第16話 火の鳥
炎に包まれた風晴が、何事もなく出てきたのは蘇生、回復の魔法のようなものだと僕にわかりやすいように榊が教えてくれた。
フェニックス、不死鳥のことだという。東雲は、その能力を使い祓魔師協会の上層部にまで上り詰めたという。
「あいにく僕は、そこの風晴やほかのものと違って相手への攻撃は許されていない。」
東雲は、少し不機嫌そうな顔でそういった。ヒーラーのようなものだ。と榊が僕に耳打ちした。
「鉄壁の防御も強大な力があれば、最強。ってことさ」
風晴は、きっと東雲の実力を認めているからそういってるんだろう。なんだかこっぱずかしいらしい。普段やらない首の後ろを掻いている。
なんだか強力な助っ人がきたようで高揚した。
「ところで、その傷はどうしたんだ?」
東雲は、風晴に尋ねた。風晴はすでに完治した傷だった部分を撫でながら
「好戦的な悪魔が多いね。普通の一軒家にいていい悪魔じゃない。予想以上に数が多かったものだから。ふふ、僕としたことがね。」
「何かあるとみて間違いないだろう。僕はその家の悪魔を掃討に移ろう。君たちは、、」
「いいや、全部片してきたさ。行く必要はないよ。」
「・・・。」
「わかった。では、先ほど住民の避難は完了したと報告が入った。このまま雨神クラミツハの沈静に入ろう。」
「ええ!?」
「ああ、やっぱりねえ。」
「???」
「ヒロ君、わかりづらかっただろうからいうけど僕らは聖水をもらいにあの山に行く途中何者かによってとある龍神を現世に引き連れてしまったんだ。だからこんな大雨なんだ。」
「あんたは、気絶してたからわからなかったかもしれないんだけど、大きいドラゴンの姿でね。今この街の上空にいる。」
(そ、そうだったのか。気絶してたのか。。。)
暗雲の隙間、稲光とともに巨大な何かを感じた。まるで深海から見上げたようだ。雨は降りやまず。雷鳴、落雷、異常だ。雨粒は大きくボンネットにたたきつけられる雨音は今までに聞いたことがない。まるで別世界、近くにはダムがあるというのに、市民は避難したようだけど。この様子じゃ安全は安全という効力を発揮しているのかどうか。
「風晴さん、、、、空に、、、、龍が、、、、。」
風晴は悟った顔で上空を見た。先ほど感じた上空の気配は紛れもない、夢で見た龍だ。
「ありえない。可視化できるほどとは。」
東雲は、目を細め事態の重さを再認識した。
「これは一刻を争う。早急に取り掛からねば、僕らもどうなることか。」
榊は心配そうに両手を握り、くっと眉を細めた。
その時、黒い影が僕の体からすっと現れた。大きな体。これは榊と戦った時の。
東雲は大きく息を吸い少し緊張した素振りを見せた。
「敵は、龍神だけじゃないようだ。」
泥の中から、さらに黒い禍々しいと言ったら笑うだろうか。いやほかに形容しがたい四足歩行の人間が現れた。その肌は赤黒く、ひび割れている。赤土のようなその体躯に頭が一つ。よく顔を見ると老婆のような奴れた顔で目は文字通り、死んでいる。
しかも一匹二匹ではない。それぞれがいろんな形をした人間の場合もあれば犬のようなもの牛のようなものもいる。
「風晴、君がやられていたのはこいつらのことかい?」
「そうだね。それより数が圧倒的に多い。東雲、援護は任せたよ。」
榊、僕は騒然とした。これはなんだ。一生脳裏に焼きついて離れそうにないほど最悪なものだ。体の芯が一気に熱を奪われるような感覚。本物の悪寒とはこれだろう。
いや、そんなことはどうだっていい。風晴さんがあんな状態にされた敵がまだこんなにいるなんて。これはまずいんじゃないかという空気があたりを包んだ。
”気がした”
東雲は、風晴の背中を叩いた。パアアン。と少し響いた。
「風晴、行ってこい!!」
「ポ〇モン見たく言うなよ。」
微妙な表情をした風晴の背中には、大きな翼が半透明に浮かび上がった。
体にはいくつかも炎を帯び、宙に浮いた彼は、魔物の群れに飛び込んだ。
何も武器を持っていないのに、凄まじい威力の殴打。蹴り。
魔物は肉片となりえぐれた部分は、うずうずと呻いてそのまま動かなくなった。
しかし数は多い。斜面の向こう側ではまだまだ恐ろしい数の魔物が、列をなして待っている。
ところが、犬型の魔物に足を取られ、転んでしまった。
「風晴さん!!」
その隙を見計らい大勢の魔物が風晴に覆いかぶさる。嚙み千切るような音、拳を叩きつける音、うめき声に次第に飲まれていった。
「影!!!!風晴さんを助けて!!!」
榊の時より強く念じた。目の前で人が死にかけているのだから。
黒い影は、大きく飛び上がった。その着地の勢いであたりの魔物を一蹴する。
黒い影に風晴を連れて距離をとれと命じたが。黒い影は、そのまま魔物への攻撃へと移った。
「な、なにして、、」
ボロボロになった風晴はその場に倒れていた。ん?でも待てよ?
”なんで、一滴も血が出ていないんだ?”
東雲は、やっと気づいたか!と笑った。
「大丈夫、風晴は”今は絶対に死なないよ”」
よく見ると、風晴は手を後頭部で組みくつろいでいるではないか!!
いつものニタニタと笑みを浮かべ、こっちを見て笑っている。
唖然としているこちらに気づくと今度は、昼下がりにテレビの前でくつろぐオヤジのようなポーズをとっていた。
「あいつはああやってくつろいでいるけど、不死鳥の加護のおかげだよ。」
「東雲さんのおかげなのになんであんなことできるんですか!あの人!!」
榊は、お手本張りのツッコミをして見せた。
「ははは、でもユーモアがあっていいじゃないか。ほら!もう終わったみたいだ。」
ズン!!!!
大きな地響きに驚いた。振動の原因は、すぐ後ろにあると気づいた。
プシューーーーーーー!!
背後には、黒い影が機関車のように煙を吐き、たたずんでいた。
「あ、ああ、あ。ありが、とう。はは。」
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