捕獲作戦開始

 ニャン吉達は今度こそタレの背に乗ってホムンクルスを捕獲しに行くつもりだ。骨男は発明をするために残るので、チーム邪王猫の前衛中衛はレモンが兼任することにした。


 研究所の前のこの平らな場所を『火喰鳥広場』と苦歩歩が今朝、名付けた。火喰鳥広場で準備万端のニャン吉達。


 タレはニャン吉達に「お前達! 背中に乗れ! クエッ!」と言って背中を向けた。

「ちょっと待つにゃん、クラブがまだ――」

 レモンがニャン吉の肩を叩いたのでニャン吉は振り返る。クラブは玄関で「俺をおいていってくれ」とニャン吉にジェスチャーした。

「にゃんと!」

 クラブは乾燥に慣れるためもう少し時間が必要ならしい。


 気を取り直し、ニャン吉とレモンがタレの背に乗る。鬼市もタレの背に乗ろうとした……が、タレは急に鬼市の方を振り返り飛んだ。そして、鬼市の頭を鷲掴みにして大空へと飛翔した。


「待て! 待て! 待て! 何で僕だけ頭を掴むんだ!」

「クエッ! お前の頭は掴みやすい」

 レモン爆笑。レモン笑い転げる。レモン鬼市の方を見下ろし薄ら笑いを浮かべる。

「テメー! このクソ植物! おい! タレ! 僕を下ろせ!」

 タレは意外そうな表情をした。

「しょうがない、恨むなよ。クエッ!」

 タレは鬼市を大空で離すと鬼市は叫び声を上げながら谷底へと真っ逆さまに落ちていった。


「クエッ! 出発するか」

「お前は面白イ!」

「ちょっと二人共、さっさと鬼市を助けろにゃん!」


 鬼市は自力で谷底から這い上がり火喰鳥広場まで戻ってきた。

「僕はもう行かない! ざけんなよ!」

 鬼市は研究所に残る事にした。


『第一次、ホムンクルス捕獲遠征』

 タレはニャン吉とレモンを背に乗せて、朝日の登った大空へと飛び上がった。空から見下ろす景色は圧巻であった。


 ――しばらく飛んでいると、タレは遠くにホムンクルスを見付けた。ニャン吉とレモンには全く見えなかったようだ。

「お前達、ちょっと飛ばすぞ……クエッー!」と注意するとホムンクルスの所へ飛ばした。その速度は飛行機より速い!

(ちょっと飛ばすぞ……って速いにゃん! 何がちょっと飛ばすだにゃん!)


 タレは、急降下してホムンクルスを捕獲した。その時、鳥が二羽近寄って来てタレに何かを伝える。タレは「分かったクエッ」と返事をすると、またぶっ飛ばした。そして、二体目のホムンクルスを捕獲した。


「さて、一旦研究所……小屋に戻るかクエッ!」

「ちょっといいかにゃ? ニャン吉達はこの作戦で本当に必要なのかにゃ?」

「クエッ! もちろんだ。お笑い芸人はいつもいて欲しい」

「にゃあ!」


 研究所に帰ったニャン吉達。火喰鳥広場には苦歩歩と骨男が迎えに出ていた。

「クエッ! 捕まえたぞ! まずは二体」

「分かったよ、タレ。さあ疲れただろ、研究所へ入ろう」と苦歩歩は言っているが、実はタレは疲れるような事をしていない。ホムンクルスを鳥達に監視させてニャン吉とレモンと一時間程昼寝をしたのだから……。ホムンクルス捕獲作戦に使った時間は一時間五分。つまり五分で全てを終わらせたわけだ。


 研究所の客間でニャン吉は皆に話をする。

「ちょっと良いかにゃ? この作戦はタレだけで十分だにゃ。ニャン吉達はいらにゃいと思うにゃん」

「おいおい! ニャン公! おめえタレだけで良いっていってっけどよ、それは間違いだぜ」

「骨男、どういう事だにゃん?」

「んなもん決まってんだろ、ぜ!」と骨男は焼鳥頬張り味について語る。

「それからよ、おいらは筋トレを始めようとおもったんでぇ」

「骨男……あんたにゃん」

「だから、これからつけようってんじゃねぇか」

(一体どこに筋肉をつけるつもりだにゃん)とニャン吉は思う。


 苦歩歩はコーヒーを飲みながらニャン吉に資料を見せ説明した。

「ニャン吉君、武闘派のホムンクルスにはまだ出会っていないね?」

「たぶん……その資料の武闘派の奴には会ってないにゃん」

「タレがいくら強くても奴等も強敵だ。条件が悪いとやられる……かもしれない」

「そいつら、そんなに強いのかにゃん!」

「まあ、一対一で正面から挑めばタレの方が強い。複数でも正面からなら勝てると思うが……相手が奇襲をかけてきたらまずいと思う……こら! タレ! やめなさい!」

 タレは苦歩歩のコーヒーカップを持つ手を揺すってコーヒーをこぼれさせた。苦歩歩の白衣はコーヒーのシミが至るところにできてしまった。


「さて! 飯でも食うか! 博士! 先に食堂で待っているぞ」と言うとタレは客間を出て行った。

「タレは私にかまって欲しいのだよ。可愛いもんだ」

(絶対違うにゃん、タレは博士の事を舐めているにゃん)


 ――もうーん、もうーん。三度の飯より四度の飯。牛の胃袋モー四つ。モウレツ屋ー。

「モウレツ屋の牛次だにゃん。火喰鳥広場にいるにゃん」

 ニャン吉達はモウレツ屋の所へ駆けて行く。


 ニャン吉はモウレツ屋を呼び止め買い物を始めた。ニャン吉は宇新聞を買うと骨男が代金を支払う。これもいつもの光景となった。


 ニャン吉は宇新聞を読む。

『番犬候補エントリーの締め切り迫る』

『番犬候補現在の参加者四千匹を超える。脱落者は三千匹を超える。』

『番犬候補脱落の内訳。環境に適応できない者、約千匹。鬼にやられる者、約千匹。番犬候補同士の戦いで敗れた者、約千匹』

『脱落者がどこの地獄で脱落したかの統計は、毒地獄で五割、大地地獄を合わせると九割となる』

『ビッグ5は全員風地獄へ』


「三千匹! そんなに脱落したのかにゃ! それに脱落者の割合は毒地獄で全体の半数だってにゃ! 大地地獄と合わせると九割! そんなに……」

 ニャン吉は自分の挑んでいる試練の険しさを改めて自覚した。


 レモンは妄奸誌を立ち読みした。

『番犬候補は裏取引で繋がっている』

『閻魔は不正の大王』

『哀れ、人で無しカンパニーはビッグ5の罠にかかり潰れる』

『ロブスター三兄弟の告発。可児鍋クラブの恐るべき実体』

『我々は言論の自由を守る』

 そして、隅っこに『飽くまでもこの記事は当たるも八卦当たらぬも八卦』と注意書きがしてあり、責任逃れに汲々している所が容易に想像できた。


 牛次は「妄奸誌は今、言論の暴力と言われて問題になっているもう。正直自分も妄奸誌は荷物になって邪魔だから持ってくるのが嫌だもう」と言って妄奸誌を谷底へ捨てた。


「牛の次男坊さん、あんな所へ投げてはゴミになりマスヨ」とレモンが環境を心配していると、鳥の鬼がやってきて妄奸誌を咥えて山頂で燃やし始めた。

「この地獄ではああやって暖をとるんだもう」

 レモンは納得した。


 ――タレだけで軽々ホムンクルスを捕まえて来る。ニャン吉……もう少し役に立て。


『次回「ただいま」』

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