第55話 町中大乱闘その四・デパートクライミング

 仲間をデパート内部へ送り込むと、その足止めにクラブ、もっさん、モラッシーが一躍買って出る。ポイズンデパートの白いコンクリートの外壁で敵と対峙する。


 窓ガラスを突き破りデパート内部に突入した骨男にレモンは「どうして以前作った地面に吸い付く靴をはかないんデスカ?」と尋ねた。

 骨男は舌打ちして「歪んドールが全部売り払っちまったんでえ!」と答えた。

 イーコが階段の階数を確認し「今あたしたち、ちょうど50階にいるよ」と皆に伝える。

 御亀は微笑む。


 ビルの外壁では、ケロケロ外道が右手を壁に張り付けて頭上のクラブへ視線を向ける。

「ケロ! お前本気でこの俺を止める気か?」

「止めるんじゃない、茹でガエルにする気だ」

 クールに決め蜘蛛のように壁に張り付くクラブとその側でホバリングするモラッシー。

「あんたもいい男じゃない……男よねクラブちゃん」

「もちろんだ。えっと……もらすションベン」

「モラッシー・O・ジョンベンよ」


 ケロケロ外道は、口に緑色の液体を溜めた。粘つくそれをクラブたちめがけて勢いよくプッと吐き出した。皆、液体を避ける。

「どうした? 俺のべとつく爬虫類の餌食になれよ」

「うわっ! きったねー!」

 もっさんは吐き捨てるように言った。


 ケロケロ外道は壁に両後ろ足をつけて屈伸。脚を踏ん張り上向きになると、バネのように脚を伸ばしてカエル飛びした。その勢いは凄まじく、クラブも避けることがままならなかった。ケロケロ外道の頭突きがクラブの甲羅へ衝突した。

「うお!」

 クラブは体勢を崩し壁を滑り落ちる。

「大丈夫か!」

 もっさんが慌ててクラブに飛び付き脚を噛んで落下を防いだ。

「助かったぜ、もっさん!」

「ああ、助けたんだから当然だ」

 人を人とも思わないような笑顔を浮かべるもっさん。


 ケロケロ外道は頭突きの後、壁に再び這いつくばり高い所まで駆け上がる。そして、ピョンと壁面から飛んだ。

「ケローン!」と叫び、背中を上に向け四肢を空中へ投げ出し落下する。クラブともっさんがいる高さを通り過ぎると、べとつく爬虫類付きの舌をベロロンと壁にくっつけた。その舌を辿りビルの壁に再び張り付く。

「逃さないわよーん」

 モラッシーが追撃をしようと急接近するが、ケロケロ外道はべとつく爬虫類を吐き出して近寄れない。


「クソッ! 垂直の壁での戦いは奴に分がある。中に入るか」とクラブは窓を探し出した。

「そうもいってられないぜ」ともっさんが注意を促す。


 再びケロケロ外道が飛び上がってきた。クラブともっさんは巧みに横に避ける。だが、ケロケロ外道は長い舌をベロロンと出してクラブの脚に巻き付いた。

「うおお! 俺の脚に」

 脚をジタバタさせ振りほどこうとするが、ケロケロ外道の舌は巻き付いて離れない。もっさんが手刀で舌を叩くが、弾力のある舌に衝撃を吸収され意味をなさない。


「俺と一緒に落下傘」

 飛び降りたケロケロ外道の舌に引きずられ転落するクラブ。急ぎもっさんとモラッシーが追いかける。


「俺は例えデパートの最上階から落ちても死にはしない。無駄足だったな」

「なーに、殺す方法は幾らでもある」

 地上20階の辺りでケロケロ外道はクラブの脚を掴んだ。そして舌を口に戻し、再びビルの壁にくっつける。その舌から受ける向心力で回転運動し、クラブを遠心力で壁に叩き付ける。ゴゴンと音が鳴り響いて瓦礫が下に落ちた。


「うごっ!」

「まだまだこれからだ!」

 背中側が壁にめり込むクラブ。その僅かに下で両足を壁に張り付けると、ケロケロ外道は落下するビルの瓦礫を幾つも舌で捉え口に含んだ。そのまま口でもごもごした後、ニヤリと笑った。

「カエル……まさか!」

 顔から数センチの所にいるクラブへ、口から散弾銃の如く瓦礫を飛ばす。その銃撃を柔らかい腹側に浴びたクラブは「グアッ!」と叫び声を上げた。腹はへこみ、硬い殻にひびが入り脚は動かなくなる。

