心の魔との闘争、発明家の驕り

 心の魔との闘争に勝利した鬼市は清々しい気持ちで修行を始めた。


 骨男は歪んドールを改造していた。

「こいつぁすぐ調子に乗るからよ、言う事をしっかり聞くようにしてやろうと思うんでえ」

 苦歩歩は少し心配気に骨男を見ている。


 骨男は歪んドールの改造の方向性を決めたようであった。そして得意気に言う。

「よし、自由奔放過ぎたんだ。だから金の事ばかりの守銭奴になっちまった。これからは平等機能をつけるか。してやるぜ」

「……骨男君、その改良というのはどうかと思うよ」


「え? 何でだよ博士。こいつは悪事ばっか働いているろくでなしじゃねえか」

「まあ、そうだけど」

「まあ、おいらに任せとけって。ちゃんとになるようにしてやるからよ」

(来たか、今度は骨男に)と武蔵は心で思う。


 骨男は苦歩歩の忠告も聞かず歪んドールを改造した。そして、スイッチを押す。

「歪んドール、どうでえ。今度は大人しくできそうだな」


 歪んドールは周りを見る。そして顔をしかめた。骨男はその表情に疑問を持って歪んドールに話しかける。

「どうした? 歪んドール……」

「右を見ても、左を見ても、違う奴ばかり」

「お……おめえ何を――」

「この出来損ない共め!」

 歪んドールは骨男に襲いかかった。


「な……何しやがるこの野郎!」

「骨男、お前は俺とは違う。違い過ぎると言っても過言ではない。平等ではない、皆同じであるべきだ。俺と同じ行動をして、俺と同じ服を着て、俺と同じ生活をして――」

 歪んドールは服など着てはいない。

 骨男は呆気に取られる。


 歪んドールは話をやめない。

「何よりも、一番違うのは骨男……お前は俺と違って顔が美しくない! 俺がお前達を調教し直してやる! 俺と同じになるために、見本中の見本である俺の後ろから三歩下がってついて来い! 俺が理想でお前達は間違っている!」


 平等が行き過ぎると悪平等となってしまう。そして、魔の産物である魔違い探しを始めてしまうのである。そして、平等なはずの人間なのに、平等の見本となる人物のという矛盾を生じてしまう。その関係は師弟や上司部下などとは根本的に違う。


「骨男、その他の歩く宇宙ゴミスペースデブリ共。俺と同じになれないならば、始末させてもら――」

 そこまで言うと武蔵が歪んドールのスイッチを切った。


「すまねえ武蔵殿。おいらが歪んドールをきちんと改良しなかったせいで。やっぱり平等も失敗だったぜ」


 申し訳無さそうに言う骨男に武蔵は厳しい口調で指導する。

「骨男、悪いのは自由でも平等でもない。それを使う側の問題であって偏りはこのような結果に終わる。中道を行く事だ! 自由も平等も何のためにある! 俺達生きる者のためだ! それを使いこなせない奴が悪い! 骨男、お前は傲慢にもそれを歪んドールのせいにしたが、まずはお前が成長しろ!」


 骨男はうつむく。

 武蔵は剣を抜き、二刀流の構えをしてみせた。

「必要に応じて右も左も使えばいい。鳥は右翼と左翼のバランスをとることで空から落ちないように、自分の行くべき軌道を飛んでいる。それができるかどうかはお前次第だ!」

「おいら次第……」


 武蔵は刀を一刀鞘にしまい、その手に本を持った。

「骨男、お前は文武両道の才に恵まれている。その稀有な才能は努力によって培ってきたはずだ。だからお前は時に応じて文も武も使い分けていける。それを思い出せ。謙虚に」


 骨男は自分の中に芽吹きつつあった傲慢の芽を断ち切った。まだその芽は出たばかり、それも魔境地獄に入って勢い良く芽吹いたに過ぎない。

 才能故に出てきた驕りを武蔵は断ち切ったのである。悪いのは歪んドールだけではない、自分が未熟なのだと。


 ――その頃、ビッグ5の連中がどのように修行しているのか少し覗いてみよう。真珠あああは酢牡蠣信綱の元で修行していた。


「そうそうそうそう、そうやってそうしてそう……」

 信綱は立て板に水の如く喋りまくる。あああは無口であるが、その声はドスが効いて大きい。

「……こうか!」

「んんんんんん、そうそうそう、もっと速くね」


「外道粉砕蹴り!」との掛け声でサイクロ・ブス子は空を蹴る。

 桜盛が「ヘビーだせ」と言うとのっぺらぼけは「美容と魅惑のお顔」と棒読みの台詞をつぶやき謎の技の練習をしている。


 あああは心眼の訓練の後は真珠砲のトレーニングをした。


「いいよ、いいよ、ものすごくいいよ。後三倍位速く撃てたらね」

「……無理だ!」

「いやいやいや、できるできるできる。さあ速くね」


 付き人の亀山亀太は首を伸ばして日光浴をしている。甲羅を干しているのであるが……松竹梅の木が入れ代わり立ち代わり亀太の日光浴を遮る。


「これは困ったべや。縁起物が現実では災いをもたらしているべ。もう少し迷信に合わせて欲しかったべや」


 亀太はそう言うと松竹梅の木に油をぶっかけ燃やし始めた。

「山火事になっては駄目だべ。あんたら早く灰になるべきだ」


 意味不明な説教を聞かされた松竹梅は川へ飛び込む。

「それで良かったべ、松竹梅は生意気言っちゃだめだー」


 ――骨男の傲慢の芽を断ち切った武蔵。忍び寄る魔に打ち勝つ骨男は謙虚な心を取り戻す。


『次回「心の魔との闘争、弱虫と未熟な果実」』

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