第8話 疾走
帰宅すると、祖母は暗い部屋でうとうとしていた。
テレビでは、CSの時代劇の剣劇の最中だった。
「ばあちゃん、帰ったよ。」
「ん?ああ、帰ったとね。」
「うん、今日風晴さんから夜呼ばれとるんだよね。」
「さっきまでおったばい。」
「そうなんや。なんか言いよった?」
「なんも。」
祖母は笑いながら言った。祖母は風晴の”そういうところ”を気に入ってるみたいだ。
「晩飯は、あんたの分は用意せんでいいとだけいいよった。」
「そうなん。ならたらふく食ってるわ。」
「なんばいいよっとかね。」
祖母は、笑いながら立ち上がり冷蔵庫に買ってきた食料を入れる僕のところまできた。
「きゅうり、今日つけたと?」
「そうばい。食ってんない。」
タッパに、皮をむいて半分に切られたきゅうりを祖母は持ち出し包丁で切り始めた。
納品を終えた僕は、玄関に腰掛け煙草に火をつけた。
そういえば、ハローワークに行くのはまた今度にした。
待ち合わせ時間前に、僕は仮眠をとり髭をそって風晴の車を待った。
待ち合わせ時間五分後に風晴が来た。クラウンマジェスタ。さわやかなのに柄が悪いなあと思いつつ土足厳禁の車に乗った。
風晴が務めている寺は、勾配のある坂にある。駐車場に車を止めると
「ついたよ、というか今更だけど急に呼び出して申し訳ないね。」
「いいですよ、焼き肉ですか?」
「鼻がいいね君は。」
「帰りは、僕が送っていくから。
駐車場の奥で、バーベキューをしている人が三人ほどいた。
「ああ!!?ヒロ君!!」
「え、榊さん。。。」
その場には、昼間であった同級生だった。
昼間はどうやらこのための買い物をしていたらしい。
「あれ?知り合いだったのかい?そこ二人。」
「高校の同級生なんですよ。」
「あなたがヒロト君ね、初めまして。」
その横には、30代くらいだろう夫婦がいた。にこにこと優しい笑みを浮かべながら男性が話かけてきた。」
ふと疑問に思った僕は、
「これはどういう集まりなんです?」
訪ねると夫の森田良英がおずおずと答えた。妻の方を見ながら
「実は、数日前から妻の様子がおかしくて。除霊をしにこの町まで来たんです。」
「そ!はるばる東京からここまで来てくれたってわけ。」
「それで、、、焼き肉を?」
すると細身の女性、森田千恵美が気まずそうにしているのをみて
「これは妻の除霊祝い。というといい方変ですが、復帰祝いもかねて風晴さんがこの場を設けてくれたんです。」
(どう?優しいでしょ。)と言わんばかりの目線で、こちらをみて肉をもくもくと焼いている。
そういった会話をしている間、榊はずっとこちらを見ていた。
話す機会をうかがっているのだろう。正直、肉が食えるのはありがたいことなんだけど、人と話すのは本当に嫌だ。
榊は、頬張った肉を飲み込み。ビールを流し込むと
「ねね、ヒロ君私には聞かないの?」
「な、なにを。。?」
「なんでここにいるかだよ!」
風晴は、腰掛けたBBQ用の椅子に肘をついていじわるそうに。僕が聞く前に聞いた。
「なんでいるのオ。??」
「いや!ちょ!言い方!!」
風晴は、笑いながらビールに手を伸ばす。
榊は、僕の方をみて目を輝かせながらいった。
「実は、私ここにお寺の娘なんだよね!!」
「そ、そうなんだ。。」
どうやら学生のころには黙っていたらしく。今になって今後役に立つかどうかもわからない情報を提供してくれた。
BBQを終え、椅子に座って談笑に花を咲かせていた。
森田夫婦の話や、その後のどうするかなどたくさん話した。
酒も進んだ、榊さんとの懐かしい思い出話も、ちょっとだけ楽しかった。
しかし、僕は我に返り。
「って!!!!風晴さん!?酒飲んでるじゃん!!!!僕の帰りの運転は???」
「はははは!!気づいたか~~~!!今日は泊まっていきなよ!宿泊代は安くしとくからさ。」
するとびっくりした榊は、
「ええ!あそこ全然掃除してないし、汚いですよ!」
寺には昔、経営していた宿泊施設がある。風情ある宿で、最近は使っていないらしい。
「あはは、大丈夫でしょ!女の子じゃあるまいし!」
森田夫婦は、木魂館という宿泊施設を利用することが決まっていたのでそちらに帰っていった。
しばらくして、榊は「よし!」と腰を上げ寝ている風晴を起こした。
「風晴さん~。起きてください~!片付けましょ~~。」
器用に椅子にもたれかかり寝ていた風晴は、完全に酔っているらしく。大きなあくびをした。
「んあ~~~~~!!うう、飲みすぎたね。片付けは明日やるよ。。」
と言って寺の自室に、のそのそと帰っていった。
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