心の魔との闘争、火喰鳥の衝撃

 ニャン吉達の元を飛び去ったタレは、梁山泊を出ようとしていたが……タレは千里眼の開眼まで開けている事を思い出して油断してしまう。


 タレは梁山泊の山に美味しそうな木の実がなる木を見付けた。そして、そこに降りてしまった……。開眼で周囲を観たタレは周囲に魔物がいない事を確認すると木の実を食べ始めた。その実は毒であったが、火喰鳥には全く効かない。


「うまい! やっぱり自由が一番クエクエ! 武蔵はつまらない、離れて良かった」


 タレの降り立った山は盆地であり、周囲の崖は高い。

(開眼を使えばどうって事ないクエッ、魔なんてこんなもんだクエッ)と、高を括り横になってしまった。

 だが、魔がそれを見逃すはずがなかった……。


 遠くで大きな音がした。タレもその音に気付いたが……、油断をして対処しなかった。


 音は徐々に大きくなってきた……それは水の音だ!


「な……何だ! クエクエ!」

 四方の崖の上から大量の水が盆地に雪崩込んで来る!


 タレは慌てて空へ避難しようとしたが……空一面に網がかかる! タレは鉤爪で網を引き裂こうとしたが、網に触れると電流が流れタレは感電し、更に網の上から水をかけられ地面に落とされる。


 どこからともなく声が聞こえる。

!」

「クエッ……どういう意味だ……」

 水は無情にもタレを飲み込んでいく……。


 水に落ちた火喰鳥は弱い。火も吐けないし、飛ぶこともできない。水圧で体が思うように動かない。タレは息ができずに苦しくなってきた……。

(武蔵、お前が正しかったクエッ……)

 武蔵に言われた事の意味を、厳しさの裏の優しさを、薄れゆく意識の中で思った。


 ――武蔵は開眼を定期的に使いタレを見張っていた。

「む! ニャン吉! 翼を出して俺の言う所へついて来い!」

 武蔵がタレの遭難に気付くと、ニャン吉も何かを察した。

「タレに何かあったにゃんね!」

「そうだ! 行くぞ! ニャン吉以外は一箇所に固まっていろ!」


 千里眼でタレの位置を確認した武蔵にニャン吉はついて行く。


 ――武蔵とニャン吉はタレの沈む盆地へやって来た。

「ニャン吉、ここに来る途中で川を塞き止めている跡があった。これは魔の罠だ」

「じゃあタレはあの激流の中にいるにゃんか……」


 網の下は複雑に渦巻く水があった。

「ニャン吉! 俺をあそこまで連れて行ってくれ! あそこの下にタレはいる!」

「あそこまで運べばいいにゃんね!」


 さすがの武蔵も泳いでそこまで行くのは時間がかかる。そのためにニャン吉を連れて来た。


 タレが溺れている所の上まで来ると武蔵はニャン吉に言う。

「ニャン吉、俺は今からこの網を切り裂いてタレを助けに水の中に入る。それは分かるな」

「分かるにゃん」

「問題は魔物だ! 水の中だけではなく空にもいる。ニャン吉、心眼を使え!」


 ニャン吉の心眼は不完全である。戸惑うニャン吉に武蔵は言う。

「大丈夫だ! 今まで学んできた事を思い出せ! 今のお前ならできる」

「でも……」

「弱気になるな! その迷い、お前が心眼をできない理由だ。行くぞ!」


 武蔵は飛び降りて網を切り裂き水に飛び込んだ。


 ニャン吉は周囲に変な鳥が飛んでいることに気付く。それは魔物だとニャン吉にもすぐわかった。ニャン吉は武蔵の指導を一つ一つ心で復習する。生死、善悪、魔、心……ニャン吉は精神を集中して鳥を見ると……その本当の姿が見えてきた。それは、大きな鳥の魔物であった。


「見えたにゃん! 心眼が開けたにゃ!」


 魔物達がニャン吉に襲いかかるが……ニャン吉は頭から尻尾まで通る回転軸を中心に回転しながら前足を突き出し毒の爪で全てを返り討ちにした。ドリル猫、ここに決まる。


 ――水中では、武蔵は一直線にタレの所へ泳いで行った。意識を失うタレの周りに水生の魔物が群がっている。武蔵は魔物を木刀で吹っ飛ばし、タレの脚を掴んで水上へと戻った。


 タレは武蔵とニャン吉によって助かった。


 目が覚めたタレの目にニャン吉達が映る。

「クエッ? お前達、どうして……」

「心配したにゃん!」

 虫達が良かったと泣いている。

 クラブも一曲弾いた。題名は、『水臭いけどいい匂い』だ。


「馬鹿者!」と武蔵はタレを叱る。

「クエッ、すまなかった。この通りだ許してくれ」

 タレは申し訳無さそうに下を向いた。一同は命が無事だったのが何よりとタレを慰める。

「……これに懲りたら真剣に修行しろ」

「クエッ! また皆と修行してもいいのか!」

「無論だ。タレ、お前は初めて大空を飛べるようになった時嬉しかっただろ?」

「最高クエッ!」

「力がつけば自由になる。修行をすればその楽しさを何度でも味わえるぞ」

 タレの顔は見る見る明るくなった。


 それからタレは必死に水に慣れる努力をした。その必死さがそのまま水に慣れていく早さになった。


 ニャン吉も心眼を会得した時は必死であった。武蔵は敢えてニャン吉に背水の陣を敷いたのである。


 ――全員が魔に打ち勝った。心の弱さに打ち勝った。ニャン吉は心眼を会得する。修行は順調に進む。


『次回「七夕の夜空」』

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