「ケーロケロ! 俺のケロキャノンのお味はいかがかな? お次はお前らだ!」

 ケロケロ外道は再び瓦礫を口に含むと、今度は追いかけてくるもっさんとモラッシーへケロキャノンの撃った。

「キャイン!」

「いったーい!」

 丸まって壁を転がり落ちるもっさんは地面まで落下した。モラッシーは体勢をなんとか立て直すが全身から血を流し飛び方も覚束ない。


「ケケケロロロ」

 一瞬柴犬と梟に気を取られたケロケロ外道。その僅かな気の緩みをクラブは逃さなかった。めり込んだ壁から勢いよく飛び出すと、すぐ下にいるケロケロ外道へ泡を吹いて目潰しをした。そのまま頭に飛び付き、両腕を挟みで挟んだ。

「俺のハサミはなんでも斬れるぜ」

「ゲロロ! なんじゃと!」

 ジタバタしてクラブを振り切ろうとするが、ハサミで挟まれた腕は容易に取れない。そして……。

「チョッキン!」

 肩から両腕を切断しようとした。絶叫するケロケロ外道は腕から夥しい血が噴き出す。腕をねじり巧みにハサミから逃れたため腕はついているが、もはや戦いには役に立たない。


「そして! これがとどめだ!」

「われ! 離せや!」

 クラブはケロケロ外道の脚を両方ハサミで切りつけた。そちらも辛うじて切断は免れたが、満身創痍のケロケロ外道。血飛沫がビルに飛び散り2人は大地へ落下する。ケロケロ外道の四肢から漏れ出す血が糸を引きながら落ちていく。

「われ! ただじゃすまさんで」

「こちらもただじゃすまさない!」

 空中でにらみ合う2人は、互いに必殺の万象を繰り出す。その万象が強い方が勝者となる。両者とも渾身の力を込めて同時に放った。

「カエルの歌爆弾!」

「シャボン弾!」

 クラブは両のハサミを口の前にかざし輪っかを作った。さらに、口から泡を吹いて輪っかにつけ、そこへ激しく息を吹き込みシャボン玉をケロケロ外道へ向けて連射した。とてつもない速さでケロケロ外道を襲うそれは、まさに泡を吹くだ。

 対するケロケロ外道は、息を大きく吸って腹を極限まで膨らませた。すると、一気に口から「ゲコ!」と大声で鳴いた。空気の弾丸がクラブへ襲いかかる。


 地上までの距離が10階の所で起きた大技同士の衝突。シャボンと声は衝突すると近くの窓ガラスが衝撃波でパリンと割れた。連射し追撃をするが、1つ2つと弾けて総数が減っていく。カエルの音も徐々に小さくなっていく。


 シャボン弾は全て弾けた。クラブの万象は尽きた。

「ゲコ!」

 最後に鳴いた声は弱々しかった。もはやクラブへダメージを与えることはままならなかった。この勝負は引き分けとなるのか。


 地上までの距離は残す所、5階。

「……さすがは武蔵師匠の修行だ」

 再び息を吸ったクラブは、力を振り絞りシャボン弾を一発だけ放った。クラブに余力があったことに仰天するケロケロ外道。

「……奥の手だ!」

 ケロケロ外道は最後の万象、カエルの歌爆弾を地上へ向かって放った。非常に弱々しい声でカエルの歌が聞こえてくるよ。少しだけ落下の勢いを殺し、その分だけシャボン弾を回避できた。


「忘れちゃいやーよ」

 モラッシーが空からケロケロ外道を踏みつけた。落下の勢いは戻り奥の手は台無しとなった。

「クソッ! われ!」

 弾丸の如くシャボン弾はケロケロ外道の眉間に直撃した。そして、頭を貫通し絶命した。

「やった……ぞ……。相棒、師匠、ご先祖様……。そして、離岸流万歳」

 遥か昔、主君の先祖を奈落へ叩き落とした賊の1人を倒し感慨に浸る。だが、地上は目の前、後2階分しかない。

「うお!」

 地上に撃ち落とされていたもっさんがクラブを受け止めようと構えた。腹を上に向けて主人に甘える体勢で、独裁者と見間違えるような柴スマイル。

「キャイン!」

 もっさんはクラブをなんとか受け止めた。


 ――ビルの壁面での激闘の末ケロケロ外道を討伐した。だが、クラブもまた負傷する。

『次回7月19日(水)正午「町中大乱闘その五・ヌイグルミの中の人でなし」更新』

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