 戦えクラブ

 人質に取られた亀を救うために西の海にあるちんちくりんモアイの岩場へタコ入道イカの背に乗り行く。


 穏やかな海をタコ入道イカの背に乗って渡る。やがて、口を尖らせ半笑いの石像群が見えてきた。それが、ちんちくりんモアイ。モアイ像のように灰色した縦長顔の石像だ。


 ――ニャン吉たちが岩場に着くと、誰かがちんちくりんモアイの頭の上に立っている。一方は『乙姫』、もう一方は『浦島、ロブスター連合』であり険しい顔で対峙していた。


 虫歯だらけの歯をみせながら下品に笑うと浦島は要求を突きつける。

「おい、乙姫さんよ。この亀を返して欲しければ金を持ってこい。この亀は、俺がガキから助けてやって飯まで食わせてやった恩があるのにだ。俺の獄卒士の免許を持ち逃げしやがったんだ。その免許使って毒地獄の金融機関で金借りて金座で飲み屋を梯子しやがったんだよ」

 浦島は亀の顎を鷲掴みにした。

「『浦島の奴につけといて』ってどの口で言いやがったんだ!」


 乙姫は桃色サンゴを呼んだ。桃色サンゴの頭を撫でると、頭の上の棒状のものを7、8本へし折って浦島へ投げ渡す。

「桃色サンゴは良い値がつきますわよ。代金に釣りがきますわ」

 珊瑚を受け取った浦島は下衆な笑いを浮かべた。

「へへっ、まいどあり」

 浦島は逃走。桃色サンゴは泣いている。


 浦島が逃走を図ると、その隣にいたロブスター3兄弟は亀を捕え要求した。彼らは真っ赤な海老で、首の殻に海老の入墨をしていた。

「おい、クラブの野郎はまだか! 俺らは奴に借りがあるんだよ」

 要求を聞いた乙姫は突然、胃の中の物をちんちくりんモアイにぶちまけた。二日酔いだ。吐瀉物をかけられてもモアイは終始笑顔。

「生きてないって素晴らしい!」と人質の亀は笑った。


 ダウンした乙姫に代わって颯爽とクラブが出てきた。ちんちくりんモアイの1つに登って威勢よく言った。それを見た先頭のロブスターはニヤリと笑う。

「お前の狙いはこの俺だろ! 亀を離せ!」

「やっと出てきたかクラブ。俺とハサミ鉄砲で勝負だ。俺に勝てたら亀を返してやるよ」

「望むところだ。桃色サンゴ、10を数えてくれ」

 クラブは頼んだが、桃色サンゴは泣いていて事にならない。


「しょうがない、相棒! 頼む」

「分かったにゃん」


『ハサミ鉄砲のルール。ハサミに石を1つ持ち、背中合わせとなる。そこから10を数える間に1歩ずつ進んで、10歩進んだ所で振り返りハサミで石を飛ばす。早打ちだ』


 一際巨大なちんちくりんモアイの頭の上でクラブとロブスター長男が背中合わせになった。

「へっ、やっと海老か蟹か白黒つけれるな保安官よ」

「鍋で茹でれば皆赤だ」

「じゃあいくにゃん」

 ニャン吉はカウント開始した。

「1・2・3にゃくしょん!」

 ニャン吉はくしゃみを堪えられず中断。誰もがニャン吉を呆れ顔で見た。


「悪かったにゃん。もう一度にゃん」

 1・2・3・4・5・6・7――ここでロブスターは振り返る。悪党らしく約束を破った。

「くらえ! クラブ……え?」

 クラブは6で振り返っていた。ロブスターはハサミ鉄砲で後方20メートル吹っ飛んだ。

(すごい威力だにゃん)


「ロブスター、お前が7で振り返ることは分かっていた」

(今日のクラブは格好いいにゃん)

「だから俺は5で振り返ったぜ」

(おしい、6だにゃん。やっぱあんたはいつものクラブだにゃ)


