報酬
ビッグ5は研究所の前で出会ってしまった。
邪王猫ニャン吉、傍若無人もっさん、セカンドペンギンイーコ、だまし討ち貝あああ、悪道徳ジワジワ。
五匹は入り乱れて戦った。
鬼市達の所へ、離岸流花畑と溶けこっこがやって来た。
「あら、ごきげんよう魑魅魍魎ども」と花畑が挨拶をする。
「ビッグ5の大乱闘、笑えるぜ!」と溶けこっこは言う。
その時、集太郎は鬼市にこっちへ来いと合図をする。鬼市は面倒くさそうに集太郎の所へ行く。
「キチ、お前あしょこにおる花畑と赤い紐みたいな物で
「はぁ? お前何言ってんだ?」
「実はの、蝶々は先祖が陰陽師なんじゃ。蝶々の代になりゅとその力は大分薄まってしまっての、絶対起こる未来以外は視えんのんじゃ。しょの視えた未来も避けられるのと避けられんのがあっての、今回のは避けられんやつじゃ」
「で、何が視えたって?」
「お前等近い将来、結婚しゅる」
鬼市は雷に打たれたような衝撃が走った。誰もが最も近寄りたくない家、それが離岸流家なのだ。あの乙姫の性格と水地獄の魚共も敬遠される一因であるが、他の離岸流家の連中のヤバさも有名である。それは後々分かること。
「しゅしゅしゅ集太郎! てめえ適当な事言ってんじゃねぇぞ!」
「鬼市、集太郎の占いはあたーるよ。絶対だーよ」とペラアホは話しだした。
ペラアホが言うには、集太郎との付き合いはニャン吉と出会う二ヶ月前からであるが、その間も二回程未来を当てたらしい。
一つは自分達はこれから旅をする仲間になる事。
もう一つは三年前に視えたケルベロス五世が死ぬ事。
この二つである。
そして、ニャン吉について行く必要があると言う事も予言に出ていたらしい。
「それからーよ、俺は超能力を使えてーよ。半径十メートル以内の物を透視できるーんだよ。それで悪党外道の四面楚歌作戦の時に獄卒士の免許を覗き見したーんだ。俺は現在、集太郎は未来が視えるーのさ」
「蝶々の占いは百発百中なんで。滅多に視えんけどの。ペラアホもすごいけど」
「ふざけんな! そんなことあってたまるか!」と言うと鬼市は付き人達のいる所へと戻った。
ニャン吉達の大乱闘の最中、タレが夕陽を背に帰ってきた。タレはニャン吉を見つけるとすぐそばに降り立った。ビッグ5は驚き全員止まった。
「クエッ! ニャン犬! 今風地獄の皆にホムンクルスの目撃情報を聞いてきた。明日行くぞ!」
「タレ……今はそれどころじゃにゃい」
タレは振り向かずに「お前達、番犬候補共、明日のホムンクルス捕獲を手伝え、クエッ!」とほとんど命令口調で言った。
もっさん、イーコ、あああ、ジワジワは他の番犬候補と一味違う。すぐにタレの恐ろしさに気付いて逆らわないことに決めた。ニャン吉と同じ判断をしたわけだ。
溶けこっこがタレの所へ飛んで行く。
「ヘイヘイ! 久しぶりだなタレ! 帰ってきたぜ溶けこっこが」
「クエッ! お前もいたのか、久しぶりに焼き鳥でも食べよう」と言うとタレは溶けこっこへ研究所に入るように言った。タレも番犬候補達を背に研究所の方に歩いている。
「さて、次会った時は――」と捨て台詞を吐いて去ろうとするもっさんの背後にタレは回り込みもっさんを研究所へ蹴り入れた。
「クエッ! 逃げた奴は蹴り殺す」
イーコは渋々研究所へ入って行く。
あああは顔色一つ変えずに研究所へ入って行く。
ジワジワは一安心して研究所へ入って行く。
もし、ニャン吉は焼鳥タレを仲間にしてチーム邪王猫の前衛として戦闘に参加させていたら、一分ともたずにライバル達を全滅させていただろう。それ程火喰鳥は強いのである。
研究所の客間に全員入れられた。
イーコとジワジワはタレが自分の前を通る度に緊張している。
あああともっさんはタレから逃げる隙を探しているが無理そうなのを見て取ると諦めた。
タレは番犬候補達にホムンクルス捕獲を手伝った時の報酬の話を始めた。
「さてさてクエクエ。お前達! もしこの任務を手伝ってくれたらこの地獄の鬼の首を取らせてやる。私の一族は火喰鳥で門番をやっている。さて、どうする?」
全員急に態度を軟化してタレに従った。本当は従えねばならないのに……。
番犬候補の五強と呼ばれるビッグ5が一堂に会した。イーコとあああはメスでもっさんとジワジワはオスだった事が判明した。ジワジワは「あたしは気分で性別を選ぶのよ。その辺の奴と一緒にしないでくれる?」と何故か誇らしげだ。
タレと溶けこっこは焼鳥頬張って研究所のロボットにちょっかいを出している。その夜ロボットはいくつか残骸と成り果てたようである。タレは起きてきた歪んドールを黙って観察している。
「はっ! 魑魅魍魎共が。ああ? なんだこの馬鹿でかい鳥は。歪んドール様になんか用か?」
「クエッ! このガラクタ壊すクエッ!」
タレの目を見た歪んドールは危険を感じて骨男の所へ避難した。
サイクロ・ブス子は全身緑で目に優しい。大きい一つ目の周りにアイシャドウ、口には青い口紅、歯にはお歯黒をつけて大はしゃぎ。
イソギンチャクは水槽に入って「ふう、極楽極楽……いや! ここは地獄だ!」と迷走している。
クラブがフルートを吹く――滅茶苦茶うまかった。クラブは調子に乗って一本脚でクルクル回転して本棚にぶつかり、落ちてきた本の下敷きになった。
タレの目が光る中、皆この日だけは普段の対立を忘れて楽しむことにした。
――翌朝。
『余命二十八日』
もっさん、イーコ、あああ、ジワジワはタレの命令で各地へ散って行った。タレの提示した報酬は効果抜群だったようだ。
ニャン吉は自分のもらう報酬、『八大地獄図』については一言も語らなかった。
理由は二つ。
――一つは、八大地獄図は伏魔殿の貴重な資料であり、番犬候補はおろか獄卒士一種の免許を持つ者ですら閲覧制限がかかる資料であるから。
――もう一つは、ライバルの番犬候補に対して有利になるためである。
今回は博士が全面的に責任を持つ形で八大地獄図の写しをもらうことになったためニャン吉は手に入れる事ができた。世間では、地理歴史の資料集に簡略版が僅かに載っているに過ぎない。
――番犬候補五強の大乱闘は、焼鳥タレの強引な仲裁で止まった。気を取り直して、ホムンクルス捕獲作戦再開。
『次回「捕獲作戦開始」』
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