千里眼の奥義

 ニャン吉達が梁山泊へ入って修業を開始した頃、裏口門之助率いる豚達が魔境へ入って来た。


 門之助は「ハンターも魔境までは追っては来れない。ここは魔族の領土だからね」と生意気を言う。


 番犬候補の豚は「ブヒィ! 楽してここまで来れて最高!」と高笑いした。


 牛や羊や鶏などの番犬候補同士で結託してチーム家畜を結成していた。利害で集まっただけの拙い団結である。


 ――梁山泊ではニャン吉達の修行が始まった。

 武蔵は修行の骨格となる奥義の伝授をまず理論面から説いた。

「まず、お前達が身に付けなければならないのは全てを見通す目、千里眼だ。この力があれば魔も見破る事ができる」

「クエッ! 千里眼ならもう知っている」


「焼鳥タレ、ならば五眼ごげんを知っているか?」

「クエッ?」

「五眼とは千里眼のレベルだ。仏教の五眼とは違う。千里眼の五眼は、裸眼らがん正視眼せいしがん心眼しんがん開眼かいがん帝王眼ていおうがんの五つだ。千里眼と五眼を教える事ができるのは俺を含む冥界の師範の資格を持っている者だけだ」


 武蔵は五眼について説明した。


『第一の眼、裸眼らがん――これは読んで字の如し。普段の我々の眼だ』


『第二の眼、正視眼せいしがん――これは自分の限界を超えた視力で物を見る力。目の前の物も遥か遠くの物も鍛錬次第でどこまでも見えるようになる。顕微鏡と望遠鏡を同時装備している様なものだ』


『第三の眼、心眼しんがん――これは精神を集中させて心の目で視る力。で全ての幻を見破る力で、ここまで開けると魔を見破る事ができる様になる』


『第四の眼、開眼かいがん――これは心眼を拡大させてのものまで読み取る力だ。つまり、自分の周囲の物を全てを心で感じる力。観じるとも言う』


『第五の眼、帝王眼ていおうがん――これは閻魔や魔王などの力で相手の心まで読み取る力だ』


「――お前達、この千里眼の心眼の習得をするまで俺から離れるなよ」

 一同から「はい!」と返事が上がった。


「そういえば師匠、閻魔がニャン吉の考えている事をことごとく読んできたのは帝王眼を使っていたのかにゃ?」

「そうだ」


 集太郎が武蔵に質問する。

「一つ聞いても良いか?」

「何だ集太郎」

「正視眼じゃ幻を破りぇんのか?」

「ああ、破れない。正視眼と心眼が幻を破るかどうかの境目となる」

「ちゅなっとんか? 武蔵は」

「え? な……何?」

「いや、蝶々もしょの心眼は身にちゅくんか?」

「もちろんだ」


「師匠はどこまでできるんだにゃん?」

「俺は開眼までできる。帝王眼は流石に僅かしかできん。それだと使える内には入らん。それと、心眼までなら長時間維持する事もできる」


「心眼を維持できる時間はどれくらいだにゃん?」

「まあ、その気になれば起きている時はずっと使える」


「すごいにゃん! それってニャン吉でもできるのかにゃ?」

「鍛錬を怠らなかったらできると思うぞ。閻魔の選んだ番犬候補はお前のいた宇宙だけではなく全ての宇宙から選ばれた連中ばかりだからな」

「宇宙? 全部? にゃんだ?」

「気にするな、それより千里眼の維持する技術を常識じょうしきと言う」


 武蔵は常識じょうしきについて説明した。


常識じょうしきとは、常時千里眼を使える様になる事で、心眼以降の技術だ。常識心眼、常識開眼、常識帝王眼と呼ばれるもので、常識を使えるものはあまりいない』


 そこまで言うと武蔵は目を見開き、懐からおむすびを出して食べ始めた。ニャン吉達もご飯を食べる事にした。食材は、そのへんのアレである。


 食べ終わった武蔵は立ち上がる。

「さて、お前達の視力を検査する。もちろん千里眼のだ。まずは正視眼の検査から」


 武蔵は遥か遠くの物を指差す。

「あれが視える奴は手を上げろ。そしてそれが何か答えろ」

 鬼市、骨男、クラブ、タレが正解だ。


 次に武蔵は苦歩歩に魔法を使ってもらう。

「お前達の中で苦歩歩の魔法が視える奴はいるか?」

 鬼市とタレだけが視えた。


「鬼市、タレ、お前達それをどれだけ維持できる?」

「僕は二秒くらい」

「クエッ! 十秒」

「よし! 分かった。では視力を発表する」


『裸眼――ニャン吉、レモン、集太郎、ペラアホ』

『正視眼――骨男、クラブ、鬼市』

『心眼――タレ』


「視力は以上だ。最低十秒は維持できないと修得した内には入らん」


「ところで師匠。千里眼を使える鬼はどれくらいいるんだにゃん?」

「正視眼までは学校で習えるからできる者も多い。魔を見破る心眼以降の力は一部の鬼しか知らん。開眼にいたっては、俺達武術師範が教える以外は知るすべは皆無といって良い。故に、千里眼と言う名を知るものも少ない」


「分かったにゃ。ちなみにケルベロス五世は使えたのかにゃ?」

「もちろんだ。番犬は最終的には帝王眼と常識開眼まで辿り着くといわれている――それからニャン吉、お前は鬼何体分という数値を知っているか?」

「何だにゃ? 鬼スープ?」

「地獄の者の強さは、生命力で測られる。一般の鬼を一と定義する。ケルベロス五世は噂では七百鬼くらいはあったと聞く」


「にゃんと! ……それってすごいのかにゃん?」

「一般に番犬は有能で八百、無能でも四百鬼はあると聞くから優秀な部類だ。さてニャン吉、番犬には一鬼当千いっきとうせんという言葉がある。番犬は千の鬼に匹敵する強さという意味だ。修業するからにはお前もそこを目指せ」


「分かったにゃ」


 ――千里眼について教えてもらったニャン吉達。修得せよ、ニャン吉。


『次回「修業開始」』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る