真夜中の静かな騒動
三十体も逃げ出したホムンクルスも残すところ後三体。武闘派のホムンクルスは七体までがただいまと言って帰ってきた。
(もうちょっと武人らしく抵抗するとかなかったのかにゃん)とニャン吉は心でツッコミを入れる。
――夜になった。
研究所でくつろぐニャン吉達。
ニャン吉はブリッジ。
鬼市は『温暖化なんて嘘なんて嘘なんて嘘なんて嘘と思う』という本を読んでいる。
集太郎は未来を視ようとして途中で諦めて踊り始めた。
ペラアホは念写を覚えようとして途中で飽きて踊り始めた。
レモンはレモンティーでうがい。
骨男はプルアップ。
クラブは月の兎に怒りを覚える。
タレは燃やす物を探していた。
そこへ苦歩歩は話があると客間に入ってきた。ニャン吉達は集合する。
「さて、みなさん。ホムンクルス捕獲作戦お疲れ様」
「クエッ! もっと労え」
「タレもお疲れ様。ここで一つ問題があってね。残り三体のホムンクルスについてなのだが……今まで捕まえた奴らとは一味違うのだよ」と前置きをして苦歩歩はホムンクルスの最重要と書いてある資料を提示して説明した。そこには、風神、雷神、魔人と書いてある。
「この風神、雷神、魔人をモデルにしたホムンクルスは今までの奴等よりも強力に造ってあるのだ。だから、ニャン吉君には風地獄に適応して挑んでもらいたい」
「そいつ等そんなに強いのかにゃ?」
「強い」
「風地獄に適応すれば、そいつ等に勝てるのかにゃん?」
「一般に風地獄に適応した番犬候補は、番犬の力の土台を造る準備が整うと言われている。それに、翼が手に入るからね」
一同は「翼!」と驚いて声を上げる。鬼市は知っているようだった。
苦歩歩は場を制して「ニャン吉君とタレで制空権を握り、更に皆を運んで総力を上げてほしいのだよ」と言った。
「たしか、八大地獄図に馴染む方法があったにゃん」
ニャン吉は風地獄編の適応の章を開く。
「『この風のメロディーを覚えて歌う』の意味がさっぱり分からにゃい。どういう意味だにゃん?」
クラブはギターを出してきた。
「クエッ! それはきっと風の音だ!」
クラブはギターを弾こうとしたら、ハサミで弦が切れてしまった……。
「タレ、風の音って何だにゃん?」
「クエクエ、この風地獄にはこんな伝説がある」
タレは苦歩歩の重要と書いてある数式の書かれた紙がある机の上に飛び乗る。そして、数式の紙を蹴り飛ばして語り始めた。
「東西南北の山々に、風の音楽吹き付ける。順序正しく歌う時、体の楽譜に刻みつける。空に歌えよその音を、空に響けよその音を。と、ニャン犬! 東西南北の山脈に吹く風は特定のリズムを繰り返すといわれている。明日はそれを聴きに行こう!」
「そうだにゃん! ……ん? クラブ、どうしたにゃん?」
クラブは五線紙とフルートを持ち、椅子に一本脚をかけてクールに提案した。
「相棒、音楽の事なら俺に聞け。風のメロディーを俺がこの譜面に捕まえてやるぜ」
椅子が動いてクラブも転けた。起き上がり、クラブはフルートを吹き始めた。
(め……滅茶苦茶うまいにゃん! でも、毛ガニがフルートを上手に吹くって……正直不気味だにゃん。でも、さすが宮廷音楽家だにゃん)
そして、明日に備えてニャン吉達は早目に寝ることにした。
――夜中、ニャン吉は物音で目を覚ました。物音を立てたのはタレであった。タレは部屋の出入り口に立っている。
「どうしたんだにゃん?」
「静かにしろ、博士にバレる。おやつだクエッ、博士の『秘蔵のおやつ』を食いに行くぞ。お前も来るか?」
タレの声に目を覚ました虫達が自分達も食べたいと起きてきた。
「よし、お前達ついて来いクエッ」
虫達はタレについて行く。ニャン吉は心配になってついて行った。
途中の廊下の窓から月明かりが入っている。窓の外を見ると、骨男が木にぶら下がり、月明かりに照らされてレッグレイズをやっていた。その姿は不気味極まりない。
タレは冷蔵庫のある部屋を通り過ぎ、奥の部屋へと入って行った。
「ちょっとタレ! まずいにゃん」
「任せろ、クエッ」
「ニャ吉、蝶々は今忙しいんじゃ」
「ニャッキー、静かーにー」
ニャン吉は呆れて物も言えない。
タレは、壁の前で立ち止まった。それから、壁の一部を
「蝶々と一緒に、ちゅちゅくんじゃ」
すると、壁は開き、奥にはコンピューターがある。隠し部屋だ。
「タレ! 本当にまずいにゃん」
コンピューターは「パスワードを入力せよ」と画面に表示した。タレは目にも止まらぬ速さで画面を足で押す。パスワードは解除された。
「さっき博士がパスワードを入れる所を見たクエッ! 大体は予想通り、科学者の思考は規則正しくて読みやすい」
ニャン吉の思考は止まった。
コンピューターは、まだ作動しない。
「クエッ、やはりまだパスワードがある」
タレは複雑な操作を難なくこなす。
(この鳥、ハッカーになれるにゃん)
「ここで、クエッ。良し! 第二パスワードだ。多分円周率だろ」
またしても電光石火で円周率を打ち込んでいく。五万桁まで打ち込んだ所でタレの足が止まった。
「……まてよ、クエッ。博士の事だ、キリの良い所で別の物に変えているはずだ。簡単で忘れにくい何かの表……分かった! 三角関数の表だ! まずは、sinを0度から1度飛ばしで下四桁までを入力。cosは15度から2度飛ばしで下三桁。逆にtanは89度から下二桁……35度の所で常用対数表の……」
タレは完全に苦歩歩の頭を読んでいる。
(流石は獄卒士一種の免許持ち、博士の頭の中を全てお見通しだにゃ。そして、どれだけの事を覚えているんだにゃん)
パスワード解除、アンロック。
「クエッ、これで食べることができる」
虫達は大喜び。ニャン吉はたったの三分でこれだけのことをしたこの鳥に恐怖を感じた。そして、皆でおやつを食べることにした。
「――ところでタレ、今までの機械を壊したり数式を燃やしたりしていたのはわざとかにゃ?」
「……クエッ、何のことだか」
帰りにはドアが閉まった。が、タレは冷静に用意していたタオルで足を拭き、指紋認証をすませる。玄関の前にも水道とバケツと布があったのに、指紋認証が一度でできないとぶち破ったのもタレである。
「……やっぱりわざとだにゃんね」
タレは他所を向いた。
「明日も楽しいと良いな、クエッ」
ニャン吉はそのまま客間に帰ろうとするタレを呼び止めて、歯磨きをするように勧めた。こういうことはニャン吉の方が一枚上手である。
――明日は風地獄に適応するため風地獄をまわることに。夜中、タレの本性とその頭脳が明らかになった。
『次回「風のメロディー」』
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