猫と剣豪の師弟

 研究所で落ち着いてきたニャン吉達。

 骨男は語り出す。

「おいらが研究所に戻ったら偽博士がいてよ。実は最初は偽者って気付かねぇでよ。お茶を出される前に机の上のゴミを偽者が右手でゴミ箱に投げたんだよ。そこでおいらは博士が左利きだったのを思い出して考えたわけよ。で、結局怪しいと思ったから――」


 歪んドールが話を取った。

「そこでこの俺様よ、骨公は俺様に陳腐な時計を渡してこの俺様に白衣の馬鹿を探せっていうわけで――」

 再び骨男が話を取った。

「んで歪んドールに頼んだってわけよ。この映る界を使って捜索しろってよ」

「映る界でどうやって捜索するんだにゃん?」


 骨男は発信機機能について説明した。

「博士もこいつをもっていたから居場所を特定できて――」

 歪んドールが話を取る。

「白衣の馬鹿をこの俺様が見付けて侍に報告してやったわけだ。白衣の馬鹿者、クソ発明を没収されなくて良かったな。俺様がいて、なお良かったな」

 歪んドールは天狗になっている。


「んで、おいらは歪んドールが博士を見付けて来るまで喋りまくって時間を稼いだわけよ。でも、相手がおいらを警戒してくれて良かったぜ。もし、お茶を煎れるなんて回りくどいことやめて襲いかかってきたらやられていたっぽいぜ。まあ、賭けに勝ったわけよ」

 骨男も調子に乗って話す話す。


 苦歩歩は「実は、私が伏魔殿に着くと魔性当字プルペコボンが私を襲ってきてね。発明品で応戦した事が発明家である骨男君を警戒させる因となったのだろう」と話した。


 歪んドールが強引に話を切って自慢話を演説し始めた。

「つまり、白衣の馬鹿を助けたのも俺、骨公を助けたのも俺、侍を呼んだのも俺、そして番犬気取りの白猫を助けたのも俺、もうお前達は一生俺様に恩を感じて生きなければならないわけだ! わっはっはっ!」


「おめえ、風地獄でせっかく揃えた部品を全部、影で売ったろ」

 ギクッ!


「その部品で退魔の機械とか武蔵を探す機械を造ろうと思っていたのによう。確実に造れたぜ」

 ギクギクッ!


「そう考えりゃあ、元はと言えばおめえの蒔いた種って事になるな」

「……御主人様は私の恩人。どこまでもついて行きます。地獄の果まで」


 ニャン吉は歪んドールの前に座る。

「歪んドール! 水地獄でお前はニャン吉様が寝ている時に一度腰に寄生虫を置いただろにゃ!」

 ギクリ!

「あの時レモンが下剤を作ってくれなかったら大腸が機能不全になっていたにゃんよ! お前の所行、忘れてないにゃんよ!」


「……私、心を入れかえました、はい。もう入かわりましたよ、はい」

 歪んドールは微笑んだ。


 話を聞いたもっさん、イーコ、あああ、ジワジワも驚きを隠せなかった。


 離岸流花畑は「まあ、そんなことが。今度裏口さんを見付けたら磔にして半殺しにしてやりましょうか」と少し怒り気味。


 話が終わると武蔵はニャン吉に問う。

「ニャン吉、お前は俺の弟子になりたいのか?」

 ニャン吉は目を閉じた。

「もう、あんなめに会いたくにゃいし、皆を会わせたくにゃい! お願いしますにゃん! 弟子にしてくださいにゃん!」

「私は厳しいぞ!」

「耐え抜くにゃん!」


 武蔵はニャン吉の目を見る。ちょうどその時、陽の光が雲間から出て来て研究所の窓から入ってくる。その光がニャン吉の目に入り瞳孔が少しずつ縦長になり怪しい目になった。おまけに少し光った。もう、猫って奴は。


 武蔵は一瞬笑いそうになったが、気を取り直して「よし! 明日から修行を始めるぞ」と言った。


 苦歩歩はビッグ5の他の奴らの方を向いた。

「山田もっさん君、イーコ・ブール君、真珠あああ君、ジワジワ・トル・ベントトーウ君、君達にも紹介状を書いてあげよう。彼等も立派な師匠となれるはずだ」

 ビッグ5は喜んでその話を受けた。


 山田もっさんは土手鍋どてなべ小次郎こじろうの元で修行する事になった。

「ニャン吉よ、俺は小次郎の元で修行する。また会う時は決着をつけるぞ」


 イーコ・ブールは穴子あなご宗厳むねよしの元で修行する事になった。

「ニャン吉、あたしは必ず番犬になる。あなたの出る幕はないわ」


 真珠あああは酢牡蠣すがき信綱のぶつなの元で修行する事になった。

「……強さとは何か!」


 ジワジワ・トル・ベントトーウは祖雄ソース卜伝ぼくでんの元で修行する事になった。

「俺は……いや、あたしはあんたより強くなるからねい。覚悟おし」


 ビッグ5はそれぞれの師匠の元へ旅立った。


 ――翌日。

 ニャン吉チーム邪王猫は武蔵に連れられ梁山泊へ。

「師匠、どうして梁山泊に戻るにゃん?」

「修行に最適だからだ。ここは古来より修行場として使われてきたからな。ビッグ5とやらも全員ここで修業しているはずだ」


 苦歩歩は他の皆も鍛えてくれるように頼んだ。


「無論そうするつもりだ、お前達いいな!」

 全員「はい」と返事をした。しかし、タレは修業と聞くと嫌な顔をしている。


「――さて、私は研究所へ戻るとするか」

「それはやめた方がいい。いくら番犬候補がいなくなったといっても伏魔殿の連中が何をしでかすかわからんからな」

 武蔵の警告を聞き入れ苦歩歩もついて行く事にした。


 そして、もう一度、魔の山である梁山泊へ……。


『次回「千里眼の奥義」』

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