第3話
あれからしばらく立った日、あの時約束していたものができたので、佳代さんちに今度は美結がうかがうことになった。手土産にマドレーヌとサインが入った本をバックに入れていたら、チャイムが鳴った。
美結「はーい」
戸張『お迎えに上がりました。』
美結「すみません、もう少しだけ待っていてもらえますか。よかったら中に入ってください。」
戸張「すみません、少し早くついてしまいました。失礼します。」
美結「すみません、お茶も出せませんが、少し待ってください。」
戸張「いえ、お構いなく。」
しばらくして
美結「すみません。お待たせしました。」
戸張「いえ、大丈夫です。では行きましょう。奥様がお待ちです。」
美結「ありがとうございます。」
鍵を閉め、あの子たちは、部屋の温度管理ができる、リビングで留守番をしてもらった。
戸張「さあ、どうぞ。」
美結「失礼します。」
戸張「ここから30分ほどですので、退屈だとは思いますが、何か飲まれますか。」
美結「大丈夫です。それより、お土産にマドレーヌを作りましたが、30個ほどあれば足りますかね。」
戸張「大丈夫です。みな喜びます、ありがとうございます。」
しばらく、戸張さんと話していると、大きなお屋敷が見えてきた。
美結「すごく立派な建物ですね。」
戸張「大正6年に作られたそうです。」
美結「すごいですね。」
戸張「つきました。私は車をしまってきますので、中へどうぞ。」
美結「ありがとうございます。」
大きな門があり中に入ると庭園があり、玄関までが遠いと思いながら、玄関ドアの前に立ち、チャイムを鳴らそうとしたところで、玄関が開いた。
佳代「よくきたね。待ってたよ。」
美結「今日はお招きいただきありがとうございます。これ手作りのマドレーヌです。」
佳代「お菓子も作れるのかい。すごいな。」
美結「大量に作ったので皆様でどうぞ。」
佳代「それより、中にお入り。」
美結「お邪魔します。」
中に入ると、中年ぐらいの男女がこちらを見ていた。」
佳代「この人たちは、謙介の両親で、息子の謙治と美希ちゃんです。」
美結「初めまして、香坂美結と申します。」
美希「この子が例の子ね。とても楽しみにしていたのよ。」
謙治「そうだ、母さんが毎日毎日、あの子はねすごい子だって言うもんだから」
美結「佳代さん、何を言ったんですか。」
と小声で佳代さんに言ったが、佳代さんはお構いなしに、案内をしてくれた。
美結「こんな素敵なところ初めて見た。」
美希「私も最初はそう思っていたけど、今はだいぶ慣れたわ。」
美結「美希さんは恋愛結婚ですか。」
美希「そうよ。お義母さんに反対されるかと思っていたんだけど、意外と気にしない人だったみたいで、趣味が一緒っていうのもあるけれど、もう一つは料理もダメなの。」
美結「そうなんですか。」
佳代「なに話してるの。」
美結「恋愛結婚ですかって聞いてたんです。」
佳代「それね。」
まあとりあえず座ろうということになり、佳代さんが倒れた時のお礼も言われ、紅茶をいただきながら、作ってきたマドレーヌを食べた。
美結「そういえば例のものができたので、これを私に来たんです。」
佳代「例のもの?」
美結「新作です。サイン入りの」
佳代「うわー楽しみにしていた本できたのね。」
美結「印刷所で手違いがあったらしく、時間がかかりましたが無事完成できました。」
佳代「ありがとう。大切にするわ。あと、これもお願いできませんか。」
と、取り出したのは色紙だった。
美結「それは構いません。」
佳代「ありがとう。飾って家宝にしたいから」
美結「それはやめてください。」
佳代「ケチ」
美希「まずサイン自体レアなんですから。」
佳代「そうよね。」
美希「ゆっくりしていって」
美結「ありがとうございます。」
佳代「家の中、探検してみる?」
美結「いいんですか。」
佳代「ついてきて、私のお気に入りの場所に案内してあげる。」
美結「楽しみです。」
しばらく歩くと、離れになっているみたいで書庫があるそうだ。
おしゃれなドアを開けると、壁一面にずらっと並んだ本たち。
美結「こう見ると、圧巻ですね。」
佳代「あなたが出している本は、あの部屋に置いてあるの、よく見るから。」
美結「すごい…、あそこに行ってみてもいいですか。」
佳代「いいわよ。」
少し小さめのドアを開けると、人が横になっているみたいだった。
美結「うわっ」
謙介「…」
佳代「どうかした。」
美結「謙介さんがここで寝ているみたいです。」
佳代「あの子は本当にあそこが好きみたいね。」
美結「前からなんですか」
佳代「小さいときはここに入り浸って、なかなかでで来ないから、みんな心配して、探しに来ると、よくあそこで眠っていたわ。」
