第54話 町中大乱闘その三・デパート大暴れ

 逃げ出したモモを追いかけ遊園地へ入ったニャン吉とホットと小次郎。彼らは放送で挑発してメリーゴーランドの前に誘導し、ニャン吉は地獄の木馬作戦でモモを蹴り飛ばす。


 売店のヌイグルミの山から頭に白い猫耳のカチューシャを着けて出てきたモモ。

「塩素系漂白剤の色落ち猫め! よくも俺の腹を蹴ってくれたな!」

 牙を剥き出し、目を怒らせ、無理矢理に舌を伸して肩を舐め、番犬化し黒獅子になるモモ。唸り声を上げニャン吉へ近付く。

「今度は前みたいにはいかにゃい!」

 凛々しくメリーゴーランドのお馬さんから飛び降りたニャン吉。彼もまた番犬化し白獅子になる。


 息を吸い込むとモモは、不意に口から霧のナイフをプッと吐き出した。突然のことに対応できずニャン吉は蚤の如く飛び上がった。即座に飛び上がり追撃するモモ。だが、ニャン吉は尻尾を回転させ相手を寄せ付けない。

「クソッ! ムチみたいに!」

 ニャン吉はメリーゴーランドの屋根に後ろ足が着くと、モモめがけて弾丸の如く飛んでいく。軽々とモモは避ける。


「さあ、これからだにゃ!」

「悪目立ち猫!」


 柿砲台は、メリーゴーランドの周りを小次郎から逃げ回る。

「おじゃるおじゃ!」

「メリーゴーランドの周りを回るな!」

 万象の発動は木性で遅いが、転がって逃げる柿砲台の動きは異常に速かった。


 シロクマのホットが放送室を飛び出し、急ぎ駆け付ける。ニャン吉らの粘りに期待していたホット。だが、駆け付けた時、ニャン吉は売店の壁を背負いモモに殴られていた。

「獅子王! お前本当に弱いな!」

「ホットぎにゃ! こっちにゃぶっ! やらぐっ!」

 ホットがモモの右脇腹へ蹴りを入れようとした。モモは飛び上がり売店の壁に爪を立てるとそのまま駆け上がる。売店の上から目を光らせニャン吉らを見下ろす。

「やっぱり拍子抜けだったなドブ猫! 俺様に歯向かおうなんて……。何年くらい……、たぶん……100年? 早い……」

 モモは挑発の途中で急に何年早いか年数をこだわりだした。その隙にホットとニャン吉は小次郎とともに逃げ出した。


「プハッ! 臆したかドブ猫! ……。何年……いや、日進月歩だからわりと早く追い付くのか?」

「なに呑気に顔なんか洗っしゃる! 早う追いかけたも」

 売店の屋根で高笑いするモモと、下で焦る柿砲台。柿砲台はマネキン人形の体を出すと、2人でニャン吉らの後を追う。


 ――鬼反たちを追いかけるのは天馬たち。鬼反はポイズンデパートへ入っていった。白亜の壁をした摩天楼が、激戦の舞台となる。

「む……ポイズンデパートか」

「早く中へ入ろうぜ」

 逸る骨男に待ったをかける天馬。

「策幽に気を付けろ。奴は、一万年前もデパート経営をしていたし、技のデパートとも言われていたからな。デパートの勝手は分かっているはずだ。デパ地下のつまみ食いも奴の十八番で――」

