心の魔との闘争、魔界家の宿命
ニャン吉達は修行をしていた。
番犬列伝の討伐した鬼や魔のリストを読んでいるとニャン吉はある事に気が付いた。
「ニャン吉よ、お前がもし番犬になったならば、この本に出てくる様な反逆者を討伐できねばならん。それはとても重要な事だ」
「師匠! 一つ聞いてもいいかにゃ」
「いいぞ」
「この代表的な反逆者の内半分以上が魔界姓にゃんだけど――」
「それなら僕が説明する!」
鬼市が急に話に割り込み、魔界姓について語り始めた……。
「魔界家は初代鬼導から始まる一族なのは知っているだろ。僕の直系の先祖は何人も反逆者を出していて、そのせいで一族には全く信用が無い! 特に最悪だったのは数十代前の先祖、魔界
鬼市の口調が鋭くなってきた。
(来たな、心の魔が)と武蔵はその時を待ち構えていたのである。
「鬼反の野郎が、ケルベロス五世の番犬レースの時代に番犬候補のモモをそそのかして閻魔と魔王に反旗を翻したせいでその子孫は魔界を追い出されたんだよ! だから俺の先祖は地獄中から後ろ指をさされ毒地獄のカマカマファームに流れ着いた。俺は先祖の汚名を晴らすために魔法を鍛え、獄卒士一種の免許まで取ったというのに」
鬼市は憤慨して目の前に仇でもいるかの如く言葉を吐いた。
「それを! 閻魔の野郎が俺には反逆の血が流れているとかで重職にはつけなかったんだよ! 何が側近だ! 実質を伴わない名誉職につけやがって! おまけに『お前には容疑がかかっている』とか言いがかりをつけて魔法と千里眼と獄卒士の免許を取り上げやがって! 魔法を返す条件が何だぁ! 鬼反と同じ番犬候補の御守りなんかさせやがって!」
鬼市はその場を立ち去った。一同は皆黙った。
武蔵とニャン吉は鬼市を追いかけた。
「鬼市……大丈夫かにゃん?」
「ふん! 大丈夫さ! どうせ閻魔の野郎は俺が鬼反の時と同じ様に裏切るのを待っているんだよ。嫌味にもほどがある。鬼反が裏切った時と同じ様に番犬候補の付き人なんかをやらせやがって……」
武蔵は鬼市に向き直り真剣な顔をしてその目を見る。
「鬼市! 俺を見ろ!」
鬼市は横目で武蔵を見た。
「俺はお前を信じる。もし、どうしても反逆をしたくなったら俺の所へ来い! そして俺を倒せ! 思い切りぶつかって来い!」と武蔵は真剣に鬼市の心の魔を退治しようとしている。
「ニャン吉も鬼市を信じるにゃん」
鬼市は一人と一匹の方を見て「どうせ後悔する事になる」と言う。
「上等だ! この御結武蔵を舐めるなよ!」
鬼市は少し落ち着いた様で穏やかになってきた。冷静になった鬼市に武蔵はここぞとばかりに一つ尋ねた。
「鬼市、お前さっき閻魔に反逆者の血って言われたとか言っていたな。それは直接本人から聞いたのか?」
「いや! でもあいつはそういう奴何だ……」
改めて問われると鬼市も実態の無い言葉に答えに窮してしまった。雲を掴めないのと同じ様に、見えるだけでそれを掴むことはできていなかったからだ。
「魔だ。そういうのが得意なのが魔の者じゃないか。騙されるな! お前も魔人ならそれくらい見破れ!」
鬼市はハッとした。暗い嵐が終わり、雲間から日の光がさしてきたようなそんな感じがした。たしかに直接本人からそれを言われたわけではない。魔の者ならば普通、絶好のチャンスだと騙すはずだ。鬼市は顔を上げた。もう恨みに暗く沈んだ顔ではなかった。
「まったく、油断できないね魔は」
鬼市の心の魔を断ち切る事で、心の根源の迷いが消え去った。
ニャン吉達は一同の所へ戻ると、クラブが水に入り、タレが焚火の上で寝転がっている。武蔵は二匹に注意した。クラブは乾燥対策のために風の吹き付ける岩場に戻り、タレは川を泳ぐ訓練に戻らされた。
(全く、目を話すとすぐこれだ)と武蔵は溜息をつく。
――その頃、ビッグ5の他の連中がどのように修行しているのか少し覗いてみよう。イーコ・ブールはその頃……。
イーコは穴子
「根性が足らぁん! もう一回やれぇ!」
「何よ、師匠。あたしのリズミカル千鳥足に文句あるわけ?」
宗厳は厳しい顔をしてイーコを見る。
(困ったわね、理不尽な根性論振りかざして)
「師匠! これでいいですか」とイソギンチャクのイソは技を見せる。
「自分もどうですか」と黒珊瑚のゴサンも技を見せる。
「……気合が足らぁん! もっと心を燃やせ!」
五代友薄は会社が倒産したショックから立ち直れない。
ロウソク男が頭の上の芯に炎を灯した。
宗厳は半ギレで「貴様! 師匠を舐めてんのか! 修行追加じゃぁ!」と叱り飛ばす。
「なんでじゃぁ! 心を燃やせって言ったではないか――」
「けしからん! 頭の炎を燃やすことで師匠に反抗したではないか!」
理不尽というより理不人だ。
イーコはリズミカル千鳥足をリズムよくすると宗厳は目を怒らせて地団駄する。
「そんなんで魔の動きを撹乱できると本気で思ってんのか! 心を燃やせと言ったではないか! お前本当にそれでも男か!」
「何度も言っているじゃない。私は女よ!」
心を燃やしたロウソク男の頭に再び火が灯ると、宗厳は回し蹴りでロウソク男の頭の火を消した。そして、正拳突きでロウソク男の顔面を殴り飛ばした。
――魔界鬼市は心に抱える闇と向き合う事ができた。己心の闇、すなわち魔に打ち勝ったのである。
『次回「心の魔との闘争、発明家の驕り」』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます