第31話 にゃんクソ!

 竜宮城から無事仲間の待つ島へと帰って来たニャン吉。満天の星もニャン吉の神経を刺激する。


 砂浜から声がしたのを聞き付けたレモンが何やら錠剤を手にニャン吉の元へ。

「ニャン吉様、御所望の下剤デス」

「ああ、ありがとにゃ」

 レモンから下剤を受け取り飲んだニャン吉。その夜は下剤を飲んだら歪んドールを見張りに立てて眠りについた。


 ――別の島ではここ数日、山田もっさんが水地獄に馴染もうと奮闘していた。ニャン吉が竜宮城へ行っている間も奮闘していた。


 もっさんの陣取る島では、島周辺の入江で合計1時間息を止めることが水地獄の適応条件だ。最低1分は息を止めなければ時間としてカウントされない。島に侵入する番犬候補如きは軽く返り討ちにするもっさんであったが、息を止める方は遅々として進まない。その原因は魚にあった。


 もっさんはコバルトブルーの海へ飛び込み、潜って息を止めるのだが……。魚の鬼が邪魔をしてくる。もっさんの鼻をつついたり、笑わせにきたりした。目を閉じれば魚がもっさんを下から海面へ押し上げてくる。


 特に、息を止めるのが50秒を越えると、魚の嫌がらせは言語を絶する。耳元で落語を披露したり、並んで文字を作ったりと笑わせにかかる。

「サイバー攻撃するサバ公」と耳元で囁かれた時は不覚にも笑ってしまい、もっさんは鼻で海水を飲んでしまった。


「くそ! 花畑、こいつら何だ!」

「普通の方たちかと」

 花畑はキッツーネとヌキダヌと草場でのんびり日向ぼっこをしている。その周囲をブンブン羽音を立てて飛ぶ毒針ツン。ツンは花をみると激しく興奮して蜜を集め始めた。集太郎とペラアホがツンを見たら、「やっぱり、かわいそうに」と泣き出しただろう。


 何度も挑戦するが、もっさんは苦戦する。

「魚のクソ野郎!」ともっさんは、島の岬から夕日に照らされた海に叫んだ。


 ――ニャン吉が竜宮城から帰った翌朝。ニャン吉は腹痛で目が覚めた。腹を押さえて眉根を寄せた険しい顔でヤシの木の間を徘徊する。

「下剤が効いたにゃん」


 突如、ニャン吉は海の方へ走って行った。そして、海の方へ尻を向けて屈んだ。

「にぃゃー! にゃー! あー!」

 歯を食いしばり踏ん張るニャン吉。様子見に来た歪んドールがその姿を横目で一瞥すると顔を歪める。

「歪んドール! 言いたいことがあるにゃら言え!」

 だが、返事はない。歪んドールは何か思い付いたようで微笑んで去って行った。


 ――しばらく力んでいたニャン吉。

「出にゃい! 出にゃい! 出にゃいー!」

 いつしかニャン吉は毒の爪と牙を出し猫歩きまで発動していた。目を血走らせたニャン吉は力を振り絞った。

「にゃんクソー!」

 とうとう出た大便。その糞は予想を遥かに超えた大きさで、浅瀬の砂をズリズリと引きずりながら海へと放たれた。海上にはニャン吉と同じ形をした糞がニャン吉の体の何10倍もの大きさで浮かんでいた。


 歪んドールは仲間たちを叩き起こして海に連れてきた。

「スッキリしたにゃん」

 レモンは微笑み「下剤が効いたのデスネ」と声をかける。

 骨男は鼻を押さえて「なんでぇ! これは」と驚き糞を見る。

 集太郎は眠そうにしていたが、糞を見ると驚き目を覚まし「猫が猫型のクショしたりゃ、猫グソしゅるクショ猫でこりぇ」と騒ぎながらニャン吉の周囲でヒラヒラと舞い出した。

 猫型糞は波にさらわれ、にゃんともいえない沈み方をした。


 大便が出てスッキリしたニャン吉は、この砂浜でご飯を食べようと提案したが……。

「おめえ、おいらたちとトイレで飯を食おうってか」と骨男が拒否する。

 集太郎も「食べ物は食道を通ってトイレに行くけど、食堂とトイレが同じだった試しはないで」とやはり拒否する。

 ペラアホは全く気にしていない。

 ニャン吉を横目で見る鬼市が「文字通りクソ猫か」と鼻で笑ったら、レモンが横目でジロリ。


 ――砂浜での食事が始まった。潮風に吹かれながら、何故か食欲を落とす食べ物、カレーを食べた。砂浜に座り食べる一同がふと海の方を見た。すると、衝撃の光景が広がっていた。海面に魚たちが浮かんできて、苦しそうに口をパクパクしている。

「く……苦しい……」

 驚愕するニャン吉たちは、魚の元に駆け寄る。

「どうしたにゃん!」

「寄るな……」


 誰もが現状を把握できないなか、1人鬼市は気付いた。

「白猫、お前もしかして糞の時、毒の力を使っていたか?」

「たしかそうだと思うにゃん」

 それを聞いて鬼市は笑顔を浮かべた。

「白猫、お前の出した糞は猛毒だ。やるなあ、お前」

 先程のにゃんクソの時を思い出してニャン吉はハッとした。呆然とするニャン吉へ鬼市は嬉々として解説を続ける。

「毒の力を使ってした糞だろ。それも水地獄に適応して毒地獄の時よりも強力なやつを。これだけは水に流せないな」

 鬼市の冷笑が辺りに響き渡る。


 予想外のできごとにニャン吉は戸惑い、また焦る。

「ヤバイにゃん! どうするにゃ」

 ペラアホはニャン吉の頭に留まり「ニャッキー。環境破壊だーよ」とやや焦り気味に言った。


 焦るニャン吉の肩を叩き、レモンは「私に任せてクダサイ」と水質をチェックを申し出る。


 レモンに促され白い紙を出した骨男が「こいつぁおいらとレモンで共同開発したんでぇ。『毒楽君どくがくくん』って言うんだぜ」と解説し皆に毒楽君を披露した。


 レモンは毒楽君を海に漬けて水質をチェックした。すると、毒学君はたちまちドス黒く変色した。

「毒デスネ。でもこの感じなら1週間もあれば水は元に戻るデショウ。クラブ、ここの魚はどれくらい強いですか?」

「まあ、普通の鬼の5倍くらいか」

「なら、問題ないデショウ」


 鬼市は誰ともなく言った。

「地球なら海洋生物は即死だね」

「地獄で良かったにゃん」


 ――地球は1つ『かけがえのない』という言葉の重みは計り知れない。


 ニャン吉はレモンの毒楽君を魚たちに見せて毒の解説をし安心させた。こうなってはさすがの魚も反撃する元気がない。


 しばらくすると、乙姫が亀に乗って海から出てきた。

「何が起こっているのです! クラブ出てきなさい!」

 砂浜に降りた乙姫は、背丈を超える大きさの銛を片手に怒鳴り散らした。畏まったクラブは事情を説明する。乙姫はニャン吉を睨むと竜宮城へ帰って行った。


 ちなみに、もっさんは、このチャンスを生かして水地獄に適応した。番犬候補は毒地獄に適応したものばかりでこの程度の毒は効かない。


 ――にゃんクソをして海に毒を流したニャン吉。

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