第11話 陽光
榊の件があって以来、よく三人でいることが増えた気がする。
あれから数か月たったが、大きな呪いが襲ってくることもなく地元での仕事と両立していた。
仕事というのは、風晴のお付きみたいなことだ。お経を読んだり供養をしたりまじないをかけたり。はたから見れば胡散臭いことこの上ないのだが、確かにそれに縋る思いでも救われたいと思う人がいるのは確かだ。榊も一緒にいるわけだから、にぎやかで楽しいが現実から離れているようでちょっぴり申し訳なかった。
今まで、会社で労働を強いられる生活でそれがずっとこれから死ぬまで続いていくんだろうということだけは何となく理解していたが、こうやって祖母がごはんを作ってくれて、収入は本当に少ないけど何とか生きていける。罪悪感に似たこの気持ちはやがて人間としても余裕につながっていった。
呪いや樹齢に関して風晴にいくつか教わった。机上の空想に過ぎないと思っていたものをまのあたりにしたとき人はそれを常識として受け入れるか拒絶するかだ。
もちろん科学的に証明は難しいだろう。人の思念や恨みなどは科学的に証明ができないのだから、ただ存在を定義されているものに関して絶対に存在すると証明するのは根拠がいるが、絶対に存在しないと証明するのにも根拠が必要ということだ。UFOも然り、幽霊も然りだ。人が知りえるわずかな情報で一体何をわかったつもりでいるのだろうか。と風晴はいつも愚痴をこぼしていた。
風晴と榊、そして僕は隣町にある依頼のあった家まで車を走らせていた。
隣町までは車で一時間ほど。
程よい陽光が眠気を誘う。あまりにもうとうとしていたので、榊が運転を代わりにしてくれた。風晴は後部座席で寝ていた。運転している最中風晴は足をずっと僕の運転席側にひっかけていたので何とも言えない匂いで文句を言ったが寝たふりをされた。
ちょうど自動販売機のあるところで運転を変わった。車を降りた僕はたまらず伸びをした。風がねぎらうように冷ややかな風を与えてくれた。榊を伸びをしてあくびまでしていた。
「榊、あくびしてるけど運転大丈夫なの?」
「ははっ、ヒロよりかうまいよ?私。」
「そ、そうか」
「何か飲む?」
「あ、いいの?」
榊は窓から寝ている風晴に向かって、
「何かのむっすか?風晴さあん?」
後部座席のドアが開き、のそっと風晴が出てきた。
「ん、ミックスジュースで。」
そういうと奇声に似たあくびをし、こちらに来た。
「運転お疲れさん。」
「どうも。」
「使えるだろう?うちの姪っ子は?」
「そうですね。助かります。」
そういって薄目をあけながら煙草に火をつけた。
僕もたばこを吸おう。なんせこの車は、、、って
「姪っ子!?!?!?!?!」
「そうだよ?」
「初めて聞きましたよ。」
気を取り直してジッポで火をつけた。
「安心した?」
「何をですか。」
榊が戻ってきた。
「はい、ミックスジュースとコーヒーね。」
「ういー、ありがとさん。」
「あ、ありがとう。」
三人、仲良く車にもたれかかり一休憩。
「あ、ごめんコーヒーでよかった?」
グイっとこちらに詰め寄り聞いてきた榊に思わずドキッとした。
「ああ、うん!ちょうどそれにしようかと思ってたからさ。」
「そうか!!よかったああ!!ブラックコーヒーとか洒落てんじゃーん!」
少し強めの、、いやかなり強めのボディタッチ。
「いてて、、、、あ、あはは。」
ふと風晴がこちらを見ていることに気が付いた。
視線あうと風晴は腹立たしい笑みを浮かべた。
(っくう!この男は!!)
「んじゃちょっくら小便行ってくるわ」
そういって茂みの中に消えていった。
気を取り直して、煙草に火をつけようとした時。
「ねね!ひろくん!」
「え?、なに?」
「実はね。」
突拍子もない自慢げな顔に予測不能なものを感じた。
「ほい!」
榊は、小指をピンと立てて小指の後ろで小さな顔がにやにやと見つめていた。
「な、なんだよ。」
「ふんっ!!」
なんと小指から、ライターほどの火が付いたではないか。
びっくりした。思わず咥えた煙草を落としてしまった。
「榊さん、これって、、」
「パイロキネシス!の強化版って感じかな。普通は、物体を燃やすだけなんやけど。何もないところに火を作り出せるみたい!」
「ななななにそれ!ちょうかっけえ!!」
「ほらほら、師匠のありがたい火だぞ!受け取りたまえ!」
「ああ!あ!あざっす!師匠!!」
急いで煙草を拾い、火をつけてもらった。
「おーーーーーーい。あんまり乱用するなよ?」
「わかってるってば!」
煙草を咥え、ズボンのチャックを閉めながら風晴が戻ってきた。
一服後、彼らは旅路へと戻った。榊はスマホから流している音楽にノリノリだ。
僕も、火、出せないかなあ。。。
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