「そんなんいいから早く入ろうぜ」

 中に入ろうとする骨男の肩を掴み再び止める。

「なんだよ」

「壁を登って屋上から中へ入ろう」

 天馬の奇策に喜んで乗るクラブ、レモン、ビッグ4。骨男も渋々ではあった。だが、ニャン吉の汚い罠の数々とその効果を嫌というほどその目で見てきた経験から黙って登る。


 猛禽類のモラッシーは鳥であることの利点を活かして、羽音も立てずに屋上まで舞い上がる。そして、そのまま偵察をして、下にいる連中に糞を落として安全だと合図をした。

「よし、登るとするぞ」

 先頭を行く天馬は、颯爽と窓枠から窓枠へと駆け上がる。ほとんど走って上がっている。その後ろからやっとの思いで皆ついていく。


 その時、デパートの中から窓ガラスを突き破りカエルの腕が現れた。ケロケロ外道の奇襲だ。

「ケーロケロ! お前らのやりそうなことは全部分かっているんだよ!」

 だが……、そちら側には誰もいない。割った窓ガラスの穴から外を覗き込んだ。上にも下にも誰もいない。ため息を1つ吐き、もう1つの側面に敵がいることを悟った。

 ガラスの破片が腕に刺さったケロケロ外道。チクチク痛む腕を触り自嘲の笑いをする。先程割った窓ガラスから飛び出し、壁面を伝って敵のいる側面へと移動した。


 一方その頃、天馬は屋上に辿り着いた。そこから、かなり下の方に骨男たちはいた。

「早くしろ!」

 天馬は叱咤するが、この速度が精一杯であった。皆、なんとかよじ登るが天馬のようにはいかない。


 ビルの端で音がした。骨男がそちらを振り返ると、カエルの目がこちらを覗いているのが見えた。カエルは手を振る。

「うお! ケロケロ外道!」

 皆骨男の視線の先へ顔を向ける。ケロケロ外道が壁面にべとつく爬虫類で引っ付きながらこちらへやってくる。

「ケーロケロ! 壁は俺の得意な場所だ。そらケーロケロ!」

 壁面に四足全てを張り付けて走ってくる。その異常な速さに皆驚く。


 ケロケロ外道が現れると、天馬は屋上にいたモラッシーに指示を出す。

「モラッシー・O・ジョンベン。骨男たちに加勢しろ!」

「モーラッシー!」

 モラッシーは羽音も立てず飛び上がると壁に沿って急降下した。そして、ケロケロ外道へ鉤爪を突き立てる。だが、ケロケロ外道には軽やかに避けられる。全身にべとつく爬虫類を使い寝返りをするように壁面を転がった。

「ケーロケロ! さすがは梟だ」

「やだあ、いい男!」

 顔を寄せウインクをしてくるモラッシーに身震いするケロケロ外道。束の間注意がそちらに向いた。骨男たちはその隙にビルを一気に駆け上がる。だが、ケロケロ外道は四足を壁に張り付け蜘蛛のようにビルを駆け上がり行く手を塞ぐ。

「ここは通さねえぜケーロケロ」

「く……臭い!」


 行く手を塞がれた骨男たちに、屋上から天馬が再び指示を出した。

「骨男! そこの窓を突き破りデパートの中に入れ!」

「つってもカエルが」

「カエルなら俺が相手をしよう。援護を頼むモラッシー! 後もっさんもな」

「いいわよん、あんたもいい男ね」

「俺もかよ!」

 勇んでクラブが飛び出した。彼は今、本地になり黒い鋼鉄のような殻をしていた。もっさんも虫けらでも見るようなスマイルでケロケロ外道を見据える。


「頼む!」

 骨男、レモン、イーコ、御亀の4人は窓ガラスを1つぶち破ると皆そこから中へ入った。


「おいおい、誰が逃がすか!」

 追いかけようと壁から体を離し落下するケロケロ外道。

「お前の相手は俺たちだ!」

 その行く手を遮るクラブ。


 割れた窓ガラスの前に立ち塞がるクラブ。空中で口に翼を当て「オホホホ」と笑うオカマ梟のモラッシー。僅かな隙間に爪を立て薄汚いカビでも見るようなスマイルのもっさん。それらに対するケロケロ外道は下から見上げる。


 毛ガニと梟と柴犬とカエルがデパートの外で何かをすると聞いたら、皆、見世物がきたのだと勘違いするだろう。


 ――デパートへ避難した策幽を素直に追いかけるのは得策ではないと判断した天馬。彼はデパートの壁をよじ登り屋上から奇襲をかける。そのつもりがケロケロ外道が立ち塞がる。


『次回、7月12日(水)正午「町中大乱闘その四・デパートクライミング」更新』

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