 これで無事解決……するわけもなく、弟たちが「動くな! 動くと亀の命はないぜ!」と亀を人質にした。

「くそっ、卑怯者……」

 誰もがその脅しに怯みその場に立ち止まるが、逆らうように歪んドールが動き出す。動くだけではなく余計なことを言い放つ。

「あっはっはっ、馬鹿な奴め! 亀を始末してくれれば楽に片が付く上、打つ手なしのロブスターを捕えて食卓に並べる。一石二鳥だぜ」

 誰もが青ざめた。

「てやんでぇ! ちょっと黙ってろ!」と骨男は叱ると歪んドールの停止スイッチを押す。

 クラブは苛立ち「こういうのはやめてくれ」と骨男を咎めた。


 歪んドールの卑劣な行為でロブスターの気が散った一瞬の隙を逃さないレモン。根っこを伸ばして、海中を経由してロブスターの背後まで持って行く。レモンはロブスターの後ろを指差して「あれ何ダ!」と無機質な声で言った。

「そんな子供騙しに引っかかるか!」

 ロブスターたちが油断すると、レモンの根っこは2人を縛り上げた。


 悔しがるロブスターのハサミに縄をかけると竜宮兵が連行しようとする……だが、ロブスターは奥の手を使った。それは、何でも溶かす液体、『溶かすんです』であった。

「そいつぁおいらの発明!」

 骨男は愕然とした。溶けていく竜宮兵を人質にロブスター3兄弟は逃走を図る。


 その時、もっさんが出てきてロブスター長男の頭に噛み付いた。怯む弟たちをクラブがハサミで頭を殴打して気絶させた。再びお縄にかかるロブスター兄弟であった。


 ちんちくりんモアイの頭の上に立ち、得意気に青い首輪を見せ付けるもっさん。

「ニャン吉、借りを返したぜ」

「借り? 何のことだにゃん?」


 離岸流花畑も魚に乗ってやって来た。花畑は二日酔いで顔面蒼白の乙姫の所へ行き「お母様ー、花畑、今戻りました」と衝撃の発言をする。なんとか起き上がった乙姫も「お帰り……花畑。付き人は……どう? ちゃんとやってる?」と吐きそうな声で娘を迎える。ニャン吉は、全身の毛が逆立った。


 ニャン吉及びもっさんは竜宮城へ招かれた。仲間たちは皆、素潜りでついてきた。虫も、骨も、レモンも。


 ――竜宮で乙姫は改めてあいさつをする。

「私の名前は離岸流海底山脈かいていさんみゃくといいます。ニャン吉、以前は失礼しました。もっさん、娘がお世話になっていますね」と穏やかに言った。


 もっさんがいい気になり少し笑うと、乙姫は素手で殴り飛ばした。

(今、乙姫のパンチ速すぎて見えなかったにゃん)


 花畑は私服に着替えたら軍服。いつもはひらひらのいかにもお嬢様の服を着ているのに、こっちが私服なのだ。


 鬼市は作り笑いを絶やさない。乙姫は「魔界鬼市、鬼市害と魏志倭人伝子によろしくね」と話しかけると、「は、はい。父と母に伝えておきます」とおどおどと返事を返す。


 乙姫はニャン吉ともっさんに漆塗りの玉手箱を渡した。ニャン吉は「協力……」と小声で言うと乙姫は鉄球に手をかけた。


 クラブが乙姫をなだめたら、蹴り飛ばされる。

「お母様、いいじゃない。協力ぐらいしてあげても」と花畑が適当なことを言うと、ニャン吉ももっさんも協力してもらえた。


 魚たちは「にゃんクソ、消えろ」と陰口をたたいているみたいだ。

(面倒臭いから、他の番犬候補も素通りさせてやるか)と乙姫は決めた。


 ニャン吉たちは1日竜宮に泊まる。翌朝、乙姫に竜宮城にある青い下り門へと案内された。もっさんは先に行ったらしい。


「ありがとにゃん」

「ええ、いつでもおととい来やがってね」

(毒舌だにゃん)


 その時、クラブが乙姫の前に畏まった。

「相棒、俺も連れて行ってくれ! 俺も力になりたい! 乙姫様、私もニャン吉に同行してもよろしいですか?」

 乙姫はアゴで早く行けと冷ややかに下り門を指した。


「よし! 皆、よろしく!」

 可児鍋クラブが仲間になった。


 歪んドールが起きてきて「非常食が仲間になったぜ」と笑うと、クラブはにらんだ。


 ニャン吉たちは水地獄の下り門を通った。


 ――水地獄よ、しばしのお別れだ……。ニャン吉は毛ガニの可児鍋クラブを仲間にした。そして、更に強くなった。

 そして、次の地獄へ。


『絶命期限まで、後318日』


『次回「新章、第四地獄」』

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