美結「それは大変でしたね。」
佳代「美結ちゃん、あの子起こしてくれる。」
美結「私でいいんですか。」
佳代「構わないよ。」
近くまで行き声をかけた。
美結「謙介さん、起きてください。」
謙介「うーん… えっ」
目が合うとびっくりしたように、起き上がったと思ったら
謙介「来てたのか。」
美結「はい、お邪魔してます。」
謙介「あーっと」
美結「なんでしょう。」
謙介「今度、私とデートをしてもらえませんか。」
美結「えっ、」
佳代「駄目かね。」
美結「佳代さん」
謙介「君に初めて会った時、一目ぼれしたみたいで、君を考えると、ここにきてしまう、なんか変態みたいだな。」
美結「デートはいいとしても、私は結婚したくないので、お付き合い程度になりますが、それでもよろしければ。」
謙介「絶対に君に結婚したいと思わせてやる。」
佳代「けんちゃん、よく言ったわ。佳代、全力で応援する。」
美結「佳代さん」
謙介「今日から恋人ってことでもいいよね。」
美結「構いませんが、仕事は結構忙しいし、時間もたくさんは取れないですよ。」
佳代「じゃあ、一緒に住んでしまえばいいじゃない。」
美結「えっ、どこにですか。」
謙介「ここでもいいし、君の家でも構わない。」
佳代「とりあえず、リビングに戻りましょう。」
美結「少し時間をください。」
佳代「構わないよ。」
謙介「でもできるだけ早めにね。」
美結「わかりました。」
美希「さあ、ご飯にしましょう。今日はちらし寿司ですって。」
佳代「美結ちゃん、ここに座って、一緒に食べましょう。」
美結「ありがとうございます。」
美希「これ、美結ちゃんの分ね。」
美結「ありがとうございます。いただきます。」
一口パクっと食べるとちょうどいい加減の酢飯に、錦糸卵とエビ、いくらととびっこに大葉の香りが程よくて、美味しくいただいた。
美結「美味しかったです。ご馳走様でした。」
美希「各務さんも喜ぶわ。」
佳代「このちらし寿司、私の旦那も大好きだったわ。」
美結「わかります。私も好きです。」
それから、しばらく佳代さんと話を咲かせ、2時ごろに家に帰ることになった。
美希「また来てね。」
佳代「さっきの話、ちゃんとかんがえてね。」
美結「わかりました。」
謙介「戸張さん、私が彼女を送っていきます。」
戸張「よろしいのですか。」
謙介「話したいこともあるので。」
戸張「かしこまりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
謙介「はい。ばあさん行ってくるよ。」
佳代「はい。」
美結「ありがとうございました。お邪魔しました。」
謙介「じゃあ、行こうか」
美結「よろしくお願いします。」
謙介さんの車は赤色のセダンだった。
美結「お邪魔します。」
謙介「どうぞ。」
シートベルトを締め、車が動き出した。
しばらく沈黙が続いたが、美結がしびれを切らせて声をかけた。
美結「あのお話とは何ですか。」
謙介「…、単刀直入に聞くけど、なぜ結婚したくないのかな。」
美結「あー、私の母に姉がいて、恋多き女性だったんです。
自分の母は普通の人だったんですけど、
両親は共働きで家に私一人でいることがあったんです。
まあ、小学校高学年でしたしね。でも、男と別れるたびに、
私の家に来てはよく母に泣きついたりしていて、
私の顔は叔母に瓜二つなんです。あの人みたくなりたくないっていうのもあり、
別に一人でもいいかなって思っていたのもあるけど、
それだけじゃなくて、元カレとは婚約していたんですけど、
もうすぐ挙式っていうときに、浮気をした上に、捨てられたんです。
もちろん世の中あんな人ばかりじゃないってわかってはいるんです。
でも結婚までしなくても、
人それぞれ幸せのカタチがあるんじゃないかって思いまして。」
謙介「俺は浮気なんてしないし、君を傷つけたりしない。もちろん意見の食い違いはあると思う。でもそこはお互いに歩み追っていきたいと思っている。」
美結「前向きに考えますが、まずは同棲の話を両親に話そうと思います。」
謙介「わかった。」
家に着く少し前に話が終わり、車から降りるとき
謙介「これ、俺の連絡先、何かあったら、いつでも連絡して。」
美結「ありがとうございます。これ私の名刺です。プライベートは後ろに描いてあります。」
謙介「大丈夫か。連絡待ってるから。」
美結「はい。送ってくださりありがとうございました。」
謙介は少し心配そうに見ていたが、美結が家に入ったのを確認してから、車を出し帰路に着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます