第5話  妖

使い古された木製の机に、三人は正座で行儀よく座っていた。

机の高さは低く、子供の落書きもシール貼っていない。左の頬が風晴に殴られたせいで腫れ、祖母と風晴に対面して座っていた。


「今まで黙っていたけど、んん、まあ、なにから話そうか。」


「あんたは、よう漫画やらアニメやらみよったけん話の飲み込みは早かろうばってんがうちは、ある呪いによってたたられとるんよ。」


「まあでも、呪いと戦うとかそういうんじゃないから安心してよ。世界には、いや日本にはそういった怪異や呪いが現存している。」


だめだ。頭が回っていないのか。ぜんぜんついていけない。

風晴らの後ろには、あの死体が未だ放置された状態だ。


「とりあえず、棒ジュースでも食わんかい?持ってきちゃる。」


祖母は、何年か前に事故で患った足をかばうように立ち上がり冷蔵庫へ向かった。



「君のその背後にいる黒い影はいわゆるそれだよ。」


「え!?見えるんですか?」


「厳密にいえば、今は見える。なんだよね。君の意思で現れていないのであれば、きっとそいつの意思なんだ。」


「は、はあ。」


「今回このような事態になったのは、君の家に送られてきたとある、”箱”のせいなんだ。」


風晴はおもむろに神とペンを戸棚から取り出し、絵を描き始めた。


「通称”コトリバコ”これは、割と有名な呪いの一つでね。送った相手、いや下手したらこの地域の女子供、いやいや本当に下手したら全員死んでるくらいの代物だよ。」


「それがうちに送られてきたんですか?」


「そそ、君がまだ小さいころにね。」


「一体だれが、」


「それがまだわからんとたいね。」


祖母が棒アイスを包丁で半分にしてコップにいれて持ってきた。


「ほれ、食べない。」


「おお、懐かしいですね。おばちゃん。いただきますね!」


よくもそんなに食えるもんだよ。後ろに死体があるっていうのに


「僕にかかれば、コトリバコの解除方法なんて手順を踏めばできるんだけど。厄介なことにねェ~。」


祖母の目つきが変わり、


「風晴ちゃん。やめちょきない。」


「いいや、おばちゃんただの説明だから。」


「コトリバコの強さは生贄の数によってきまる。」


急に顔つきが変わった風晴に唾をのんだ。


「ど、どれくらいなんですか?」


「一人だと。イッポウ、二人だとニホウ、三人だとサンポウ、このようにシッポウ、ゴホウ、ロッポウ、、」


「今回、送られてきたコトリバコは、」


風晴は、祖母の顔を見ながら


「厄介なことにねえ」




「ハッカイ。つまり八人の子供が犠牲になってるんだよ。ヤッカイなことに。」


「ブフーーーーーー!!」


「うっわきたな!ばあちゃん??」


声を殺して机に突っ伏して笑う祖母。風晴はにやにや。


「いいや!笑えねえよ!!なんだよこの人たち!!」




「いやいやほんなこつわらいごつじゃなかばい。」


祖母はすっと真顔になり淡々と説明を始めた。コトリバコは某〇ちゃんねるで聞いたとこがある。島根県とかあのあたりの話だったような。


「コトリバコの除霊には時間がいる。最低でも長時間は神社に奉納して何十年も待たなきゃいかん。」


「そ、まア今は阿蘇の方の神社でお願いしてるけど。完全に除霊できるのはまだまだかかりそうなんだ。」


「そんなもんが直接送られてきたっちことは、こん家も危なかとたい。」


「箱本体の呪いも恐ろしいけど、本当に恐ろしいのはそれにつられてくる呪いなんだ。それがあれなんだよね。」





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