第51話 集まれポイズンシティ

 ニャン吉の恐るべき罠にかかり、魔神砲の餌食となった不埒。不埒の生死は不明の今、ニャン吉よ、敵を殲滅せよ。


 毒溜広場で交戦中の不埒の子たちは、未だ事態を飲み込めていなかった。


 今回、ニャン吉の取った作戦は不埒の打倒のみに絞ったものだ。

 まず、集太郎とペラアホの万象、監視虫かんしむしで不埒を見付け、土手鍋小次郎が目印を残して潜伏すること。ホテル朝寝坊の屋上から下を見下ろした時、『酒屋・無礼講な飲酒運転』の樽にその目印を見付けたのである。


 次に、消火息しょうかいきや偽殺烏丸こがらすまるで不埒を動揺させる。


 そして、樽の所へニャン吉が爪を研ぎ目印を拡大し、樽に背を向けるよう不埒を誘導。殺烏丸が刺さったところでニャン吉が鬼市の武器庫へ縮地で誘い、魔神砲で吹き飛ばすという作戦だ。


 ニャン吉にとってこの悪知恵はあいさつ替わりであったが、不埒にとっては悪夢の罠である。番犬に就任し、動乱にも慣れてくると、ニャン吉の悪知恵にもエンジンがかかってきた。悪魔のような白猫が送る罠の御中元である。


 毒溜広場で獅子身中の虫たちは、父の不埒に何が起こったか分からないまま戦っていた。だが、不埒がいない今、武蔵と天馬という強者が相手では、もはや獅子身中の虫に勝ち目はない。


「もしや、父上は――」

 長兄の甲が勘付いた。猛毒山脈が轟音響かせ白いエネルギーが飛び出した時、ニャン吉の仲間たちは誰も驚かなかったことに。

「まずい! お前たち! ぐっ!」

 獅子身中の虫はことごとく抑えられ、兄弟姉妹皆大地に押さえつけられていた。

「万事休すか」とレンガの石畳に頭を押し付け悔しそうな声で言った甲。


 獅子身中の虫は1箇所に集められた。

「さて、どうだ? 降参するか?」

 天馬が腕組みをして降伏をすすめる。

「断る!」

 キッパリと断った甲。末っ子の蜘蛛、生糸きいとが涙ぐんで「降伏しないの?」と小声で言うが、それには一切取り合わない甲。


 やがて、ホテル朝寝坊の屋上へと縮地してきたニャン吉もその場に加わった。入れ替わりにタレが霊界へと返って治療を受けることにした。


「不埒は虫の息だにゃ、お前たちの息も虫の息だにゃ」

 ニャン吉の言葉に、プッと吹き出した天馬。不謹慎なその笑いに、武蔵は咳払いを1つした。


 ニャン吉は邪王猫な笑いを浮かべて虫たちを誘う。

「今にゃら、許してやるにゃんよ」

 もっさんは人を舐めきったような芝スマイル、つまり薄ら笑いを浮かべた。

 イーコは、「イッイッイッ」と引き笑い。

 御亀はにこりと笑った。

 モラッシーは歯を出し声を出さずに笑う。

 こいつら、さすがに地獄に落ちるだけのことはあるとその場にいた誰もが感じた。


 ニャン吉の誘いに乗ることなく、甲はニヤリと笑った。

「さて、弟妹諸君。父上の迎えに行こう。『太陽はいつも天高く』」

 すると、弟妹たちも『太陽はいつも天高く』と繰り返す。


 ニャン吉は最初その意味を理解しかねた。しかし、戦闘経験豊富なニャン吉はすぐに察した。ニャン吉は「合言葉だにゃ!」と皆に警戒を促す。


 獅子身中の虫たちは、体から白い炎を開放した。それは紛れもなく父、不埒の万象である。


 ニャン吉の注意を聞いた天馬はとっさに、貫月波かんけつばをその白い炎へ放った。天馬の万象、貫月波かんけつばは敵の万象に触れると手の平から同心円状の波紋を広げ万象をかき消す技である。


「ははは、その万象なら父上から聞いておる。父上から預かりし全員の万象をかき消すことはできまい」

「だめだ! 逃げろ!」

 天馬は両手で2つの万象をかき消したが、残りは取りこぼす。ニャン吉たちは、一斉に後ろへ下がった。


 獅子身中の虫の放った太陽の力は、不埒に比べるとさほど強くなかった。それでもミケらに知らせるのには十分。空に打ち上げ花火の如く打ち上げ、5つの花を咲かせた。


 ポイズンシティのデパートにあるレストランでは、ミケが料理を待っていた。


 テーブルクロスを敷いたテーブルの上に、ミケが香箱座りで料理を待つ。

「にゃほほほ、牛肉の料理をお願いしますよ! 先程処刑した牛を使った」

 ミケは前菜の昆布巻きを鼻で突くと「よーろ昆布!」と上機嫌。

 皿の上に、黒豆を乗せると「豆に生きてますか?」と話しかける始末。


 ミケが牛肉のフルコースを食べようとしたちょうどその時、外で爆発音が聞こえた。ミケは外をじっくりと観察した。すると、爆発音の直後に獅子身中の虫からの救難信号が空に放たれた。


「にゃふっ! これは料理どころではありませんべい! 柿砲台さーん! 不埒さーん!」

 ミケは居ても立っても居られないでエレベーターの方へと走り出す。あまりに慌てていたのでエレベーターを転げ落ち、丸まったままマネキン人形へと突っ込んだ。


 柿砲台はその頃、ポイズンシティの遊園地で1人メリーゴーランドへ乗っていた。

「楽しいでおじゃる」

 柿頭に目が3つのシンプルな姿でメリーゴーランドに乗る。3つの目は全て笑っていた。傍から見ると柿が置かれているようにしか見えない。


 柿砲台も猛毒山脈に轟く爆音に驚き、メリーゴーランドのお馬さんから転げ落ちた。

「な……なんでおじゃ!」

 やはり柿砲台も獅子身中の虫からの救難信号を見て慌てて駆けつける。

「まずいでおじゃ! 蛆虫毛虫が危機でおじゃ」


 毒地獄の下り門で交戦中の鬼反とモモと策幽とケロケロ外道も猛毒山脈の轟音と救難信号を見た。

「あれは……不埒の餓鬼どもの……」

「まずいですな、鬼反殿」

 ここでの戦いは、鬼反らに軍配が上がった。その強力な万象・魔法を駆使し何とか十羅刹女率いる閻魔軍を退けた。とはいっても、十羅刹女らは適当な所で撤退をしただけであるが。


「さて、行くか」

「そうですな」

「ケーロケロ」

「腐れ白猫に今度こそ止めを刺してやる」

 鬼反たちは立ち上がる時に少しよろけながらもポイズンシティの方へと走り出した。


 鬼反は途中、しみじみと語る。

「三途家に転生したのは正解だったな。以前の俺ならもう歩けんだろうからな」

 大地地獄の原始鬼の体は地獄でも飛び抜けた強さである。


 ――ポイズンシティの毒溜広場へと集まって来る鬼反と仲間たち。ニャン吉は不埒を首尾よく倒したが……。


『次回6月14日(水)正午「町中大乱闘その一・毒溜ショック」更新』

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