第7話 動き
風晴は、その後所有しているスクーターに乗って帰った。半ヘルゴーグルで雨の日はどうしているんだろうと思った。
この町のほとんどの人間がこのスーパーを利用している。何せここともう一つのスーパーしかこの町にはないからだ。
スーパーの裏には、高校があり足しげく通っていた。放課後友人と買い食いをよくしたものだ。
知り合いに会いたくないというのが、一番だが。同級生なんてほぼほぼこの町には残っていないだろう。
さっさと総菜や生活必需品を買って、
「おおお~~~!ヒロト君だよね!久しぶり!」
大きな声で後ろから名前を呼ばれた。ふと振り向くと高校の同級生の榊 美玖 がいた。
「あ、ああ、榊さん。日、ひさしぶりですね。」
最悪だ。よりによってこの女か。
「ちょ、なんで敬語?あはは。」
そういいながら、さも僕が面白いジョークを言ったかのように肩パンチをしてきた。
ボディタッチが多い女はよろしくないって。
「っていうか帰ってきてたんだ!早くいってくれればいいのに!」
「ああ、ごめんっ。き、昨日帰ってきたばっかだからさ。」
「ふうん。そうなんだ。私はもう一年たつよ、こっちに帰ってきてから!」
「そ、そうなんだ。ぼぼ、僕はおばあちゃんに頼まれて買い物してたところだから、その」
「ははははは、変わんないね!ヒロ君、ラインだけ交換しよ!」
「あ、ああ。うん。わかった。」
高校では、あまりいい思い出もなければ友人が多いわけでもないから。できるだけこの界隈からは離れて生きていたかった。
って、ライン??うわ、まずい。ラインのアイコンが推しの女性サーヴァントだった。
「はいこれ!QRコード!」
「あ、はいはい。」
バイブレーション音とともに、mikuと英語表記で彼女のアカウントが出てきた。
「あ、それそれ!また今度、話そうよ。じゃ!私も用事あるからまたね。」
そういって、なにか思い出したかのように榊 美玖は走り出した。
「ラインのアイコンには触れないんだな。」
女の人と話すのはいつぶりだろう。心音が響く。心地よいような。懐かしいような。もどかしいような。それでいて夢のような。
スーパーには道順がある。依然足を悪くした祖母に付き添って買い物によく一緒に出掛けた。当時は車いす生活だった祖母は、今や元気に片道15分の山に毎日のように出かけている。
仕事に就けるのかどうか、というかこれから”あの件”についてどうすごせばいいのか。そんなことを考えていた。
そんな時だった。
携帯に着信が入る。慌てて携帯を見ると風晴からの電話だった。
「はい。もしもし?」
「ああ~ヒロト君。悪いね、急に今日の夜暇かい?今後のことについて話したくてね。」
「空いてますけど、」
「そしたら、今日の夜九時くらいにうちの寺によれるかい?」
「わ、わかりました。」
「うん!そいじゃ!」
テロン。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます